元引きこもりのTS転生美少女と素直になれない一軍ギャル〜勇気を出して助けたら恋人になっていました〜 作:あかぱん
「はいこれ、まひろの分! 期間限定のいちごミルフィーユクレープ!」
駅前のテイクアウト専門店の前で、リオがずっしりとクリームの詰まったクレープを手渡してきた。
受け取ると、甘酸っぱいいちごと焼きたて生地の香ばしい匂いが鼻先をくすぐる。
「……すごい、生クリームが山盛りだ」
「でしょー! ここのお店、トッピングの量がバグってて最高なんだよね。ほら、早く食べないとアイス溶けちゃうよ!」
リオは自分のチョコバナナクレープを大きな口でパクリと頬張り、「んーーっ、幸せ!」と目を細めて頬を押さえた。
俺もおずおずと一口かじってみる。
サクサクのパイ生地と濃厚なクリーム、甘酸っぱいいちごが口いっぱいに広がった。
(……美味い。前世で食べてたコンビニのスイーツとは別次元のクオリティだ……)
「どう? 美味しい?」
「うん……すごく美味しい」
「よかったー! まひろ、美味しそうに食べる顔めっちゃ可愛いじゃん」
リオは自分のことのように嬉しそうに笑う。
クレープを食べ終えた後は、駅ビルの中にある雑貨屋や服屋を巡った。
パステルカラーのアクセサリー、いい香りのするハンドクリーム、色とりどりの洋服。
前世の俺なら「入るだけでHPが毎秒100ずつ削れる結界」と呼んでいたようなキラキラした空間も、隣にリオがいるだけで不思議と怖くなかった。
「まひろ、この髪留め絶対似合う! ちょっとつけてみていい?」
「え、あ、うん……」
鏡の前で、リオが俺の黒髪に小さなシルバーのヘアピンを留めてくれる。
鏡越しに目が合うと、リオは満足そうに何度も頷いた。
「ほら、めっちゃ似合ってる! まひろは肌が白いから、こういうシルバー系が映えるんだよね〜」
「そ、そうかな……」
「そうだよ! 自分の可愛さに無自覚すぎるの、ほんと罪深いよ?」
クスクスと笑いながら俺の手を引っ張り、次はどこに行こうかとフロアマップを眺めるリオ。
その横顔を見ながら、俺は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
(誰かと一緒に放課後を過ごすって……こんなに楽しいことだったんだな)
前世の俺は、画面の向こう側の世界だけで満足していたつもりだった。
誰とも関わらなければ傷つくこともないし、恥をかくこともない。そうやって自分の殻に閉じこもっていた。
けれど、リオが手を引いて見せてくれる現実の世界は、俺が思っていたよりもずっとカラフルで、眩しくて、楽しかった。
ショッピングの締めくくりに訪れたカラオケボックスの薄暗い個室。
リオは流行りのポップスをマイクを握ってノリノリで歌い上げ、俺はタンバリンを叩きながら手拍子をする。
「ふーっ、歌った歌った! まひろも何か歌いなよ! アニソンでも何でもいいよ?」
「えっ、私は……歌うの恥ずかしいし、聴いてる方が楽しいから」
「えー、もったいない! まひろ、絶対声綺麗なのに〜。じゃあ次はデュエットね!」
そう言ってリモコンを操作するリオの笑顔は、学校の教室で見せる大人びた表情とは違って、年相応の無邪気さに溢れていた。
――ピピッ。
その時、テーブルの上に置かれていたリオのスマートフォンが小さく震えた。
画面に通知がポップアップする。
リオは何気なくスマホに視線を落とした瞬間――さっきまでの輝くような笑顔が、ピタッと凍りついた。
(……リオちゃん?)
画面を凝視したまま、固まるリオ。
その表情は驚きというより、どこか怯えているような、言いようのない緊張が走っていた。
「あ……ごめん、まひろ。ちょっと、トイレ行ってきていい?」
「え? あ、うん……大丈夫?」
「うん、すぐ戻るね!」
リオはスマホを強く握りしめ、足早に部屋を出ていった。
ドアがパタンと閉まり、カラオケの賑やかな伴奏だけが部屋に響く。
ほんの一瞬だったが、リオの指先がかすかに震えていたのを、俺は見逃さなかった。