元引きこもりのTS転生美少女と素直になれない一軍ギャル〜勇気を出して助けたら恋人になっていました〜 作:あかぱん
高校生活が始まって一ヶ月。
俺の日常は、前世の引きこもり時代からは想像もつかないほど激変していた。
「――おい、藤堂。お前、またスカート丈直してないな。それにその髪色、連休明けまでに黒く戻してこいって言ったはずだぞ」
放課後の教室。帰りのホームルームが終わった直後、担任の生活指導教諭がリオの机の前に立ちふさがっていた。
眉間に深いシワを寄せ、あからさまに「問題児」を見るような冷たい視線。
「えー、先生。校則には『過度な染髪は禁止』って書いてあるだけで、このくらい地毛に近いアッシュ系ならセーフでしょ? スカートも切ってないし折ってないよ」
「屁理屈を言うな。そういう派手な格好をしていると、クラスの風紀が乱れるんだ」
「……はいはい、善処しまーす」
リオは呆れたように小さく肩をすくめ、適当に聞き流すポーズを取った。
先生は忌々しそうに舌打ちをひとつ漏らし、職員室へと戻っていく。
教室に残った他のクラスメイトたちも、先生とリオのやり取りを見て見ぬふりをしながら、そそくさと教室を出ていく。
見た目が派手だからというだけで、勝手に「素行が悪い」と決めつけられ、腫れ物のように扱われる。
リオは平気そうな顔をして机の上に荷物をまとめていたが、その横顔が一瞬だけ、ほんの少しだけ寂しそうに見えた。
(……理不尽だなぁ)
前世のネットサーフィンで培った人間観察眼が、無駄にリオの小さな変化を拾ってしまう。
彼女は挨拶も礼儀もしっかりしているし、俺が男子に絡まれた時だって真っ先に助けてくれた。誰よりも周りが見えていて、優しいやつなのだ。
「……あの、リオちゃん」
「ん? どした、まひろ?」
俺がおずおずと声をかけると、リオはパッといつもの明るい笑顔に戻った。
「あ、その……もし用事がないなら、帰りに……いつもの場所、行かない?」
「! 行く行く! ちょうど気分転換したかったんだよね〜。よし、行こ!」
嬉しそうにカバンを肩にかけたリオに引っ張られるようにして、俺たちは学校を後にした。
***
駅から少し離れた、堤防沿いの河川敷。
ここは夕方になっても部活の生徒や散歩の人がほとんど通らない、俺たちふたりだけの秘密の場所だった。
緑の芝生に並んで腰を下ろすと、目の前を流れる川が夕日を反射してオレンジ色にキラキラと輝いている。心地よい川風が、リオの金髪と俺の長い黒髪をふわりと揺らした。
「ぷはーっ! やっぱここ、風が気持ちいいね〜!」
リオは持ってきた炭酸ジュースを一口飲むと、膝を抱えて川を眺めた。
「先生の言ってること、気にすることないと思うよ。リオちゃん、すごく似合ってるし……綺麗だし」
「えっ」
つい本音が口からぽろりとこぼれてしまい、俺は「あ、しまった」と慌てて口元を手で覆った。
中身男の感覚で素直に褒めてしまったが、女子同士の会話としては急に踏み込みすぎただろうか。
恐る恐る隣を見ると、リオは目を丸くした後、耳の先までほんのりと赤く染めていた。
「な、なに急に……まひろってたまにサラッと恥ずかしいこと言うよね……!」
「ご、ごめん……変なこと言った……?」
「変じゃないけど! ……でも、ありがと。まひろにそう言ってもらえると、すっごい救われる」
リオは照れ隠しのようにへへっと笑い、ジュースの缶をぎゅっと両手で握りしめた。
「うちさ、別にグレたいわけでも目立ちたいわけでもなくてさ。ただ、自分が『可愛い』って思える自分でいたいだけなんだよね。なのに、大人はみんな見た目だけで中身を決めつけてくるからさー」
「……うん。リオちゃんは、すごく優しいよ。俺――じゃなくて、私が一番よく知ってる」
「ふふ、なにそれ。まひろってほんと可愛い」
リオは嬉しそうに目を細めると、不意にてのひらを伸ばしてきて、俺の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
(うわ、頭撫でられた……! 距離近い、いい匂いする……!)
前世の引きこもり男子としての脳内がショートしかける。
だが、夕日を浴びながら微笑むリオの横顔を見ていると、不思議と居心地の悪さは感じなかった。
「ねぇ、まひろ。明日の放課後さ、ちょっと付き合ってよ」
「え? どこに?」
「駅前に新しいカラオケとクレープ屋ができたんだって! まひろと一緒に行きたいなーって思って」
悪戯っぽく笑いかけるリオ。
誰かと放課後に寄り道をするなんて、前世を含めた俺の人生の中で一度もなかったイベントだ。
「……うん。行きたい」
俺が小さく頷くと、リオは「やった!」と花が咲くような満面の笑顔を見せたのだった。