【19】
「おい返事をしろ!」
その声にゴーストは目を覚ます。
そして思い出した。
「クロウ!アハンカーラです!」
通信から息を呑む音が聞こえる。
「どういうことだ?」
状況を説明しようとして気付く。
何も異常が無いのだ。
空は晴れ渡り、遠くには白銀の山々が見渡せる。
ふと物音に視線を動かすと自身の主が頭を振り、立ち上がろうとしていた。
「…状況は?」
タイタンは言葉少なに確認する。
「それを聞きたいのはこっちだ。何故禁足地にいる?」
タイタンはピクリと反応すると観念したように報告を始めた。
「依頼の完了直後、おそらくアハンカーラに襲われ、そして ── 」
── 何も起こらなかった。
報告になっていない報告。
「…そうか」
それに対してクロウは納得しているようだ。
「何か知っているのですか?」
ゴーストは薄々察しながらも質問する。
「…知る必要は無い」
予想通りの答えが返ってきた。
「依頼はここで終了だ。何らかの補填はさせて貰う」
「必要ない」
タイタンは即答する。
クロウが苦笑する。
「お前が良くても彼女は許さんだろう」
もっともだった。
ゴーストは怒り狂うオルを想像し、ぶるりとシェルを震わせた。
「ただ先に詳細な報告を済ませてもらいたい。場所は ── 」
「俺がタワーに出向こう」
タイタンの応えに空気が硬直する。
「いいのか?」
「…いつまでも避けるわけにはいかないだろう」
彼は今まで決してタワーに立ち入ろうとはしなかった。
三人を思い出すからだ。
「…歓迎しよう」
── ハンガーで待っている。
クロウがそう言い残して通信が切れる。
「タイタン、私は…」
話を切り出す。
今回の件は自分の失態だった。
主は竜の手綱を操っていたのにそれを台無しにしたのだ。
「…」
タイタンは左腕の骨を見ている。
ゴーストもスキャンするがあの不穏な波形は確認できない。
そこにあるのはただの朽ちかけた骨だった。
「…俺もお前の忠告を無視した」
── だからこれでチャラだ。
タイタンは拳を出す。
ゴーストはその意を汲み取り、シェルを拳にぶつける。
一回、二回。
ゴーストに拳は無いがフィストバンプという奴だ。
「…クロウへの詳細な報告はお前に任せる」
「チャラじゃなかったんですか?」
「それとこれとは話が別だ」
ゴーストは溜息を吐き、尋ねた。
「それならオルへの報告も代わりましょうか?」
「それは自分でやる」
明るい笑い声が響く。
二人はジャンプシップに乗り、飛び立っていく。
後に残されたのは全てが眠りについたような静寂だけだった。
【20】
鼻歌でも歌いたい気分だ。
紅茶を入れて準備を整える。
「~♪」
待ち人がもうすぐ帰ってくるのもそうだが、何より今回の追加報酬だ。
バンガードの管理する禁じられた伝承。
その危険性から封じられたある英雄の資料が報酬として支払われたのだ。
── クロウはまた疲れた目をしていたけれど。
よっぽどのことが起こったらしい。
しっかりと労ってやらねばと気合いを入れる。
遠慮の無い足音が響いてくる。
クスリと笑みが零れる。
「お帰りなさい。大変だったみたいね?」
そうやって彼を出迎えた。
── 彼の不器用な報告を急かさずに聞く。
どうやら骨からアハンカーラの力は失われたらしい。
内心ほっとする。
── パートナーが危険物を扱ってるなんて気が気じゃないもの。
そしてクロウの真意を悟る。
受け取った報酬はとあるウォーロードと竜の奇妙な友情の物語。
ヘフンド ── 彼が赴いた城塞はその縄張りだ。
そして彼が左腕に括り付けたのはその遺骸の一部。
竜の怒りを恐れ、城塞から逃げ出したキングスのエリクスニー達。
ガネスに拾われた彼らが厄介払いとして取引に紛れ込ませたのだ。
── 因果なものね。
そしてアハンカーラが関係ある以上、情報は統制される。
── でも私に渡すってことはそういうことよね。
彼の報告が終わったのを見計らい、話を切り出す。
「 ── そういえばあの地域にはとある伝説が残ってるの」
ヘフンドはお前の中に古い友の姿を見い出し、傲慢を嘲笑いつつも見逃したのだ。
── それをそのまま伝えるのは品が無い。
それは何も言わず眠りについた竜の誇りに泥を塗る行為だ。
だから彼女は語るのだ。
かつて火星の砂漠で養父がそうしてくれたように。
── まぁ、初めてだから上手く出来るかわからないけど。
どうかその栄光が届きますようにと。
「ナイームの伝承はご存じ?」