「…だから言ったじゃないですか…緊張してはいけないと…」
「ああやってしまいました…どうしましょう…」
俺は部屋の中で落ち込むアリエル様をなだめる
まぁ、落ち込む姿も、また良いものだ
「第一印象は最悪…ここからどうやって信頼されれば…!」
「…落ち着いてください…リラックスですよ…焦っても…何も解決しません…」
確かに、あのくだりを見る限り、好意的な印象は持てなかった
だが、今はそのことを嘆いても始まらない
次のことを考えれば
後悔先に立たずというやつだ
…使い方はたぶんあってるはずだ
「はい落ち着いて~…手足をブラブラさせて~…深呼吸~…」
「わ、分かりました…スゥ―…ハァー…スゥ―…ハァー…」
「はい…暖かい…紅茶です…」
「ありがとう…スモーク」
紅茶を一気飲みした後、彼女は溜め息を吐いた
だいぶ落ち着いたようだ
顔色もよくなっている
「フゥ…落ち着きました。ありがとうございます。スモーク」
「いえ…俺はあなたの護衛…これくらい…当たり前です…」
にしても、どうしよう
ペルギウスを仲間に引き入れて王様なっちゃおう作戦…俺が勝手に言ってるだけだが
この作戦を成功させるには、この訪問で、アリエル様がペルギウスと懇意になることが絶対条件だ
しかし…
「どうしたものですかね」
「…ホント…ですね…」
俺は紙に要点をまとめる
ぶっちゃけ、話すよりこうした方が早いのだ
【ペルギウス攻略メモ】
・魔族が嫌い
・アスラ王国が嫌い
・芸術が好き
・魔術が好き
・俺とルーデウスには当たりが強い
「…今の所…分かっているのは…こんな感じ…ですかね…」
「ふむふむ…」
俺は棒で紙の【アスラ王国が嫌い】の行を指す
「…これが…この作戦の…一番の懸念点…です…」
「そうですね…」
「…このせいで…我々のペルギウスに対する手札は…大いに限られます…ならば…攻める場所は…」
その次に、俺は【芸術が好き】【魔術が好き】の行を指す
「ここです…!…ここなんです…!」
「ここですね!」
「そうです…アスラ王国の話をせずに…城内の芸術品を…誉めまくって聞きまくる…とにかく…興味を示すんです…!」
「分かりました!やはりあなたは頼りになりますね!」
「…えへへ…オホン…それでは…失礼します…」
良し
俺はアリエル様の部屋から出た後、一人でガッツポーズをとる
今日はいい日だ
明日からまた、アリエル様と一緒に城内を回ってみようか
そんなことを考えながら、俺は眠りについた
突然のことだった
本当に分からなかった
気付けなかった
そんな素振り見せなかったはず…
いや
兆候はあったのか
最近ずっと、咳きこむことが続いていた
でも
まさかそんな
そこまでとは思わないじゃないか
今までと何も変わらないと思うじゃないか
『ルーデウス!七星は!?』
俺は扉を蹴破りながら聞く
『どうなんだ!どうなってる!』
ルーデウスとシルフィに抑えられ、俺は無理やり椅子に座らされる
『落ち着いてくれ!煙田!』
「落ち着いてよスモーク!」
いつもの名前と、日本での名前
自分の名前を二つも呼ばれ、俺は流石に少し冷静になる
「あぁ…ごめん…シルフィ…悪かったよ…ルーデウス…もう落ち着いてる…大丈夫だ…本当に…」
七星が倒れた
とてもすぐ治るような容体には見えなかった
俺は一度落ち着くためにと、外に出された
一応、シルヴァリルさんが俺と一緒に着いてきてくれた
城塞のギリギリに立ち、上から雲を見る
「そんなところに立ったら危ないですよ」
「いいだろ…別に…アンタが俺を落とすなら…話は別ですがね…」
苛立ちをぶつけるように、俺は強く当たってしまう
だが、シルヴァリルは笑うだけだった
「大事な客人にそのようなことは致しません」
「ハァー…なら良いですよ…」
そのまましばらく無言が続いた
彼女の方を見ても、ただ薄っすらと笑みを浮かべるばかりで、何も話さない
そして、俺は気まずさに耐えられなくなり、口を開いた
「彼女の病気のことを…教えてください…」
そう言うと、彼女は待ってましたと言わんばかりに説明してくれた
「はい、彼女の病気はドライン病です。その昔、人間がまだ十分な魔力を持っていなかった頃に生まれた病です。魔力を持たぬ者が、その身に魔力を蓄積させることで発症します」
「…そんなことは…どうでもいい…」
また怒鳴ってしまった
「…治るかどうかを…聞いてるんです…」
シルヴァリルの顔が曇り、俺から目を背ける
「現状、ペルギウス様が仰っていることには、彼女の時間を停滞させ、地上の人間に治療法を探させるということです」
「そんなこと…!」
彼女にとって、果たしてそれは救いなのか
一刻でも早く元の世界に帰りたい彼女にとって…
考えても仕方ない
俺は城塞の縁から降り、城へと向かう
「どこへ行かれるのですか?」
『…アイツの所だよ』
俺は部屋に向かう途中で、皆と出会った
歩いてきた方向からして、皆は七星の部屋に行っていたようだ
「…どう…だった…?」
皆は何も言わなかった
言えなかった
俺は少し待った後、黙って横を通り過ぎた
彼女の部屋の前に、ペルギウスの精霊が立っていた
見張りなのか、警護なのかは分からない
「…中に…誰か…?」
「ルーデウス殿がいらっしゃいます」
「…そう…ですか…」
俺はしばらく座って待つことにした
それから間もなく、中から怒鳴り声と破壊音が聞こえてきた
その後に泣き声
七星のものだ
俺は頭を抱える
どうしたものか
そんなことを考えていると、ルーデウスが出てきた
『どうだったよ…?』
ルーデウスの顔はかなり憔悴していた
『…今のアイツには気休めの言葉とかかけられない。止めといたほうがいいかもしれないぞ…』
『そうか…でも、俺はこう思うんだ』
俺は立ち上がり、部屋の扉の前に立つ
『やらない後悔より、やって大成功ってのが一番、とね』
そう言うと、ルーデウスは少し笑って言った
『俺にはやらなきゃいけないことが出来た。手伝ってくれるか』
俺は拳を突き出し、答えた
『断る理由が無い』
ルーデウスは、俺の手に拳を合わせた後、去っていった
『スゥ―…良し』
俺は深~く息を吸い込み、扉を開ける
『…よ』
『…』
『座っていい?』
『…』
『沈黙は肯定とみなすぞ』
『…』
『大丈夫ではないよな』
『…ってよ』
『なんて?』
『出てってよ!』
七星が俺に向かって拳を振り上げるが、その腕は空中で止まってしまった
『ゲホッ…ゴホッ…』
『あまり動かない方がいい。マジで言ってるぜ』
『…』
『ま、話がしたくて来ただけだ。ゆっくり聞けよ』
『…怒る気力も湧かないわ』
『だろ?よく言われる』
『…』
『率直に言う。俺はお前を助ける』
『…』
『お前が無駄だとか、哀れみだとか思っても、そんなの知るか』
『…』
『俺はお前の友達だ。お前がこの世界を嫌っても、この世界から消えても、俺はお前から離れてやらない。絶対な』
『…』
『お前は絶対に日本に帰る。その時に、一瞬でもいいから、お前が俺達のことを思い出すようにしてやる』
『…』
『絶対に忘れさせてやらない。俺達のことを無かったことになんかさせない』
『…』
『この世界のことは嫌いでも構わない。俺と世界には、あんまり関係ないからな。でも、俺と出会えて良かったと思わせてやる。そうすれば俺の勝ちだ』
『…勝ちって…』
『だから、そこで寝てろ。次起きた頃か…その次くらいには、もうすっかり治ってるさ。』
『…ホント?』
『あぁ、これは確定事項だ。あいつらと約束したからな』
『…フフッ…治らなかったら…呪うわよ…』
『ハッ。あぁ、呪い殺す所までやっちゃってくれ』
俺は部屋を後にした
扉を完全に閉め切り、自室に戻る
誰も入らないように扉を施錠する
まぁ、もしペルギウスが部屋の内部を監視していたりする可能性もあるが…
もう
無理だ
立っているのも…限界…だ
『ガハッ…ゲホッゴホッ!』
俺は洗面台に血を吐く
『クソったれが…』
俺には魔力が無い
絶対に治療法を見つけてやる
アイツの為に
俺の為に