元引きこもりのTS転生美少女と素直になれない一軍ギャル〜勇気を出して助けたら恋人になっていました〜 作:あかぱん
「――藤堂さん、だよね?」
暗闇から突然かけられた男の低い声に、リオの身体がピクッと硬直した。
「え……?」
「いつもレジでお釣り渡してくれるとき、僕のこと見て微笑んでくれてただろ? ずっと君のこと、待ってたんだよ」
「なっ……! ち、違います……! 誰ですか、近寄らないで……!」
リオは後ずさろうとしたが、背後は店舗のコンクリート壁。逃げ場がない。
男はニチャリと笑い、じりじりと距離を詰めてリオの腕を掴もうと手を伸ばす。
「いいじゃん、ちょっとお茶しようよ。ね? 派手な格好してんだから、そういうの慣れてるでしょ?」
「や、やめて……っ!! 触らないで……っ!!」
学校ではあんなに強気で、男子をバッサリと切り捨てていたリオが、恐怖のあまりへたり込みそうになりながら悲鳴を上げていた。
震える手でカバンを盾にするのが精一杯で、完全にすくんでしまっている。
(クソッ……身体が、動け……!!)
自販機の陰で、俺の足もガタガタと震えていた。
前世の男のプライドなんて、目の前の生々しい暴力の気配の前には紙屑同然だ。今の俺は、ただの華奢な女子高生の身体。殴られたらひとたまりもない。
――けれど。
涙目で怯えるリオの姿を見た瞬間、脳内で何かがブツンと切れた。
(リオちゃんを泣かせてんじゃねぇ……ッ!!)
俺はポケットの中のスマホを握りしめ、自販機の影から全力で飛び出した。
「――お巡りさーーーーんッッ!!! こっちです!!! この路地裏ですッッッ!!!」
静まり返った夜の路地に、鼓膜を突き破るような絶叫が木霊した。
普段は教室で蚊の鳴くような声しか出せない俺が、前世を含めた人生の中で一番デカい声を、喉がちぎれんばかりに張り上げたのだ。
「な、なんだぁッ!?」
男がギョッとして振り返る。
その隙に俺は全力で駆け込み、へたり込みそうになっていたリオの前に滑り込んだ。
パシッ、と両手を左右に大きく広げ、リオを完全に自分の背中に隠す。
「ま、まひ……ろ……!?」
「リオちゃん、後ろに下がってて……っ!」
振り返らずに叫ぶ。
自分でも笑えるくらい、足の膝がカクカクと音を立てて震えていた。歯の根も合わない。
だけど、広げた両手だけは絶対に降ろさなかった。
「ガキが……! 邪魔すんじゃねえぞ!!」
「すぐそこに警察官が二人来てます!! もう駅前の交番から走って向かってますから!!」
俺は震える手でスマホを突き出し、画面の録画マークを男の顔面に向けた。
「あなたの顔も、今の声も、全部リアルタイムでネットに生配信されてます!! 今すぐ逃げないと、現行犯逮捕されて人生終わりますよッッ!!」
――ピロリロリロリロッ!! ウーーーッ!! ウーーーッ!!
ブラフの叫びと同時に、仕込んでおいた防犯ブザーアプリの最大音量のサイレンが、路地裏にけたたましく鳴り響いた。
大音量の警告音と、「警察」「生配信」というハッタリの連撃。
「く、クソがッ……!!」
男は顔を真っ赤にして舌打ちすると、サイレンの音と警察の影に怯え、路地の出口へ向かって脱兎のごとく逃げ去っていった。
バタバタと遠ざかる足音。
路地裏に、機械的なサイレンの音だけが虚しく響いていた。