元引きこもりのTS転生美少女と素直になれない一軍ギャル〜勇気を出して助けたら恋人になっていました〜 作:あかぱん
帰宅後、自室のベッドに倒れ込んだ俺は、天井を見つめながら考えを巡らせていた。
――『まひろを巻き込んじゃったら危ないから、この話は忘れて!』
リオのあの悲痛な笑顔が、網膜の裏に焼きついて離れない。
忘れられるわけがない。
前世の俺なら、面倒なトラブルからは一目散に逃げ出して、部屋の隅で毛布を被って震えていただろう。
けれど――。
(……俺に外の楽しさを教えてくれたのは、あいつだ)
男子から守ってくれたのも、美味しいクレープを教えてくれたのも、ヘアピンを選んで「似合ってる」と笑ってくれたのも、全部リオだった。
そんな恩人が一人で怯えているのを、見て見ぬふりなんてできるはずがない。
「……よし」
俺は起き上がり、学習机の上に置かれたノートPCを開いた。
パスワードを入力し、ブラウザを立ち上げる。
前世の俺は、十何年間も部屋から出ずにネットの海を泳ぎ続けてきた筋金入りの引きこもりだ。
掲示板の特定班のログ、防犯関係のまとめサイト、地域の不審者情報マップ……そういったネット上の情報を精査・分析する能力だけは、無駄にカンストしている自負がある。
「まずは、情報収集からだ」
リオが働いている駅前のドラッグストア。
Googleマップのストリートビューを開き、店舗周辺の地形を立体的に頭に叩き込む。
(店舗の正面は駅前通りで人通りが多い。監視カメラも街頭に複数設置されている。もしストーカーが接触を試みるなら、ここじゃない……)
マウスを操作し、建物の裏手へと視点を切り替える。
(裏口……従業員用の出入り口だ。路地裏になっていて、街灯の数が極端に少ない。しかも駅の反対側の住宅街へ抜ける近道になっている。退勤したリオちゃんが通るルートは、間違いなくここだ)
次に、地域の不審者目撃情報を検索する。
駅周辺の目撃報告、出没時間帯、特徴。
(最近、駅北口付近で『若い女性の後をつける不審な男』の通報が三件。時間帯は夜の八時半から九時半。リオちゃんのバイトの退勤時間がちょうど夜の九時……完全に一致してる)
ただの思い過ごしじゃない。
間違いなく、実在するストーカーがリオをターゲットにしている。
「非力な女子高生の身体で、男相手に力勝負なんて絶対に無理だ……」
自分の細い腕を見つめる。前世の男の身体ですら運動不足だったのに、今の身体はさらに華奢で、力比べをすれば一秒で制圧されるだろう。
だからこそ、必要なのは『頭脳』と『準備』だ。
スマートフォンを取り出し、防犯用のブザーアプリをダウンロードする。
ワンタップで大音量のサイレンが鳴るようにショートカットを設定し、さらに画面を伏せたままでも録音・録画が開始できる設定を確認した。
「明日は金曜日。リオちゃんのバイトのシフトが入ってる日だ」
退勤時間は夜の九時。
現場の路地裏で何が起きているのか、この目で確かめに行くしかない。
心臓が嫌なリズムで早鐘を打っている。怖い。足がすくみそうになる。
けれど、ポケットの中でぎゅっとスマホを握りしめた俺の決意は、もう揺らがなかった。