・鉱夫募集
・工員募集
・荷積係募集
・馬車夫募集
・くみ取り係募集
等々…
「きつい・汚い・危険の力仕事オンパレードだなぁ…」
「そりゃな。まだ稼ぎがマトモな方だぞ?」
コーヒーを飲んだあと、では早速と、掲示板の前に立って観察・受け答えや読み上げを任せられた。コーヒーは甘美味だった。
「これでもマトモ、か…相場なんてしらないしなぁ…」
(おっと、トムとは話してないフリしないと。これは独り言、独り言…)
やはり、識字率はまちまちなのだろう、手描きで雑っぽい絵が添えてあるものも多いが、職探しには情報不足である。
「なあ、これはなんだ?」
「これは、船の乗組員募集とありますね」
「ふーん、日当は?」
「ええ、それは…」
といったように、ちょいちょいと聞かれたり…
「コーヒーはどれがオススメなんだい?」
「ええ…熱いめと温め、甘さや香り、何を一番にするかで変わりますが…」
「そんな細かいこと聞いてないよ、坊やのオススメさ」
見た目から入ってか、興味本位に好みを聞かれたりと、少しずつ見られ始めている。
「看板猫と美少年、この店の華が増えたわけだ」
「鑑定スキルはまだ伝えてないが、言わないほうがいいかねぇ…」
「言わないで正解だ、贅沢すぎる素材になるからな」
今のところ、ログリッシュ以外の話者はいない。他言語の訛りらしきものを、言葉尻に感じるくらいだ。
「…それは、時計かい?」
「え?ええ、今は正午を過ぎたところです」
「そうか、そろそろ駅に出るか…ありがとさん」
首からかけてる宝物、【時計機能付カウンター】は、うまくカモフラージュになっているようだ。
「時計じゃないだろ、変なスキルが本体だろ?」
トムがボヤキながら俺のスネを尻尾でペチペチ叩く。当然、猫がご機嫌ナナメになっているようにしか見られていない。
「見たいか?オスカー」
「オスカーじゃねぇし…うぜぇ…」
「ちょうど、ムズムズしてたんだよなぁ…」
「ちょっ…近ぇよ!なんか様子が変だぞ?」
ああ、ソシャゲの時限イベントタイムだなぁ…などと思い、手が急にソワついていたのだ。
「8、いや、6ぐらいでいい。ねね、いいだろう?」
「なんのこと言ってんだよ…」
手元でカチカチとリュウズをノックし、6までメーター表示を持っていく。
「それ、ポチッとな」
「ま、まさか…」
ガシャッ!キリキリキリ…!
【6カウント:良く〇〇〇客】
(なんだこれ…謎掛け?はずれ?)
「ああ…やっと腰がおろせるな」
「ぬぬ!?くっせェ…血なまぐさいぞ!?」
入口から長身の紳士客が入ってきた途端、トムがウッと顔を下に伏せた。が、何も別に悪臭はしてこない。
「マスター。ジンジャーブレッドと、アッサムティー、シナモンスティック」
セット注文をし、新聞を脇に抱えて小さめのテーブルについた。懐からタバコを取り出し、テーブル端の青い突起に近づけ…
ビッ!シュゥゥゥ…
小一時間前、最初に見たときは驚いた。エーテル式の着火装置だそうで、まあ、灰皿の延長みたいなものだそう。
「あいつ、おそらくシめたあとだぜ」
「ふむ…エキゾチックながら少し贅沢で洒落た注文ですね…」
「ありゃあ、ただの臭み消しだよ。稼いだ金でどっか飲みに行く前の一服だ」
「…っスゥゥゥ…宵越しにはちぃと贅沢なほどツけてもらえたしなぁ…」
ホー…と例のハトが紳士の頭上に現れ、『赤地に5枚の白い花びら風車』の旗を咥え上げた。
(赤地に白い花…香港だっけ?)
他の客とやはり何か違うようだ…自分の言葉は変えないまま、それとなく観察してみる。
「ぬぅ?やつは根っからの九龍育ちみたいだな…九粤(ガウユエ)とか言うローカルの言語。意味は分からんがな…」
(トム…ワードの響きや抑揚で、わかった感じかね)
「なかなか儲けれたみたいだぞ…」
トムの聴力で聞こえる程度にボソリという。
「やっぱ、話せたか。人数か、それともグレードか…昼前に手の早いことだぜ」
もはや驚かない様子のトムだが、確かに仕事が早い。
「だけど、6賭けの結果がアレよ?」
「ぬぅ…知らんがな。説明としては?」
「良く〇〇〇客、だとさ」
「良く人消す客、なんてなぁ?」
(6カウントでそんなヘビーなの来るかねぇ…)
『良く人消す客』などと、そんなものは14カウントくらいじゃないと出ない…と思いたい。
「ちょっと気になってくるなァ…」
「おいおい…馬鹿な真似はやめろ❔」
ふと何気なくカウンター側を見ると、マスターがセットをちょうど用意し終えたところだった。
(人増えてきたし、ちょいとサービスタイムだ…)
「マスター、ちょっと担当入ってみても?」
「…?まあ、忙しくなってきたし…やってみろ」
タイミングが良かったのか、すんなりいった。
「お待たせしました、ジンジャーブレッド、アッサムティー、シナモンスティックです」
「ああ、ありがとう」
当然のように、ログリッシュで短く返してきた。ペコリと一礼し、脳内でキュルルルと九粤(ガウユエ)に掲げ変え…
「それでは、ごゆっくり」
さり気なくといったように言葉を残し、踵を返した。
「ンン〜?君、話せちゃうのかい?」
やはりか、ログリッシュではない時の話し方は田舎のヤンキーそのもの。
野郎口調には恐れず、振り返ってみる。ニヤニヤした男が、摘んだシナモンスティックでこちらを指していた。
「楽しく卓を囲える程度には」
「いや、上等やないかい、その言い方は」
どこで見たか、中国語圏には、『卓には飯と麻雀とをかけた表現もある』らしい…スキルもあって一本キマったようだ。スティックをさしたままのカップから、紅茶をズズッとすすり…
「いつ頃からかたま来てる店だが…初めてだぜ、話せたのは」
「自分は初めて…というより、一人で出歩くのが初めてでしてね」
「ログリッシュと九粤(ガウユエ)が話せる箱入り美少年か…」
ふーむ…となにやら哀れみの眼差しにかわり、また意味深なニヤつきにもどる。ふと、ポケットからメモ帳とペンを取り出し、何かを走り書きした。
「もし、酒とバクチに覚えがあるなら、日が落ちるころにココに来いよ。そんで、このメモをみせりゃ…お前のいるべき場所が見つかるかもしれないぜ?」
メモをちぎってぐっとポケットに押し込んできた。そして人差し指と中指を揃え、トントントンと机を叩き…
「じゃあな」
ログレス国旗を咥えたハトがこちらにウィンクした。