【3】
無数の重火器が放つ冷たい鉄の輝きに囲まれながらも、男は微動だにしなかった。
「取引がしたい」
タイタンが、低い声で静かに告げる。
「意図が読めないわね」
オルは薄い唇を冷ややかに歪め、値踏みするように男のアーマーを見つめた。
彼の表情はヘルムに遮られ、窺い知ることはできない。
「お前がガネスから受け取った骨を貰う。代わりに ── 奴をお前に引き渡す」
オルは無言のまま、顎で部下に合図を出した。
奥からカバル兵が持ってきたのは、今にも砂となって崩れそうなボロボロの複数の骨だった。
「これはナンニが持ち帰った物よ。取引が成立していないことくらい、見れば分かるでしょう」
オルは散らばった『ゴミ』を冷酷に見下ろし、虚言は許さないとばかりにタイタンを睨みつける。
「ガネスはエーテルの供給を餌に、エリクスニーたちを従えている。その上、私の支払った前金でウォーカーまで用意したのよ?こんなゴミのために命を賭けるというの? 理由を言いなさい」
周囲を囲むカバル兵の指がトリガーにかかる。
その膠着状態の中で、タイタンは平然と言い放った。
「その骨が格好いいからだ」
「…はぁ?」
引き金を絞りかけていたカバル兵たちも、あまりの回答に言葉を失い、互いに顔を見合わせる。
「…貴方は自身のファッションのために、命を賭けてこれが必要だと言うのかしら?」
「そう言っている」
オルは呆れ果て、完全に言葉を失った。
ため息をつく気力すら奪われたように、片手で顔を覆っている。
「…好きになさい」
相棒であるゴーストが、即座に骨を光の粒子へとトランスマットし、主と共に部屋を退出していく。
重厚なハッチが閉まった瞬間、ゴーストが興奮気味に浮き上がった。
「流石ですタイタン! あえて愚か者を演じて詮索を避けるなんて!」
「? 何のことだ」
タイタンの返答は、掛け値無しの本心だった。
一方、部屋に残されたオルは、ひどく疲れたように指示をする。
「ナンニ、あのガーディアンに監視を付けなさい。もし、逃げるようなら ── 分かっているわね」
ナンニはその命令を肯定するように、小さくシェルを駆動させてから静かに去って行った。
手を外したオルの顔には、つまらなそうな表情が浮かんでいた。
【4】
「…やはり、私は反対です」
薄暗い外縁の廃墟。ガネスのアジトに程近いその場所。
ゴーストが、手に入れた『報酬』をスキャンしながら不満げに言った。
「見てください、オル・アムラルからガネスへの抗議文を。あの骨はどう見ても…」
「価値のないゴミだ」
タイタンは左腕のガントレットに、ベルトで強引に括り付けられた、不気味に変色した骨を、無骨な指先でなぞった。
「ガネスは骨をゴミだと思った。オル・アムラルはそれを侮辱だと受け取った。この骨の本質に気づいていなかっただけだ」
「だからといって、わざわざ報復を引き受けるだなんて…」
ゴーストはたまらず、主の前に回り込み、電子音を尖らせて言葉を続けた。
「その骨の波形は不穏です。あなたなら希竜の呪いすら飼い慣らせるかもしれません。織目も非常に安定しています。でも…不安です」
タイタンの鋼鉄の拳が、みしりと音を立てて強く握り締められる。
その瞬間、ボロボロのゴミに過ぎなかったはずの骨から、凍りつくような暴力的な暗黒のエネルギーが脈打ち、緑色の無数の『糸』が空間を引き裂くような『刃』を形成した。
「ゴースト、これはビジネス。お互いに損をしない取引だ」
タイタンは驚愕で硬直したゴーストのシェルを拳で優しく小突き、それから淡々と語りかけた。
「雇い主は手を汚すこと無く復讐できる。嘘つきは突き出される。そして俺はアハンカーラの骨をただ同然で手に入れる」
「損はしていない」
ゴーストは言葉を失い、やがて諦めたようにため息交じりの電子音を鳴らした。
「…ええ、今の所は。ガネスを除いてね」
タイタンは左腕の状態を確かめるように、ガントレットをさり気なく、しかし何度も見ている。
その無機質な背中からは、隠しきれない喜びが滲み出ていた。
そういえば、主はいつになく饒舌だった。
「…気に入ったのですか、タイタン」
「ああ」
短く、にべもない返答。
ゴーストは今度こそ、深く大きなため息を吐くしかなかった。