部屋の中では呼吸音と、一定のリズムで床を叩く音だけが響いていた
俺がひたすら貧乏ゆすりをしている音だ
ルーデウスとザノバは、そんな俺の様子を見て落ち着かせようとした
「落ち着いてくださいよ」
「そうですよ。焦ったって良いことはありませぬ」
「だからって…もう…二時間は…待ってるんだぞ…」
イラついた様子の俺を、兵士がなだめようとしてきた
「アトーフェ様は不死故に、時間の感覚にルーズなのです…もうそろそろ来るはずなのですが…」
「…あぁ…そうですか…」
時間が無いんだよ
七星にも、俺にも
とっとと来て、二、三言手短に喋って、帰らせて欲しい
でも、気になることはある
不死ねぇ
それに王なんだろう?
だったら、ちょっとくらいぶん殴っても許してくれるくらい、寛大な御方なんだろうなぁ
そんなことを考えていると、後ろから女が入ってきた
見た目は青い肌にコウモリの翼
顔は……まぁ好みの部類だ
…なんで俺は、初対面の女性の顔を偉そうに評価しているんだ?
何かルーデウスに話しているが、俺には分からない
また魔神語か
女は玉座の前に仁王立ちし、地面に剣を突き立てた
「ーーーーアトーフェラトーフェ・ライバック!(オレが不死魔王アトーフェラトーフェ・ライバックだ!)」
名前しか聞き取れなかった
彼女が魔王か
すると、兵士の一人がなにかをアトーフェに告げた
この感じは、説教しているようだ
アトーフェと兵士は言い合いになり、兵士が殺されてしまった
本当に、このテンポ感で殺されたのだ
マジの話だ
『ええぇえぇえ!』
俺はだいぶ驚いてしまった
並んでいる兵士は、殺された兵士に駆け寄るだけだ
普通、上司に同僚が殺されたら逃げるだろう
普通は
魔族って…全員こんな感じなのか?
ペルギウスが嫌っているのに、少し納得してしまった
ルーデウスとザノバの方を見ると、二人も引いている表情だ
良かった、俺のが通常の反応のようだ
『…え、ええええぇええぇえ!?』
そして、俺はもう一度驚いた
兵士の死骸をみると、煙を出しながら再生していたのだ
兵士は立ち上がると、またアトーフェと日常会話のようなテンションで話し始めた
なんでそんな冷静でいられんの?
たとえ不死だとしても、そういうのはちゃんと怒らないとだめだろう
またアトーフェが胸を張り、しっかりと立つ
兵士たちが剣を抜き、ポーズをとる
「ーーーーアトーフェラトーフェ・ライバック(オレが不死魔王アトーフェラトーフェ・ライバックだ)」
また名乗った、ということだけは分かる
そうして、ルーデウスとアトーフェが話し出した
俺とザノバは、二人で黙って跪いておいた
ちょっと会話をしてから、アトーフェが怒鳴りだしてしまった
俺はばれないように彼に聞く
『どうかしたかルーデウス?』
『あ…あの…褒美として十年ほど軍門に下れと…』
なんだと
そんなことしてたまるか
俺は七星の治療のためにも、元の場所に戻って、アリエル様と共に行かなければならないのだ
『断れ!お前コミュ力高いだろう!なんとかして断って帰らせてもらえ!』
『俺だってそうしたいですけど、この人話聞いてくれないんです!』
そんなことを言っていると、アトーフェが剣を地面に力強く叩きつけた
俺達がビビっていると、彼女は訳の分からない言葉でわめき始めた
そして、剣を抜き、振り回しながら俺達に迫ってきた
それは、当たったら余裕で死ねるやつだろう
『待て待て待て!』
俺は咄嗟にフォースで動きを止める
コイツは強い
かなり力を込めているのに、少しずつ近づいてきている
ヒュドラも止めたことがあるのだ
俺は、自分のフォースに少々自信を持っていたのに、コイツの強さは尋常じゃないものだ
すると、アトーフェの顔に笑みが浮かぶ
まるで、自分と同じくらい力が強くなった子供の、成長を悦んでいるような顔だ
はっきり言って、すごい怖いよ
女性から笑顔を向けられて嬉しくないというのは、これが初めてかもしれない
『マジで…ごめんなさい!』
俺は手を振り、アトーフェの身体をフォースで投げ飛ばす
すると、思ったより力が入ってしまったのか、アトーフェは壁を突き破り、そのまま外へ落ちていってしまった
「アトーフェ様!」
兵士たちが壁の穴から落ちるアトーフェを覗く
…そういえば
こいつらも不死なのだろう
…うん、一応やっとくか
『悪いね!』
俺は両手をかざし、部屋に居た兵士を外へと吹き飛ばす
「ギャアアアア―――!」
やってから思ったが、もしかしたら一人くらい、普通に死ぬ奴もいるかもしれない
…まぁ、その時はその時だ
「…うし…逃げるぞ…ザノバ…ルーデウス…」
「は、はい!キシリカ様はどうなさいますか?!」
「…一応…連れてくぞ…!」
「早く行きましょう!まずはクリフ先輩と合流です!」
「すまんのう、お主ら!恩に着るぞ!」
「エリナリーゼ…ソーカス草は…?」
「確保しましたわ。お三方、何をそんなに急いで…?」
「早く行きましょうぞ!」
「説明は後です!急ぎ逃げましょう!」
「…やばい…やばい…」
「地上じゃ!入口から逃げるのじゃ!」
俺達はドタバタしながら、ひたすら走って逃げて行った
魔王城を出て、大通りを抜ける
冒険者ギルドの前を通り、市場を過ぎていく
『転移魔法陣までの距離は!?』
『あと少し!あと少しです!』
魔法陣のある洞窟はもう目前だ
だが、遅かった
既に、アトーフェと兵士数十人が、魔法陣の前に陣取っていた
アトーフェは高笑いし、分からない言語で話し出す
『ルーデウス、アイツなんて?』
『あぁ…自分に勝てば勇者と認め、負ければ一生奴隷だよ…と』
ふざけんなよな
そんな気は毛ほども持ち合わせていないものでな
「…なぁ…ルーデウス…ザノバ…」
「はい?」
俺はゴニョゴニョと、二人にある作戦を伝える
エリナリーゼから、大きめの空袋を貰い、背中に担ぐ
「…よし…やれ…」
「分かりました!」
〈アトーフェ様!話があります。一度、ウチの剣士の一太刀を見ていただけませんか~?!〉
〈そうやって騙すつもりだろう!オレは賢いんだぞ!〉
〈怖いんですか?〉
〈何?!〉
〈たった一撃くらうだけで、負ける程度の実力であると?〉
言葉は分からないが、彼女の顔がどんどん赤くなっていく
いいぞ
順調に怒らせているようだ
〈そんなわけあるか!何発くらったって、お前らに負けるものか!〉
ルーデウスがこちらにサインを送る
どうやら、食いついたようだ
〈さぁ!どこからでもかかってこい!〉
「言質取りました!やっておしまいなさい!スモーク!」
「…おぉ!…」
俺は走り出し、ライトセーバーを光らせる
〈来ぉい!〉
魔王・アトーフェラトーフェ・ライバックの倒し方講座
まずは一撃で四肢を切り落とします
これで少しの間は反撃されません
〈ほう…中々やるでは…〉
油断しているうちに、胴と頭にも、もう三太刀くらい入れておきましょう
そして、ここからが重要な工程です
再生する前に、身体を素早く、手持ちの袋の中に入れます!
〈待て!何をしている!〉
ココを急がないと、ガチンコ勝負になりますので、手早く済ませましょう
全て入れ終わったなら、袋の口をきつく縛り…
「これでよし…ザノバ…!」
「分かりました!」
袋を地面に置いて、ザノバにひたすら殴らせます
〈ガハッ!ゴボッ!ブゲェッ!〉
袋の表面に血のシミがついていく
だが、そんなのお構いなしに、俺とザノバはアトーフェの入った袋を、文字通り袋叩きにする
『オラ!オラ!くらえ!オラ!』
「ハァ!トリャ!オオリャア!」
しばらくこのまま、アトーフェが、ザノバを見るだけで震えあがるようになるまで、殴り続けておこう
「クッ!ルーデウス!」
「分かってますよエリナリーゼさん!」
まずいな
二人が兵士に襲われている
アトーフェ袋はザノバに任せといて大丈夫だろう
「ザノバ…俺はあっちを…」
「はい!ここは余に任せてください!」
俺はライトセーバーを空高く投げ、二人の方へ走り出す
「上から来るぞ!」
兵士の何人かは、空を見上げ、ライトセーバーを避ける
「当たるか!」
それは甘いんじゃあないの?
俺はフォースでライトセーバーをブーメランのように回転させ、兵士を鎧ごと切り裂いた
「何!?」
兵士が二人から離れ、俺を取り囲む
手元にライトセーバーを戻し、俺は兵士に告げる
「…死なない奴だけ…かかってこい…」
半分くらい兵士が後ずさりした
だが、逆に言うと、残り半分はやる気だそうだ
俺と兵士は互いに剣を構え、向かいあう
「ハアァッ!」
「…フゥー…」
俺は息を整えたまま動かない
剣先がどんどん俺に近づいてくる
「終わりだ!」
ふん、果たしてそうかな
「…フォース!」
鼻先で兵士の動きが止まる
「…な…に…」
俺はゆっくりと、一切力を込めず、兵士の首を落としていく
馬鹿正直に突っ込んできやがって
だ~れが真面目に戦うって言ったよ?
首を落としてから気付いたが、あの人語を話す老兵はどこに行っ…
「…バーニングブレイズ!」
「…な!」
老兵が、鎧に炎を纏いながら、俺に突っ込んで来た
何て言ったっけ…
ムーイ?いや、確かムーアだ
まさかこんな捨て身の策を使ってくるとは
だが、確かに有効打だ
この距離ではフォースを使っても意味がない
衝突の瞬間に、ライトセーバー彼の身体に突き刺したが、ご丁寧に抜けないように掴まれている
それに炎がシンプルに熱い
――ムーアは、勝利を確信していた
自身は、彼奴の全ての手札を封じた
念力も、光剣も、もう使えない
このまま逃げている少年へ突っ込み、全員一網打尽にしてやる
そう思った瞬間、ムーアの視界がぐらつき、地面が見えた
何が起こった
ムーアは首をもたげ、剣士の少年を見る
「…剣が…抜けている?」
なぜだ
確実に体に刺して、固定したはずなのに
「疑問か…まぁ…こういうことだ…」
俺はライトセーバーのボタンを押したり、離したりした
光刃が出し入れされる
「そういう仕組みなのか…?」
「…そういう…仕組みなんだ…」
俺は剣を振りかざし、ムーアをバラバラにする
よし、これでクリフも逃げられるだろ…
そう思った矢先、洞窟から兵士が出てきた
まずい
俺はそれを見た瞬間に走り出す
なんで気付かなかった
先回りしてるんだからそりゃあ中にも兵を仕込むだろう
クリフが襲われたら一巻の終わりだ
薬が奪われれば、ここに来た意味がなくなる
ライトセーバーを投げ…て…
「ゴホッ…ガハッ!」
咄嗟に口元を抑える
手には…血
吐血
こんな時に…!
クソ!誰か援護は…
エリナリーゼとルーデウスは兵士で手一杯
ザノバにはアトーフェを抑えといてもらわないといけない
あ、キシリカ!アイツどこ行きやがった!
あの野郎ふざけやがって
誰か!
「ア…トーフェ…様…向こうに…は…ペル…」
兵士は、その言葉を最期に、まっぶたつに裂けてしまった
ん?ペル?
「不死魔王アトーフェラトーフェ…か…?」
ペルギウスだ
洞窟の中から、六人の精霊を連れて、出てきた
助けに来てくれたのか?
だが、ペルギウスは辺りをきょろきょろ見渡している
「おかしい…あのバカで、脳筋で、目立ちたがり屋なアトーフェが、前線に出て来ないなど…」
すると、ザノバが真っ赤に染まった袋を差し出し、答える
「アトーフェなら、こちらに収めておりますぞ」
そう言うと、ペルギウスが怪訝な顔をした
「え…?」
「スモーク殿が刻み、包み込み、私が潰したものにございます」
すると、袋の中から声がした
〈ぺ…ペル…ギウス…!〉
ペルギウスが高らかに笑い出した
「ハッハァー!なんてザマだアトーフェ!よもやそんな小汚い袋の中に収まっているとはな!中々に似合っているぞ!?」
中からうめき声がするが、まぁそんなことはどうだっていい
やっちゃってください
ペルギウスのアニキ!
「開け『後龍門』、招け『前龍門』」
門が開いた
ザノバが倒れている俺を担ぎ、彼らから離れる
「甲龍手刀『一断』」
ペルギウスの手から放たれた光が、袋を切り刻みながら彼方まで吹き飛ばした
よっしゃ!グッバイ、アトーフェ、永遠に!
ふぅ…疲れた
安心したら、ちょっと眠たくなってきた
ソーカス草は手に入れたし、誰も死んでいない
よし、寝てよう…
…そう言えば…ヒュドラの時も…こんな終わり方だった…よう…な…