【15】
紫色の空の下、焚き火の音が響いている。
タイタンはクロークを深く被った男に銃の扱い方を教えていた。
── ファニングショット
かつてハンターから教わった技だ。
「助かりました!見かけ次第殺されてしまうので…」
「…ええ」
ゴーストは男のゴースト ── グリントと話をしている。
「…言っておくが悪あがき程度にしか役にはたたん」
アウォークンの男 ── クロウは怪訝そうな顔をする。
「何故そんな技術を覚えたんだ?」
タイタンは大真面目に言う。
「格好いいからだが?」
クロウは呆気にとられた顔をし、破顔した。
男はそれから目を背けて言った。
「…行くぞ。目的地はもうすぐだ」
【16】
「噂通りの腕だな」
太ったフォールン ── スパイダーが嘲るように言った。
「期日ギリギリだが。まぁ…いいだろう」
スパイダーのバンダル ── 一般的な体格のフォールンによって拘束されたクロウが理解できないように言う。
「…どういう事だ?」
「なに、可哀想な奴がいるから連れてきてくれと頼んだだけだ」
スパイダーは汚らしい嗤い声を上げた。
「せっかくだ追加の報酬でもやろう」
タイタンの方に身を乗り出す。
「…いらん」
彼はにべも無く応えた。
前金は既に受け取っている。
「そいつは良かった!何も用意してないからな!」
再び汚らしい嗤い声が上がった。
「騙していたのですか…」
グリントの軽蔑した声が響く。
ゴーストは居たたまれないようにシェルを背けた。
── もうここに用は無い。
立ち去るタイタンの背中にクロウの悲痛な声が掛かる。
「待ってくれ!」
振り返ることなく進む。
他にどんな方法があるというのだろう。
少なくともタワーのガーディアンにリンチにされるよりはマシな筈だった。
「…」
── 自分はいったい何をしているのだろう。
そんな疑問が尽きなかった。
【17】
それから何年か過ぎた頃。
タイタンは難民をシティに護送していた。
しかし送り届けた彼らの顔には軽蔑が浮かんでいた。
男は彼らの数少ない資産を前金として受け取った上で仕事を行っている。
── この金の亡者め…
そんな侮蔑のこもった言葉を最後に彼らは去って行った。
「待ってくれ」
仕事を終え、去ろうとする男の背に声が掛かる。
「あなたは!?」
ゴーストが驚きの声を上げた。
そこにいたのは数年前、スパイダーの元に売り渡したクロウだった。
男は構わず歩みを進める。
「お前と専属の契約を結びたい」
足を止める。
「バンガードの戦力だけではどうしても手が届かないもの達がいる」
力強い声だった。
「十分な報酬も用意しよう」
男はその場に立ち尽くす。
「頼む」
信頼に満ちた声だった。
「また力を貸してくれ」
タイタンは振り返って言った。
「…報酬は前金で貰う」
クロウは苦笑し、手を差し出す。
「もちろんだ」
タイタンはしっかりとその手を握った。
【18】
── 頼むから面倒を起こすなよ…
そんなクロウの言葉を思い出しながら事の推移を見守る。
銀髪紅眼の女主人。
ゴーストは彼女の怒りに油を注いでいた。
── 疲れているな。
オル・アムラルは怒り狂っている。
しかしその所作には著しい疲労が滲んでいた。
シティにばら撒かれた抗議文の調査依頼。
そんな簡単なはずの依頼は最後の都市の近隣に不明勢力のカバルがいるという事実によってクロウが恐れる『面倒』となった。
彼女の怒りの奥にはこちらに対する怯えが感じられる。
直ぐ傍にカイアトルの正規軍がいるのだ。
── カルスか…
部屋の内装や彼女の装飾から当たりをつける。
彼女の怯えは当然だ。
女帝に見つかれば言い訳も許されず極刑に処されるだろう。
── 彼女の疲労の原因を取り除かなければ…
彼女が冷静さを取り戻し、十分な弁明を行えるようにする必要がある。
だから『取引』を行った。
そして ──
「誇りなさい。貴方は私への不敬を終わらせたのよ」
タイタンはその微笑みを見つめる。
その手にあるのはウェイストランダー ── 男の働きに対する初めての『後払い』の報酬だった。
── その旅路は報われたのだ。