賽を持ってつっぱしる   作:久国嵯附

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第4話 ティー?オアコーヒー?

「さぁ、ついたぜ。コーヒーハウス、ソート&スートだ」

「めっちゃ混んでる…」

 

コーヒーとタバコの匂いに包まれた異様な空間が、表通りの一角にあった。オープンテラスは満席、入り口の横にはコーヒーの木が植わった鉢が並んでいた。

 

「…あそこに入って行けと?」

「ああそうさ。鑑定持ちの孤児が、飯と仕事探しでやってきたって事で通すんだ」

 

トムはピョンと肩に飛び乗ってきた。死ぬ前に就活終わったばっかだったのに、また就活すんのかぁ…

 

「坊や、ここは子供にはちと早い…って、オスカーじゃないか。懐くなんて珍しいな?」

「コーヒー問屋のオヤジ、ケマルだ。トルコ訛りのログリッシュを話す、コーヒーには砂糖たっぷり」

 

(ログリッシュて…英語…?なんだろうな)

 

ガキにはませた場所だと、太目のおっさんが近寄ってきた。おそらく今のプチ情報は、私以外には鳴き声にしか聞こえてないんだろう。

 

「あー…俺、その、大きな不幸に遭って。泣いてたら…こいつが隣にいたんだ」

「ほほぅ…あいも変わらず不思議な猫だ。坊やはコーヒー、飲んだことあるか?」

「え?うん、まぁ…」

「なるほど、ということはそこそこの家の出なんだな。まぁ、とりあえずマスターにあってみな、お達者で」

 

手に持ったキセルでカウンターのほうを指し、ミシミシと音を立てながら元いた煙たいテーブルに戻っていった。

 

「お前、コーヒー飲むのかよ?」

「まあ、人並みには?みんなは飲まないの?」

「手間がかかるし、平民はわざわざ飲まないってだけだな。俺にはあれは泥水だ、紅茶がいい」

 

(ログレス王家は伊達じゃないってか?)

 

やや暗い店内の奥、カウンターに近寄る。やはりというか、このボディではカウンターのテーブルが目の高さとなる。

 

「ガキにはあわせてねぇよ、おとなしく椅子によじ登るんだな」

 

トムは肩からカウンターに飛び移り、高みからこちらを煽る。その椅子というのも、微妙に高さがあるのだ。

 

「猫はいいよな、人並みの高さは普通に飛べるなんてさ」

 

ぽいとカウンターにジャーキーの束を投げ、両手で椅子によじ登る。小さくても男児の体、力はそれなりにあって助かった。

 

「おやじ、今日も来てやったぜ!」

「毎日来てんのかよお前」

「…話が通じる風には話すなって」

 

(そうだった…いまのは普通に鳴いただけなんだよな)

 

トムがバックヤードに向けてやや大きめに声を投げた。周りから見れば鳴いただけ、だけど。

 

「おお、オスカー。今日も来てくれたか…って、その子供はなんだ?」

 

メガネをかけた、ベストとネクタイの似合う中年が奥から出てきた。推理モノにはマストなキャスト、とてもダンディだ…

 

「えっと…その…仕事探しです。今日のねぐらもないんです」

「おや、ワケアリかい?ハンサムなのに哀れなこった」

 

 カウンター下からふたつのカップを取り出し、目の前に並べた。背が少し低く、平たいモノ、背が少し高く深めのものだ。

 

(ティーカップとコーヒーカップ…だっけ?)

 

「なに、ここではどっちのカップが正解かわかればいい。それで資格は十分だ」

 

 恐らくはコーヒーの方を選べというとだろう。

 

「じゃあ、こっちで」

 

 迷わず背の高い方を指差した。

 

「いいセンスだ。」

 

 マスターは金属製の筒をカウンター下から取り出し、カポッと開ける。香ばしいナッツのような香りが漂った。

 

「おお、南米系…」

 

「ほう、そこそこの嗜みがあるのか…」

 

(意識高い”系”JDの嗜みだ。もちろんここまでであり、細かい産地は全くわからないがな)

 

「ドブ汁の違いなんて何もなあなあやろがい。それよりおやじ、ミルクくれや」

 

 トムが悪辣なことをボヤいてるとは知らぬだろう。マスターはカシャッとフタにひとすくいの豆を出し、ミルに入れた。

 

「オスカー、意外な上玉だぞこの少年。あとは…」

 

「クチが立つかだな」

 

 ホー…とおもむろにマスターの頭にハトが出現してひと鳴きした。

 

 ハトは、ログレスの国旗だろうか、青色背景にライオンをあしらった旗を咥えて投げ…

 緑と赤、左寄りに盾っぽい紋章の旗を咥え上げた。これは…ポルトガルだっけ?

 

(ん、幻覚か…!?いや、もしや…?)

 

 ふと、トムの方をちらりと見た。首を傾げ、マスターの顔をぽかんと見つめている。ミルをキコキコと回す音から耳をそらしつつ…

 

「あ、なんて言った?急に何語話してんだ?ログリッシュじゃないのはたしかだけど…」

 

(言葉を変えたってこと?口が立つって…)

 

「クチは立ちますけど…」

 

「聞き取れはしてるようだが、話せないか?」

 

 マスターは少し残念そうな顔をして、ミルから挽きたての粉を小さな鍋にいれた。

 

「ええ…?」

 

(言葉が通じるっていったって、なぁ…?)

 

 英語を口から出してるだけのようだ。切り替え、言語変え?スキルでもないのに、そんなの…

 

やけくそでハトの咥えている旗に、イメージで手を伸ばしてみる。すると、スッと脳内でキュルルルと掲揚台の上がる音がした。

 

(ん、いったかも?)

 

「ええ、もちろん…甘いものも好きですよ」

 

「!?随分とまあ流暢な!いい教養を感じるじゃないか〜」

 

 今までの冷めた顔から、急に暖かみのある笑顔に変わった。こっちが母国語なのか、言外に方言じみたナニカが伝わってくる。

 

「いやいや、急にお前まで何を話して…やいハカル、記憶喪失なんじゃなかったのかよ!」

 

どうやら、トムは人の話すログリッシュが通じているだけだったようだ。トムの頭の上にログレス国旗を咥えた猫が現れ、毛を逆立てて威嚇している。

 トム本人はイカ耳でじっとこちらを見ていた。

 

(意思疎通の警鐘的な…副次効果、みたいな?見えてるのは自分だけっぽいし)

 

「じゃあ、砂糖は?」

 

「おすすめの通りで。」

 

「そうこなくちゃな」

 

 鍋に砂糖をやや多めに入れ、ヤカンから水をそそぎ、いつの間にか火がついていたコンロにかけた。

 

「言葉の数だけ、稼ぎが増える。それが港町さ。ウチのとこに居てくれりゃ、心強い」

 

 おもむろに、マスターのハトがスッとログレス国旗を上げ直した。

 

「あ、何話してたのさ、おやじ」

 

 トムが疲れた顔で鳴く。それを横目に、マスターは目を細め、遠い目をしながら、

 

「ま、そんな使える奴は…早々に上客にスカウトされるだろうがな。ルーゾは意外と貴重だ…」

 

「ルーゾ?ああ、ルシタニアのか…うちのババアが話せるらしいが、アホな俺は話せないわ」

 

(自分も、こうやってやらなきゃ無理なんよなあ…)

 

 自分の中で上げてる旗を変えるイメージをし、ログリッシュにもどした。

 

 

 

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