元引きこもりのTS転生美少女と素直になれない一軍ギャル〜勇気を出して助けたら恋人になっていました〜 作:あかぱん
教室の引き戸をガラガラと開けた瞬間、俺は激しい後悔に襲われていた。
(……空気が、あまりにも『陽』すぎる)
黒板に書かれた座席表を確認し、窓際の後ろから二番目という、アニメの主人公なら特等席、陰キャにとっては壁際で息を潜めるのに最適なポジションへと滑り込む。
よし、ここなら視線も集まりにくい。机に突っ伏して気配を消し、ホームルームが始まるのを待つだけ――そう思っていた。
「あ、あのっ! 君、名前なんていうの……?」
(……はい?)
突っ伏そうとした瞬間、正面からやけに緊張した上ずった声が降ってきた。
恐る恐る顔を上げると、そこには顔を真っ赤にした男子生徒が立っていた。しかも一人ではない。その後ろには、様子を伺うようにじりじりと距離を詰めてくる男子がさらに二、三人。
「オレ、サッカー部の推薦で入った佐藤! もしよかったら、連絡先とか交換しない!?」
「いやいや佐藤ずりーぞ! 俺も! 俺、中学んとき生徒会やっててさ、学校のことなら何でも教えられるし!」
……待て待て待て。
入学初日、まだ始業ベルすら鳴っていないのに、このガツガツした距離感は何事だ。
(うわ、男ってこんなグイグイ来る生き物だったの……!? 怖っ!!)
前世は男だったくせに、いざ美少女の体になって目の前に男子の群れを作られると、シンプルに威圧感がすごい。体格差もあって普通に怖い。
だが、ここで下手に声を荒らげて目立つのも嫌だし、何より引きこもり歴が長すぎて『生身の人間と会話するスキル』がゼロのままなのだ。
「あ、えっと……その……」
困惑と人見知りが限界突破し、俺は蚊の鳴くような声を出して俯くのが精一杯だった。
だが、その『潤んだ瞳でおどおどと震える仕草』が、どうやら男子たちの謎の庇護欲スイッチをさらに連打してしまったらしい。
「うおっ、声ちっちゃくて可愛い……!」
「守ってあげたい感やばくね!?」
「ね、名前だけでも教えてよ!」
(誰か助けてくれ! 俺は守られるべき可憐な美少女じゃなくて、中身は昨日まで深夜アニメの実況ツイートしてただけの元引きこもりなんだよ!!)
内心で絶叫しながら、いよいよ机の下に潜り込もうとした、その時だった。
「――ちょーっと男子ぃ。朝っぱらから何群がってんの? 邪魔なんだけど」
教室の空気を一変させる、凛とした声が響いた。
男子たちがビクッと肩を跳ねさせて振り返る。
そこに立っていたのは、緩く巻いた明るい金髪に、少し短めのスカートを着崩した、誰がどう見ても『一軍のギャル』だった。
耳には小さなピアスが光り、ネイルも綺麗に整えられている。その圧倒的なカースト上位のオーラに、さっきまで調子に乗っていた男子たちが一歩後ずさった。
「な、なんだよ藤堂……別にいいだろ、話しかけてるだけだし」
「話しかけてるだけ? アンタらのその暑苦しい圧で、この子ガチで困ってんじゃん。鏡見て出直してきなよ、キモ」
バッサリ。
一切の容赦がないド正論の切れ味に、男子たちはぐうの音も出ず散り散りに逃げていった。
(す、すげぇ……! 一撃で撃退した……!!)
強烈な救世主の登場に、俺は感動のあまり手を合わせそうになった。
だが、安堵したのも束の間。男子たちを追い払ったそのギャル――藤堂さんが、くるりとこちらに向き直ったのだ。
「あんた、大丈夫? あいつら調子乗っててウザかったでしょ」
「あ……っ、は、はい……! あ、ありがとうございます……っ」
至近距離で見る彼女は、派手な見た目とは裏腹に、驚くほど整った顔立ちをしていた。そして、ふわっと香る甘い香水の匂い。
(ひ、光属性だ……! 前世の俺が一番近寄っちゃいけないカースト最上位の住人だ……!)
男子とは別の意味で心臓がバクバクと跳ね上がり、俺は再び子鹿のようにガタガタと震えだす。
すると彼女は、俺の様子をじーっと見つめた後、ふっと悪戯っぽく口元を緩めた。
「ふーん……ほんとに大人しいんだ。ね、うち
「……あ、まひろ……
「まひろね。よろしく、まひろ!」
リオはそう言って、にかっと眩しい笑顔を浮かべた。
その笑顔があまりにも屈託がなくて、俺の警戒心は一瞬で拍子抜けしてしまう。
「まひろ、席ここなんだ? うち、その前の席だからさ。また男子がウザ絡みしてきたら言いなよ、追い払ってあげるから」
「えっ……」
そう言って、リオは俺の前の席のイスをくるっと引いて座り、こちらを向いて楽しそうに頬杖をついた。
(……あれ? 怖い人かと思ったけど……もしかして、めちゃくちゃ良い奴なのか……?)
平穏な空気生活を目指していたはずの俺の高校生活。
どうやら、予想もしない方向へと動き出してしまったようだった。