「それで?もう一度聞かせてくださいスモーク。あなたはここで、何をしているのですか?」
『え~とその、何というか…ほんと、間が悪いっていうか、いや、むしろ良いのか…』
「スモーク?」
おでこを優しく小突かれる
「母国語が出ていますよ。動揺するといつもそうなってしまいますよね」
あ、俺のくせ
覚えててくれてる
そのことに少し笑顔になってしまう
「あぁ…すいません…その…訓練を少々…」
アリエル様が横目で落とし穴の方を見る
穴からは彼女たちの鳴き声がする
「あれは何ですか?」
「あぁ~…これは…ですね…戦闘訓練を…頼まれまして…」
「へぇ~そうですか~?」
「うそニャ!」
『な!待てやめろ!』
咄嗟のことで日本語が出てしまった
「私たちコイツにボコボコにされたニャ!ヒドイことされたニャ!」
「だ、そうですが?」
『てめぇリニア…!』
クソが、しくじった!
まさかこいつが邪魔するとは!
念には念を入れて穴ごと埋めておけば!
「ク…すいません…でした」
俺はその後、穴から彼女たちを救い上げ、療養室に送り届けた
「う~ん…じゃあニャ…ケンカ売って悪かったニャ…」
「あぁ…じゃあな…お前ら…」
俺はチラッと後ろのアリエル様がよそ見したのを確認した
リニアの胸倉をつかみグイッと引き寄せ、耳元でささやく
「お前よくも余計なこと言ってくれやがって全快したら絶対もう一度完膚なきまでにぶちのめしてやるからな」
「急に怖いニャお前!あのたどたどしい口調どこ行ったニャ!?」
「ん?今何かしましたスモーク?」
「いえ…何も?」
「お前今のはなんニャ!めっちゃ饒舌だったニャ!」
「は~いリニアさ~ん。治療を始めるので~大人しくしてくださ~い」
「待てニャお前――――!」
「一件落着…ですね」
「もう!そもそもなんであんなことになったんですか?」
怒っているアリエル様もまた良い
「あのネコが…アリエル様のことを…悪く言っていたので」
そう言うと、彼女は少し困った顔をして、俺の腕をつついた
「王族なんですから、そういうこともあります。そんなことでいちいち怒っていると、貴方はどれだけ喧嘩することになるんですか?」
「うぐ…すいません…」
俺が謝ると、彼女は少し笑って言った
「…でも、ありがとうございます!」
「…え?」
「だって…」
彼女は、少し困ったように笑う。
「私のために怒ってくれたんでしょう?そこは嬉しいですよ」
「あ…ありがとうございます…!」
俺は感謝に打ち震えた
アリエル様はなんと寛大な御方だ
これで、あのクソ猫どもを態度次第でこの世から駆除することが決定した
後日、俺は七星に実験室に呼び出された
大事な話があるとのことだ
部屋に入ると、彼女はやけに神妙な面持ちだった
『で?話ってなんだよ。また実験の材料の調達か?』
『あなた…転移事件のことをどれだけ知ってるの?』
転移事件
フィッツや彼女の親友が世界中に転移させられたという事件だ
『それがなにか?』
『あなた…出来過ぎてるとは思わない?』
『…どういうことだ?』
『そう言えば聞いてなかったわね。あなたがこの世界に来たタイミングや場所を教えて』
『…まぁいいか。俺が転移したのはアスラ王国上空。同じく転移中のフィッツを助け…』
まさか
『同じ…転移中…』
ここで俺の中には一つの仮説が浮かんだ
でも
そんなことが…
『気付いたかしら?』
どうして考えつかなかったんだろう
『待てもういい。やめろ』
『いいえ言うわ。私たちには知る義務があるわ』
怒りか焦りか、よく分からない感情に突き動かされ俺は勢いよく立ち上がる
『―――転移事件は、おそらく私たちが原因で引き起こされたものよ』
『…確証はあるのか…?』
『そんな怖い顔しないで。おそらくって言ったでしょ。まだ確証があるわけじゃないわ。ただ…現状、それ以外に原因が考えられないの』
俺は震える手に力を込め、七星に背を向ける
『悪いが…今日は帰らせてもらう』
『ええいいわ。気持ちの整理をする時間が必要だと思うし…』
俺は返事もせずに、七星の部屋をあとにした
しばらく校内をボ~っと歩き回り、図書館に立ち寄る
転移事件に関する文献を読む
転移によって命を落とした者
家族と離ればなれになった者
未だ行方の分からない者
そんな記録が並んでいた
クソが
なんでわざわざ気分が落ち込むようなことをしたんだ俺は
しかしあの話が本当だとすると、俺は一体どれだけの人を傷つけたのだろう
それに
これからフィッツにはどんな顔をして会えばいいんだ
「はぁ~…」
「どうしたの?」
「あぁ…なんだフィッツか…今は…フィッツに顔向け出来無くて…落ち込んでるんだ…」
「へ~?どうして?」
「なんだ…フィッツか?!」
いつの間にか真横にフィッツが座っていた
「しー。図書館ではお静かに。で、理由を話してごらんよ」
「あ~…その…まぁ…」
どうしよう
今フィッツが手にしている本も転移事件についてだ
俺は彼女がどれだけあの事件で苦労したのかは何度も聞いている
それに対して気の毒だとも思ってきた
だから、真実を言うのが怖い
彼女から何を言われるか想像するのも怖い
ここは…
「お前が…その…可愛すぎてな…!」
全力でごまかす!
「え、ええぇ!?」
「最近の…フィッツは大人びすぎている…男装がばれないか…心配なんだ」
我ながら良い言い訳ではないだろうか
俺の言葉を聞いたフィッツは、耳を真っ赤にしている
「…君はアリエル様以外に興味ないと思っていたよ」
「まぁ…興味はない…が…シンプルに友達として…心配している」
「あわわわ…!」
「大体…最近のフィッツはなんだ…大人の女のオーラが…出過ぎているぞ」
「んんんん~!」
「そんなんで…男装が…バレていないと…思っているのか?」
フィッツはガタン、と立ち上がった
今にも叫びだしそうな雰囲気だった
まぁ、実際叫んだ
「スモークの…バカアアアア!」
そう言うと、顔を覆いながら、一目散に逃げて行ってしまった
ふう~
これで良しだ
…たぶん