俺はあの後、リニアとプルセナの元へ行った
アリエル様にちゃんと様子を見てこいとのことだ
なんで俺が…
一応喧嘩を売られたのは俺の方なのだ
そう思いながら、療養室に行く
「あの…リニアと…プルセナという…生徒はいますか…?」
「はい~彼女たちは~もう完治して~教室にいると思いますよ~」
「あぁ…なるほど…ありがとう…ございました」
なんだ治ってやがるのか
ここまで来て損した
教室に行くと、包帯が巻かれた彼女たちが居た
「なぁ…」
「ニャ!?」
「…あぁ…あぁ」
突然、彼女たちが震えだす
声をかけただけなのだが
「いや…あの…」
「ニャ~!許してくれニャ!もうあの姫さまのことを悪く言わないニャ!」
「ヌーニなの…もう許してほしいの…」
埒が明かない
俺は仕方なく頭を下げた
二人は困惑しているのか黙ったままだ
「先日は悪かったな…許してくれ」
顔を上げると、彼女たちはポカンとしていた
「いや、いいんだニャ」
「ヌーニなの。あなたが謝る必要はないの」
「何故…だ?」
「私たちはあなたに負けたの。獣族は力が全てなの」
「だから、今後お前の言うことは聞いてやるニャ!泣いて喜べニャ!」
なるほど
ということは俺の接し方で、おおよそ正しかったわけだ
…待てよ
調査の過程で気づいたんだった
確かこいつらは…
「お前ら…族長かなんか…だっただろ?」
「あ~ぁ。あたしたちはそれぞれ、ドルディア族の長の血筋ニャ」
「それがどうかしたの?」
このまま順当に行けばこいつらは族長となる
獣族をまとめ上げる存在となる
それならば…
「お前らに…一つ…重大な命令がある…」
「ニャ~?なんニャ?」
俺がこいつらに求める一番の物
それは…
「アリエル様がピンチな時…全力で彼女の役に立て…それが命令だ…」
「そんなことでいいの?」
「あぁ…それだけだ…」
「な~んか拍子抜けだニャ」
「ボスはもっとエグイことすると思ったの」
「俺は…お前らをそういう目で…見てない…ん…ボス?」
ボスという言葉に違和感を持つ
「ボスはボスだニャ!」
「ボスは私たちを倒したの。だからボスなの」
「あ~…そうか…まぁ…どうでもいいが…」
その日の昼、俺は七星と共に昼食を食べていた
『この世界の食べ物って、私の口に合わないのよね~』
食べ物が乗ったスプーンをゆらゆらさせながら七星がぼやく
『へ~?まぁ確かに日本食とはかけ離れてるよな…ま、俺は充分うまいと思うけどな。洋食と思えば』
そういうと、七星が急に立ち上がる
『そうよ!自分で作っちゃえばいいのよ!』
『おぉどうした急に』
七星が興奮しながら話し出す
にしても転移魔法陣の研究をしてる時より楽しそうだな
『目指すは白米、味噌汁、焼き魚、葉菜の朝食フルセットよ!』
『いいじゃん。で、それ俺も手伝う感じ?』
ガツガツと目の前の皿を空にし、七星は歩いて行く
『当たり前でしょ!ほら、あんた今日丸一日暇って言ってたでしょ!早く行くわよ!』
俺達は大学近くの川沿いに来た
『よっこらしょ!ほい!はい!へい!もいっちょ!』
俺はフォースで魚たちを数匹ずつ陸に放り投げていく
七星が図鑑を見ながらバタついている魚を調べている
『これよ!これが一番味がサケに近いわ!』
『それホントなのか?』
『知らないわよ。特徴が同じなだけだもの』
『…なんでそんな当たり前でしょ、みたいな顔出来るの理由を知りたいね』
俺達は市場に来た
手分けして食材を探す
『米を買って来たわ。そっちは?』
『お湯に溶かして味をつける調味料…味見の結果、これが一番近かった』
『上出来よスモーク…で、それなんて色してんの?』
俺は手に持った袋から少量を取り出す
『まぁ…うん、俺も思ったよ。でも、実際これが一番味噌に近いんだ。残念なことに』
その調味料は、禍々しい紫色をしていた
『一口食ってみるか?』
七星が露骨に嫌そうな顔をしたので、それ以上はやめておいた
七星の部屋に帰ったころには、すっかり夜になってしまった
『お前が研究材料を調達したいとか言ったから、こんな時間になったんだぞ』
『あんただって、「アリエル様にプレゼントする服を選びたい」とか言って、私を着せ替え人形にしたでしょ。絶対忘れないからね』
お互いそんなことをグチグチ言いながら調理を進めていく
『エセ汁出来た?』
『えぇ出来たわよ…エセ汁ってなに?』
『味噌汁ではないだろ?だからエセ汁』
『どんなネーミングセンスしてんのよ…まぁいいわ。良し、これで出来たわ!』
出来た料理を並べる
白米
紫のエセ汁
焼きサケもどき
薬草で無理やり作った漬物
見た目だけなら、だいぶ様になっている
俺は合掌し、七星がそれに続く
『いただきます』
『…いただきます』
米を口に運ぶと、全く記憶にない味が口の中に広がる
サケもどきを食べると、少し苦いサケのあじがする
エセ汁はだいぶ味噌汁に近い味だ
漬物はまんま薬草の味だ
期待通りの味とは言えない
がっかりさせてしまっただろうかと思い、彼女の方を見れない
すると、七星の方から声がする
『ヒグ…ッ…ウゥ…』
俺は驚いたが、すぐに理由を察した
彼女はきっと、ずっと元の世界に帰りたいと思っているのだ
形だけでも嬉しかったのだろう
俺は箸を置く
そして、黙って七星の背中をさすった