賽を持ってつっぱしる   作:久国嵯附

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第5話 良く〇〇〇客

・鉱夫募集

・工員募集

・荷積係募集

・馬車夫募集

・くみ取り係募集

 

等々…

 

「きつい・汚い・危険の力仕事オンパレードだなぁ…」

「そりゃな。まだ稼ぎがマトモな方だぞ?」

 

 コーヒーを飲んだあと、では早速と、掲示板の前に立って観察・受け答えや読み上げを任せられた。コーヒーは甘美味だった。

 

 

「これでもマトモ、か…相場なんてしらないしなぁ…」

 

(おっと、トムとは話してないフリしないと。これは独り言、独り言…)

 

 

 やはり、識字率はまちまちなのだろう、手描きで雑っぽい絵が添えてあるものも多いが、職探しには情報不足である。

 

「なあ、これはなんだ?」

「これは、船の乗組員募集とありますね」

「ふーん、日当は?」

「ええ、それは…」

 

 といったように、ちょいちょいと聞かれたり…

 

「コーヒーはどれがオススメなんだい?」

「ええ…熱いめと温め、甘さや香り、何を一番にするかで変わりますが…」

「そんな細かいこと聞いてないよ、坊やのオススメさ」

 

 見た目から入ってか、興味本位に好みを聞かれたりと、少しずつ見られ始めている。

 

「看板猫と美少年、この店の華が増えたわけだ」

「鑑定スキルはまだ伝えてないが、言わないほうがいいかねぇ…」

「言わないで正解だ、贅沢すぎる素材になるからな」

 

 今のところ、ログリッシュ以外の話者はいない。他言語の訛りらしきものを、言葉尻に感じるくらいだ。

 

 

「…それは、時計かい?」

「え?ええ、今は正午を過ぎたところです」

「そうか、そろそろ駅に出るか…ありがとさん」

 

 首からかけてる宝物、【時計機能付カウンター】は、うまくカモフラージュになっているようだ。

 

 

「時計じゃないだろ、変なスキルが本体だろ?」

 

 トムがボヤキながら俺のスネを尻尾でペチペチ叩く。当然、猫がご機嫌ナナメになっているようにしか見られていない。

 

「見たいか?オスカー」

「オスカーじゃねぇし…うぜぇ…」

「ちょうど、ムズムズしてたんだよなぁ…」

「ちょっ…近ぇよ!なんか様子が変だぞ?」

 

 

 ああ、ソシャゲの時限イベントタイムだなぁ…などと思い、手が急にソワついていたのだ。

 

「8、いや、6ぐらいでいい。ねね、いいだろう?」

「なんのこと言ってんだよ…」

 

 

 手元でカチカチとリュウズをノックし、6までメーター表示を持っていく。

 

「それ、ポチッとな」

「ま、まさか…」

 

ガシャッ!キリキリキリ…!

 

【6カウント:良く〇〇〇客】

 

(なんだこれ…謎掛け?はずれ?)

 

「ああ…やっと腰がおろせるな」

 

「ぬぬ!?くっせェ…血なまぐさいぞ!?」

 

 

 入口から長身の紳士客が入ってきた途端、トムがウッと顔を下に伏せた。が、何も別に悪臭はしてこない。

 

「マスター。ジンジャーブレッドと、アッサムティー、シナモンスティック」

 

 セット注文をし、新聞を脇に抱えて小さめのテーブルについた。懐からタバコを取り出し、テーブル端の青い突起に近づけ…

 

ビッ!シュゥゥゥ…

 

 小一時間前、最初に見たときは驚いた。エーテル式の着火装置だそうで、まあ、灰皿の延長みたいなものだそう。

 

 

「あいつ、おそらくシめたあとだぜ」

「ふむ…エキゾチックながら少し贅沢で洒落た注文ですね…」

「ありゃあ、ただの臭み消しだよ。稼いだ金でどっか飲みに行く前の一服だ」

 

 

「…っスゥゥゥ…宵越しにはちぃと贅沢なほどツけてもらえたしなぁ…」

 

 ホー…と例のハトが紳士の頭上に現れ、『赤地に5枚の白い花びら風車』の旗を咥え上げた。

 

 

(赤地に白い花…香港だっけ?)

 

 

 他の客とやはり何か違うようだ…自分の言葉は変えないまま、それとなく観察してみる。

 

「ぬぅ?やつは根っからの九龍育ちみたいだな…九粤(ガウユエ)とか言うローカルの言語。意味は分からんがな…」

 

(トム…ワードの響きや抑揚で、わかった感じかね)

 

「なかなか儲けれたみたいだぞ…」

 

 トムの聴力で聞こえる程度にボソリという。

 

「やっぱ、話せたか。人数か、それともグレードか…昼前に手の早いことだぜ」

 

 もはや驚かない様子のトムだが、確かに仕事が早い。

 

「だけど、6賭けの結果がアレよ?」

「ぬぅ…知らんがな。説明としては?」

「良く〇〇〇客、だとさ」

「良く人消す客、なんてなぁ?」

 

(6カウントでそんなヘビーなの来るかねぇ…)

 

『良く人消す客』などと、そんなものは14カウントくらいじゃないと出ない…と思いたい。

 

「ちょっと気になってくるなァ…」

「おいおい…馬鹿な真似はやめろ❔」

 

 ふと何気なくカウンター側を見ると、マスターがセットをちょうど用意し終えたところだった。

 

(人増えてきたし、ちょいとサービスタイムだ…)

 

「マスター、ちょっと担当入ってみても?」

「…?まあ、忙しくなってきたし…やってみろ」

 

 タイミングが良かったのか、すんなりいった。

 

 

 

「お待たせしました、ジンジャーブレッド、アッサムティー、シナモンスティックです」

「ああ、ありがとう」

 

 当然のように、ログリッシュで短く返してきた。ペコリと一礼し、脳内でキュルルルと九粤(ガウユエ)に掲げ変え…

 

「それでは、ごゆっくり」

 

 さり気なくといったように言葉を残し、踵を返した。

 

「ンン〜?君、話せちゃうのかい?」

 

 やはりか、ログリッシュではない時の話し方は田舎のヤンキーそのもの。

 

 野郎口調には恐れず、振り返ってみる。ニヤニヤした男が、摘んだシナモンスティックでこちらを指していた。

 

「楽しく卓を囲える程度には」

「いや、上等やないかい、その言い方は」

 

 どこで見たか、中国語圏には、『卓には飯と麻雀とをかけた表現もある』らしい…スキルもあって一本キマったようだ。スティックをさしたままのカップから、紅茶をズズッとすすり…

 

「いつ頃からかたま来てる店だが…初めてだぜ、話せたのは」

「自分は初めて…というより、一人で出歩くのが初めてでしてね」

「ログリッシュと九粤(ガウユエ)が話せる箱入り美少年か…」

 

ふーむ…となにやら哀れみの眼差しにかわり、また意味深なニヤつきにもどる。ふと、ポケットからメモ帳とペンを取り出し、何かを走り書きした。

 

「もし、酒とバクチに覚えがあるなら、日が落ちるころにココに来いよ。そんで、このメモをみせりゃ…お前のいるべき場所が見つかるかもしれないぜ?」

 

メモをちぎってぐっとポケットに押し込んできた。そして人差し指と中指を揃え、トントントンと机を叩き…

 

「じゃあな」

 

 ログレス国旗を咥えたハトがこちらにウィンクした。

 

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