「皆…心配かけて…すまなかった…」
俺は皆と向かい合って座り、深々と頭を下げる
「いえいえいえ!何をおっしゃいますかスモーク殿!」
「…へ?」
そんなことを言われるとは思っていなかった
ザノバが居てくれるだけで、かなり気持ちが安らぐよ
「そうですわ!」
エリナリーゼも机をバンと叩き、俺に向かって叫ぶ
「あなたのおかげで、ナナホシはもちろん、私やルーデウスも助かっているのですよ!なぜ頭を下げる必要があるのですか!」
「あぁ…どうも…ありがとう…」
彼女からもとても褒められ、俺は気分がすっかり良くなる
我ながら単純だ
「そうだよスモーク。俺たちは、お前に感謝してるんだよ」
アリエル様とルークも、後ろでうんうんと頷いている
それを見て、俺はすっかり調子に乗ってしまう
「いやいや…そんな…でへへ…」
浮かれてる場合じゃないだろ
ちゃんと言うんだ
「ゴホン…それで…皆に…言いたいことがあるんだ…」
「どうしたの?」
「俺は……しばらく…旅に…出ようと思う…」
「ええ―――――――――!?」
皆がとても素っ頓狂な声を出した
びっくりして、椅子から転げ落ちそうになったが、そうなったのは皆の方だった
「なんでだよ?!せっかく七星も助かったのに!これからだろ?!」
ルークが身を乗り出し、エリナリーゼが眉をひそめる
「おいスモーク、どういうことだ!理由を言ってくれよ!」
「旅ってどうしてですの?!学校とかは…!」
「そうですぞスモーク殿!あなたが居なくなったら私は……ともに人形を愛する同士が減ってしまいますぞ!?」
悪いがザノバ
お前のその理由で、一番悲しそうな顔をしないでくれ
「……皆さん!!」
大きな音がしたと思ったら、ルーデウスが机を叩いた音だった
「…彼の話を聞きましょう。そんなに一度に問い詰めると、話したいことも話せません」
そう言って、俺に目配せする
サンキューベリーマッチだぜ、ルーデウス
「ありがとう…じゃあ…話すぞ…」
皆も静かになって、話を聞いてくれる
さぁ、話そう
俺は大きく深呼吸し、口を開く
「俺は…ペルギウスから…ある人のことを…聞いたんだ…そいつは…とても危ない奴で…皆にも…危害が及ぶかも…知れないんだ…だから…」
そこまで言って、アリエル様が立ち上がる
ここから言いたいことが大事なんだけど
よく見ると、ちょっと顔が怖い
そこまで怒らせるようなことを言っただろうか
「もしあなたが、そんな理由で私たちの側から離れると言うならば、許しませんよ」
彼女の手は震えていた
俺は考えが足りてなかった
皆が、俺が旅立つことを喜んでくれると思っていたばかりに、少し動揺してしまう
でも、俺の心は変わらない
「すいません…考えが至りませんでした…でも…俺は残りませんよ…」
アリエル様がグッとこぶしを握る
他の皆の顔も芳しくない
だが、彼らの安全の為には、俺がこの問題を解決するしかないのだ
「俺は…戻ってきます…絶対に戻ります…でも…何が起きるか分からないから…約束はできません…それでも……戻るために…全力を尽くします…」
俺が宣言しても、彼女の顔は晴れない
あまりにも唐突なことで、申し訳ないとも思うが、仕方のないことなのだ
「いやです…いくら何でも…そんなの…」
え?泣いてんの?
ウソでしょ?
殺し屋が来ても泣かなかった彼女が?
「貴方と離れたくない。一緒に居たい」
「うえぇ…え…ちょ…あわわ…」
俺は大慌てしてしまい、彼女の肩を手でポンポン叩くことしか出来なかった
「分かりました…行きません…しばらくは残ります…アナタと一緒に居ます…だから…その…泣き止んで…ホントに…お願い…」
彼女はしばらく俺の胸元をつかんだまま、顔を上げようとしなかった
やがて、ようやく顔を上げた彼女は、涙を拭いながら小さく笑った
俺はあっけにとられ、何を言うことが出来なかった
「ふふん、言いましたねスモーク。これで、貴方はまだまだ、私の護衛です!」
「マジ…すか…」
俺は寮の自分の部屋…ではなく、アリエル様の部屋へ戻った
早速、仕事をしてほしいとのことだ
まぁ、俺にとっては都合がいい
扉を開けると、彼女が部屋着のままで待っていた
「どうも…それで…用事は何です…?」
彼女は何も言わなかった
ただ、自分の隣を指で刺すだけだった
俺はマントを壁にかけ、装備を外す
そして、俺は横に座り込み、彼女の顔を覗き込む
彼女は黙ったままだ
「あの…俺を引き留めた時…ケロッとしてましたけど…泣いてたのって…本当でしたよね…」
「…いいえ…泣いてません…」
そして、二人でベッドに腰掛けたまま、沈黙の時間が続いた
三分くらいそうしていただろうか
適当に置かれていた俺の手に、彼女の手が重なった
「あ…あの…?」
言い終わる前に、彼女は俺をベッドに引き込んだ
顔が赤らみ、息が荒くなっている
「あぁ~…なるほど…ですね…」
俺は以前彼女が言っていたことを思い出す
(私は、いざという時には、攻めるより攻められたい派なんですよ)
確か…こうだっけか?
俺は、胸の前で組まれた彼女の手を掴み、彼女の頭の上まで持っていく
足をもたげ、彼女に馬乗りのような形になる
こうすると、とても顔が見えやすい
もう片方の手で、自分の服のボタンを外す
「いいんですか…俺で…」
俺は心配なのだ
俺なんかで良いのか
王族の彼女と、異世界人の俺とが、結ばれていいのか
彼女は少し笑みを浮かべ、俺に耳打ちした
「では…君主としてではなく…ただのアリエルとして命じます…私を…女にしてください…」
そこまで言われて、引き下がる程俺も男を捨ててはいない
俺は、彼女に口づけをした
夜は更けていくばかりだった
目を開けて俺が最初に見たのは、スヤスヤと寝ている、愛する人の顔だった
彼女にキスしたかったが、起きたばかりでするのもどうかと思ったので、身支度を済ませに行く
顔を洗い、歯を磨く
装備を整え、ちゃんとライトセーバーも持っていく
これで身なりはパーフェクトだ
ちゃっかり彼女の頬に口づけをし、俺は部屋を後にする
空の向こうは明るいが、まだ太陽は見えない
吐いた息が白く浮かび、それを見ると、身体の芯まで冷ていく気がした
七星から貰った、転移魔法陣の場所が書かれた地図を見る
奴がどこにいるかは分からない
あいつがどこに潜んでいるか分からない以上、まずは手掛かりのありそうな場所から当たるしかない
だから、取りあえず魔大陸辺りを探してみることにしようか
大学の門をくぐり、待たせていた馬にまたがる
馬を走らせた瞬間、目の前の土が盛り上がる
馬が驚き、俺は振り落とされてしまう
フォースで馬を落ち着かせ、辺りを見回す
詠唱は聞こえなかった
こんなことが出来るのはアイツだけだ
「…ルーデウス…か…」
門の下で、彼が杖を構えていた
彼の後ろから、皆が走ってくる
「なんでだよスモーク…」
「どうして…ここが…」
皆の後ろに、申し訳なさそうにしている七星が見えた
彼女が喋ったのか
俺が旅立つことを、黙っていてくれと言ったのに
彼らの顔は、とても寂しそうに見えた
どうしてそんな顔をされなければいけないのか
俺はただただ悲しかった
俺は皆の為を思って去ることを決めたのに
「なんで…アリエル様を捨てた!スモーク!」
「捨てたわけじゃないよ…ルーク…」
彼の怒りは分からないわけではない
だが、巻き込むわけにはいかないのだ
「なんでなのスモーク…」
「先刻に…言ったとおりだよ…シルフィ…皆を…守るためだ…」
「守りたいんだったら話してよ!」
シルフィが叫び、俺は一歩下がってしまう
だが、俺も少し苛立ってしまう
これは俺の問題だ
お前らに関わらせることは出来ないんだよ
「頼むから…放っておいてくれ…!」
「今のお前は自暴自棄にしか見えない!理性的な判断をしろ!スモーク!」
ルーデウスには分からないだろ
俺がどんな気持ちで彼女との約束を破ったか
「うるさいんだよ…お前らに…何が分かる…!」
言ってしまった
こんなことを言うつもりなんてなかったのに
彼らを傷つけるつもりなんか…
空気が変わった
肌で分かる
お前らも本気なんだな
だからこそ気が滅入ってしまう
「どうしても行くのですか?」
エリナリーゼが剣の柄に手を置く
「行かない選択肢は…ない」
「止めると言ったら?」
ルーデウスの杖を掴む手に力が入る
「はぁ…出来るものなら…」
息を大きく吸い、身体に力を込める
地面に亀裂が走り、ブロック状の岩石が俺の周りに浮かび上がる
「…止めてみろ…」
武器を手に取り、皆が俺に向かって走り出す
どうやら…やるしかないらしい