元引きこもりのTS転生美少女と素直になれない一軍ギャル〜勇気を出して助けたら恋人になっていました〜 作:あかぱん
人生の終わりというのは、得てして呆気ないものらしい。
前世の俺は、いわゆる筋金入りの引きこもりだった。
高校を中退したわけでもないのに、いつの間にか部屋から一歩も出られなくなり、ディスプレイの光だけを友として日々を浪費していた。
そんな俺が、年に数回あるかないかの『両親の不在』という不測の事態に見舞われ、空腹に耐えかねて近所のコンビニへ向かったのが運の尽きだった。
深夜の雨。視界不良。曲がり角。
トラックのヘッドライトが網膜を焼いた次の瞬間、俺の視界は暗転した。
(あ、俺の人生……なんにも残せないまま終わったな……)
薄れゆく意識の中でそう後悔したはずだったのだが――。
次に目を覚ました時、俺はふかふかのベビーベッドの中にいた。
しかも、赤ん坊の小さな手足をパタパタと動かしている自分の姿。
鏡に映った自分の顔は、絵画から抜け出してきたような、透き通るような白肌と大きな瞳を持つ、どう見ても『美少女の原石』な女の子だった。
記憶を引き継いだままの転生。
ライトノベルでしか読んだことのない現象が、我が身に降りかかったのだ。
だが、俺に世界を救うようなチート能力があるわけでもないし、前世の反省を活かして人生をやり直すようなバイタリティがあるわけでもない。
(……面倒な人間関係は、もう懲り懲りだ)
女の子になったところで、中身は引きこもりのコミュ障男子のまま。
だから俺は、この二度目の人生でひとつの誓いを立てた。
『極力、他人と関わらず、空気のように生きる』
小学校、中学校と、俺はその誓いを完璧に守り抜いた。
幸いにも、無口で大人しい性格を装えば、周囲は「おとなしくて控えめな美少女」として勝手に解釈してくれた。クラスメイトからの誘いは適当な理由をつけて断り、放課後は一目散に帰宅して自分の部屋に引きこもる。
誰とも深く関わらず、トラブルも起こさず、ただ静かに生きる。
我ながら完璧な省エネ生活だった。
このまま中学を卒業したら、通信制の高校にでも入って、ゆくゆくは在宅でできる仕事を見つけて一生部屋から出ずに暮らそう――そう本気で計画していたのだ。
だが、その完璧な計画を打ち砕いたのは、他ならぬ今世の両親だった。
「ほら、見てパパ! うちの娘、制服を着たらまるでお人形さんみたい!」
「本当だな……! こんなに可愛い子が私たちの娘だなんて、夢みたいだよ」
玄関の鏡の前で、美男美女で絵に描いたような善人である両親が、キラキラとした純粋な笑顔で俺を見つめている。
二人の瞳には、一点の曇りもない期待と愛情が溢れていた。
「中学まではちょっと人見知りだったけど……高校生になったら、きっと素敵な友達がたくさんできるわよね!」
「ああ! 何か困ったことがあったらいつでも言うんだぞ。パパもママも、お前の高校生活を一番に応援しているからな!」
(……言えねぇ……っ)
『通信制にして一生引きこもりたい』なんて、こんな聖人みたいな両親を前にして、口が裂けても言えなかった。
ふたりの眩しすぎる信頼のまなざしに圧殺され、俺はただ「……うん」と小さく頷くことしかできなかったのだ。
こうして、平穏な引きこもりライフを望んでいた俺は、地域の一般的な全日制共学高校へと入学することになってしまった。
――そして、春。
満開の桜が咲き誇る高校の校門をくぐりながら、俺は胃の痛みに耐えていた。
(頼むから、誰も俺に構わないでくれ……。目立たず、騒がず、空気のように3年間をやり過ごすんだ……)
そんな俺のささやかな願いが、教室のドアを開けたわずか数分後に無残にも粉砕されることを、この時の俺はまだ知る由もなかった。