元引きこもりのTS転生美少女と素直になれない一軍ギャル〜勇気を出して助けたら恋人になっていました〜 作:あかぱん
「はい、お待たせ! ジャンボチョコバナナパフェと、いちごの贅沢タワーパフェ!」
深夜前の駅前ファミレス。
運ばれてきた巨大なグラスには、山盛りの生クリームとフルーツ、チョコソースが贅沢にかかっていた。
ボックス席の向かい側で、リオが「うひょー!」と嬉しそうにスプーンを構える。さっきまで泣いていたのが嘘のように、いつもの明るい笑顔だ。
「これ、本当にリオちゃんのおごりでいいの……? 高かったでしょ……」
「いいのいいの! バイト代はこういう時のために稼いでるんだから。ほら、まひろも早く食べなよ!」
言われるがままにスプーンを伸ばし、クリームといちごを口に運ぶ。
甘さが疲れた身体に染み渡り、張り詰めていた神経がすうっと解けていく。
「……ん、美味しい」
「でしょー! 甘いもの食べたら、嫌なこと全部忘れられるからね!」
そう言って豪快にパフェを頬張るリオ。
けれど、グラスの底のコーンフレークが見え始めた頃、リオはふとスプーンを動かす手を止めた。
「……ねぇ、まひろ」
「ん?」
「……本当に、ありがとうね」
リオは伏し目がちに、静かな声で言った。
「うちさ、ずっと一人で平気なフリしてたんだ。親にも心配かけたくないし、先生たちにもバカにされたくなくて……『うちは強いから大丈夫』って、自分で自分に言い聞かせてた」
「……」
「でも、今日あいつに腕掴まれたとき、頭が真っ白になって……あぁ、うちって全然強くないんだなって。本当は、誰かに助けてほしかったんだって、その時初めて気づいたの」
リオはスプーンをぎゅっと握りしめ、顔を上げた。
その瞳はまっすぐに、揺るぎない熱を持って俺を見つめていた。
「だから……まひろが来てくれた時、本当に嬉しかった。震えながらうちの前に立ってくれたまひろのこと……うち、一生忘れないと思う」
「リオちゃん……」
そんな真剣な眼差しを向けられて、俺はなんだか顔から火が出そうになり、慌てて残りのパフェに視線を落とした。
「私なんて……本当にただ大声出して、必死だっただけだから……」
「それが格好いいんじゃん。……もう、まひろは自分のこと過小評価しすぎ」
リオはふっと優しく微笑むと、席を立ってお会計へと向かった。
***
店を出ると、夜風が心地よく火照った頬を冷ましてくれた。
終電間近の駅前通りは人影もまばらで、オレンジ色の街灯がアスファルトの上にふたりの影を長く伸ばしている。
「ふー、食べた食べた! すっごく美味しかったね!」
「うん。ごちそうさまでした」
並んで歩く帰り道。
いつものように「じゃあね」と改札へ向かおうとした、その時だった。
トン、と隣を歩くリオの指先が、俺の右手に触れた。
「……?」
何気ない接触かと思って視線を落とした瞬間――。
スッと滑り込んできた温かい指が、俺の指の隙間に絡められた。
一本、また一本と、丁寧に隙間を埋めるようにして重ねられていく。
(えっ……?)
これまでのリオなら、肩をポンと叩いたり、腕を組んできたりするような、カラッとした陽キャのスキンシップだった。
だけど、今の手の繋ぎ方は違う。
指と指を深く絡ませる――いわゆる『恋人繋ぎ』だった。
「……リ、リオちゃん……?」
驚いて隣を見上げると、リオは正面を向いたまま、耳の先まで真っ赤に染めていた。
繋がれた手から、トクトクと早いリズムで脈打つリオの心拍が、熱と一緒にダイレクトに伝わってくる。
「……あのさ」
「は、はい……!」
「これから毎日、一緒に登下校しよ。バイトの帰りも、まひろの都合が良ければ……迎えに来てほしい、かも」
「えっ」
「……ダメ?」
リオは足を止め、恥ずかしそうに上目遣いで俺を見た。
いつもの勝気なギャルのかけらもない、ただ恋する一人の女の子の表情。
(……前世の引きこもり男の俺に、こんな可愛い女の子の上目遣いが耐えられるわけないだろ……!)
内心で大パニックを起こしながらも、繋がれた手の温もりが心地よくて、俺は手を振りほどくことができなかった。
「……ダメじゃ、ないよ。私でよければ、いつでも」
「……っ! ほんと!?」
パッと花が咲いたように表情を輝かせたリオは、繋いだ手にさらにぎゅっと力を込めた。
「約束だからね! もう絶対に離してあげないんだから!」
「あはは……お手柔らかにね……」
平穏に引きこもりたかったはずの俺の高校生活。
どうやらこれからは、この眩しくて愛おしい金髪の少女に振り回されながら、少し甘くて賑やかな日々を過ごすことになりそうだった。
(【完】)