元引きこもりのTS転生美少女と素直になれない一軍ギャル〜勇気を出して助けたら恋人になっていました〜 作:あかぱん
金曜日、夜八時四十五分。
俺は駅裏の薄暗い路地、自動販売機の影に身を潜めていた。
黒いキャップを目深に被り、大きめのパーカーのフードを被った完全な不審者スタイルである。
(……待てよ)
自販機の反射ガラスに映る自分の姿を見て、俺は冷や汗を流した。
(薄暗い路地裏で息を潜め、友達のバイト終わりを待ち伏せする女子高生……これ、客観的に見たら俺自身が完全にストーカーなのでは???)
前世の引きこもり男が、美少女の身体でギャルの後をつけて張り込んでいる。
もしもここで、今お巡りさんに職務質問されたら、どんな言い訳をしても社会的に即死する自信がある。
……というか、捕まる自信しかない。
この場で、『いえ、ストーカーを警戒するためにストーキングしてまして……』などという供述が警察に通るはずもない。
(……て、いやいや、今はそんなくだらない自虐をしてる場合じゃない……!)
頭を振って雑念を振り払い、ドラッグストアの従業員用裏口へ視線を戻す。
勝負の時間は九時。
路地裏は街灯が切れていて、自販機の青白い光と、遠くの駅前通りの喧騒がかすかに届くだけの死角だ。人通りはほぼゼロ。
張り込みを始めて十分が経過した、その時だった。
カサリ、と路地の奥から乾いた足音が響いた。
(……来た!?)
息を殺して自販機の隙間から覗き込む。
裏口の鉄扉から十メートルほど離れた、ゴミ集積所の物陰。そこに、いつの間にか一人の男が立っていた。
暗くて顔まではよく見えないが、年齢は三十代から四十代くらい。ヨレたウインドブレーカーを着て、視線をじっと従業員用ドアに固定している。
ただの通りすがりなら、こんな暗がりで立ち止まる理由がない。
(ビンゴだ……! 本当に待ち伏せしてる……!)
心臓がドクンと跳ね、喉の奥がカラカラに乾いていく。
ネットの情報とマップの分析通りだったという達成感よりも、生々しい悪意がすぐそこにある恐怖が勝って、膝がカタカタと震えだす。
(落ち着け……スマホはポケットの中。防犯ブザーアプリは起動済み、ショートカットも親指の届く位置にある……)
何度もシミュレーションした手順を頭の中で反芻する。
ガチャン――。
重い鉄の扉が開く音が、静かな路地に響き渡った。
カバンを肩にかけ、疲れた様子で私服に着替えたリオが裏口から出てくる。
「ふー……今日も疲れたぁ……」
小さく伸びをするリオ。
その無防備な背中に向かって、ゴミ集積所の男がスッと音もなく足を踏み出した――。