賽を持ってつっぱしる   作:久国嵯附

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第2話 ネコと和解せよ

「おーい…生きてんのかぁ…」

 

むにむに…

妙に柔らかい触感が顔に当たる。

 

「んうぅ…母さん…就活は終わってんだから…」

「何言ってんだ。そこ邪魔だって…」

 

げしげし…

 

「んん?」

 

目を開くと、狭い青と白い枠が見える。路地裏で仰向けに寝ているようだ。

 

「目が覚めたかぁ?俺の寝床で勝手に寝やがってよぉ」

「しゃべる黒猫!?月にかわってシバかれるの!?」

 

にゅっ、と視界に黒猫が現れた。自分の寝床だと不満を漏らしているようだ。

 

「ぬぅ?言葉が通じ…てそうだな。やっとテイマーに巡り会えたのか…」

 

目つきが変わった…しゃべる上に人間じみた顔をする猫だ。

 

「ほらさっさと起きてくれ。俺の布団がヘタっちまう」

「ああ、すまんすまん」

 

起き上がって下を見ると、無数の布切れが押し固められていた。ここに送られた私を、猫の寝床が受け止めてくれたようだ。

 

「うわぁ…ぬぅぅぅ、俺のベッドが…」

「…悪いね、黒猫ちゃん」

 

猫は寝床に駆け寄るなり、ガクリとうなだれた。布切れをほぐす小さな手が、ポフポフと寂しい音をたてる。

 

「お前テイマーだろ?なぁ?」

「言葉は通じてるっぽいけど、多分違う…」

「そうじゃなきゃ話せねぇよ、ガキ」

「ガキ…?いや…うん?声が?」

 

見下ろすと、そこにはやや太めの少年の手足が有った。髪を触ると、サラサラでツンツンの手触り。

 

「オーマイゴッド…まさかなぁ…?」

 

近くに窓を見つけ、覗き込む。そこには、銀髪のイケメン少年が映っていた。背が低めの中2ぐらいといったところか。

 

「美少年だ…!まごうことなきイケメン男子、発育もほどほどで栄養バランスがいい」

 

夢女子の願うこの上ない容姿。美少女など到底いたらぬ輝きをもつ男子である。

 

「なーにをぶつぶつぼやいてるんだ、ナルシストさんよぉ、そろそろいいかぁ?」

 

猫が怪訝な顔つきでこちらを見ていた。

 

「腹減ってんだ、なんか食わせろ」

「餌のようなものは持ってないねぇ…それに無一文だし」

「もしや不法移民か?それとも捨て子か?身なりからは分からんね…」

 

妙に知性のある猫だ。言葉が通じれば野良猫ってこうなのか?というより、言葉が通じるのは…なんでだ?さっきのよくわからない脳内アナウンス…によるのか?

 

「名前はなんだ?ツラからしてジパング人だろうが」

 

その人種は日本人…なのか?多分そうだろう。そうしておこう。

 

「ああ、わた…俺はカズミ・ハカルだよ」

「ハカルだな。俺は…あぁ…トムと呼んでくれ」

 

なんか誤魔化したな、今の。うーむ、疑念が膨らむばかりだ…そういえばアナライズとか言うスキルを獲得したっけ。

 

(どう使うんだ…?むむっ、アナライズ!)

 

【名前:トーマス・アーサー・ログレス】

・称号:ログレス王家、双子、失格者

・ステータス:猫化(永続)

・………

 

「ん?ログレス?」

「おお、やっぱりそっちだったか」

 

シュタッ…

 

突然、トムの顔が目の前に現れた。首に鋭い圧迫を感じる。爪で組み付かれたようだ。

 

「な!?」

「偉い奴らだ、全く。こんなアジアの果てまで探しに来るとはねぇ」

「くっ、ぐぅぅ…ち、ちが」

 

剥かれた牙が首に迫る。このままだと、弁解の余地無く掻き切られそうだ。

 

(一か八か、これに賭けて…)

 

ポケットの中に手を入れ、カウンターを連打する。悪い結果を思い出すが、今はつまみを回すしかない。

 

ガシャッ!キリキリキリ…!

 

【11カウント:落雷(単発)】

 

ドッシャーン!!

 

すぐ横の建物に雷が落ちる。とんでもない轟音に耳がキーンと遠くなる。人より耳が良いのであれば、耐えられない音量だ。

 

「んなぁああ!あぁぁ……」

 

迫っていた顔が痙攣し、視界からフェードアウトする。どうやら今回の賭けには勝てたようだ。

 

「まったく、酷い儲けだ…」

 

爪が立っていた所を触ると、へこみがついているだけ。血は見ないで済んだ。

 

「んにょぅ〜…」

「ハァ…私、愛猫家なんだけどなぁ」

 

足元からうめき声が届く。爪を出したまま伸びているトムからだ。鼓膜がやられていないといいが…

 

「さっきのアナライズからして、おそらく幸薄な被害者なんだろうな…」

 

いろいろとこの世界の知識は持ってるだろう。それに、頭のいい猫というのは色々役立つかもしれないし。猫好き故の言い訳かも知れないが…

 

「…ネコと和解せよ、ってね」

 

うにょんと伸びたトムを抱え、優しく寝床に横たえる。きっと起きるまで待てば、敵意がないと信じてくれるだろう。

 

(それまで、ちょっと試してみるか…)

 

ポケットからカウンターを取り出す。8カウント程度なら、悲惨な結果にはならないだろう。

 

(私はやっぱり、ギャンブル好き…いや、中毒者だな)

 

カチカチとカウンターを押しながら、ソシャゲやメダルゲーのことを思い出す。ああ…賭け狂うは人のサガよ。

 

(つぎは何が出るか…?)

 

キリキリキリ…!

 

【13カウント:カウンター改修チャンス】

 

「カウンター改修?…っ!?」

 

スロットの演出かのように、カウンターが表示されたままフル回転している。そして、急にAとBの字が不自然に宙に現れ、ボタンのように縁どられた。

 

【選んでください】

 

「当然、Aだッ!」

 

パチ屋でボタンをぶったたくようにAを殴りつける。勢いが大事なんだぜ、こういうのは。

 

【Congratulations!】

 

手の中からモノの感触がなくなり、慌てて手を見直す。カウンターが透け、残った輪郭が拡大していく。

 

「これは…懐中時計?」

 

透明な丸い輪郭が長いチェーンを下げて実体化する。チェーンで首から下げられる懐中時計の見た目で、カウンターが画面上側にある。

 

「カモフラージュになる訳か。イケメンと懐中時計、ね…」

 

これは映える、間違いなく。ああスマホがないとは勿体ない。

 

「フガフガ…にょ〜…?誰だお前」

「トーマス君、起きたかな?」

「ぬ!?捕まっちまったのか!?」

「5分くらい?かわいい寝顔を見てだけだぞ」

 

首元から時計を見せつける。ちなみにこいつはかなりの美猫、確かに可愛かった。

 

「どっかの王子様らしいけど、それはアナライズで知っただけ、な?」

「ア、アナライズ持ちなのか?テイマーなのに?」

「だから違うんだっての」

 

こういうのは最初は教えないのが定石だけど…いや、とりあえず色々聞いてみるか。

 

「変なこと聞くかもだけど、そういうスキル?みたいなやつのこと教えてくれないか?」

「はぁ?…何のこと言って…そういやお前何歳だ?」

「ああ〜…歳もわからないんだ。記憶喪失ってやつで、目が覚めたらお前の寝床なわけ」

 

(ありきたりな答えながら…この世界の知識なぞ皆無、記憶喪失で正解だろ)

 

トムが怠そうに、くしくしと顔をこする。面倒なやつに会っちまったと、しっぽが地面を力無く叩いている。

 

「いや〜、悪いね。礼に食い物でも差し出せたらいいんだけどさ…ちょっと待てよ?」

 

ここで、カウンターにかけてみよう。どうせ今どうなろうと、トムがいるから多分大丈夫。

 

カチカチカチカチカチ…

 

直感を信じ、リュウズ部分を長押しする。

 

ガシャッ!

 

【5カウント:干し肉500g】

 

ドサッ!

 

目の前の地面に紐でくくられた何かが出現した。メッセージから察するに、なにかの干し肉のようだ。

 

「トム、やったな。干し肉ゲットだ」

 

「…ぬぁ!?何やったんだよお前!?」

 

「ギャンブルの賞品ね。ハイリスクハイリターン、チャンスは無限大」

 

 

 

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