希望に満ちた無知   作:ナインボールの使者

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相棒が放つ誘導指示に従い、タイタンは崩壊する拠点を平然と走り抜ける。

 

その左手には、ストランドの糸によってミノムシのように縛り上げられた、ガネスを引きずっていた。

 

「タイタン! 開けた場所に出ます、気をつけて!」

 

脱出口である広場は目前だった。

しかし、ハッチを抜けた瞬間、無数のレーザーサイトが、タイタンのアーマーを這うように走る。

 

「スナイパーです! 完全に包囲されています!」

 

「…面倒だな」

 

ゴーストは大慌てで周囲の熱源をスキャンする。

 

だが、タイタンが右手のハンドキャノンを構えようとした刹那、轟音とともに上空からカバルのカーゴシップが着陸した。

 

カバルの近衛兵たちを伴い、銀髪を揺らすオルが現れ、凛とした声を響かせる。

 

「これ以上、騒ぎを大きくすればバンガードの介入を招くわ。エーテルの供給なら、この私が融通してあげてもよろしくてよ」

 

オルは微笑む。

 

「エリクスニーとして、立場も保証するわ」

 

『フォールン』ではなく、誇り高きエリクスニーへ利権を突きつけるオルの言葉。

 

飢えた兵たちの銃口が、迷うように、しかし確実に下がっていく。

 

彼らは静かに左右へと分かれ、中央の道を厳かに開けた。

 

「ご苦労様。良い仕事ぶりね」

 

「…まだ、終わっていないが」

 

「十分よ。後は此方で始末をつけるわ」

 

オルは男の左腕の骨に視線を落とした。

それは、かつてと違い、恐ろしい気配を放っている。

 

「まさか、本物だったとはね」

 

「…」

 

タイタンによって、足元へと引きずり倒されたガネスを見下ろし、彼女は静かに語りかけた。

 

「お前は、自らの栄光という『歴史』を自ら穢し、私の大切な家族を侮辱した」

 

口元に、美しい微笑が浮かぶ。

 

「でも、許してあげても良いわ」

 

低く獰猛な唸り声。戦闘用に調教された、カバルの猛獣たちが近づいて来る。

 

「…私のウォービーストから、無事、逃げ切れたらね」

 

「…武器は、無いのか」

 

ガネスの静かな問いに、オルは、無言のまま合図を送った。

 

応じた近衛兵が、ナイフを冷酷に地面へと放り投げる。

 

ナイフを拾い上げ、ボロボロのクロークを深く被り直したガネスが、戦士の構えを取る。

 

かつての『竜狩り』の面影が、その刹那に蘇っていた。

 

隣に立つタイタンの右手が、みしりと重い音を立てて、『ファースト・カース』を強く握り締めた。

 

── 不服なのかしら。

 

意外だな、とオルは思った。

改めて見ると、その銃には随分と使い込まれた跡がある。

 

── 怒りに溺れて、目が曇っていたわね。

 

あれは、ただの玩具ではない。

 

オルの気づきを置き去りにしたまま、『処刑』が始まった。

 

ガネスは泥酔によって、踉めきながらも、かつてを思わせる技術で健闘する。

 

しかし、猛獣の牙に利き手を噛み砕かれ、ついにナイフを取り落とした。

 

ウォービーストは獲物の苦痛を長引かせるために末端からその肉をなぶり、引き裂いていく。

 

タイタンのゴーストが耐えかねて目を背ける中、オルは隣の男を見つめた。

 

彼は目の前の光景から ── 目を逸らさず、ただじっと見つめていた。

 

── 同情。それだけじゃない…『共感』。

 

落ちぶれたこの男の姿は、いつか自分たちが辿るかもしれない未来。

 

オルは泥中のナイフを静かに拾い上げた。

 

かつての英雄、その傍らへと歩み寄り、血と泥でドレスの裾が汚れることも一切厭わず、気高く膝をつく。

 

ウォービーストたちが女主人から静かに離れていく。

 

「貴方の偉大なる功績に ── 敬意を表します」

 

ガネスはすべてを悟ったように、静かに目を閉じた。

 

オルはその首筋へ、速やかな終わりを突き立てる。

 

彼女の背後に控えていたカバルの近衛兵たちが、金属音を立てて胸甲を叩き、カバル式の敬礼を捧げた。

 

その一部始終を見守っていたエリクスニーたちもまた、各々の種族のやり方で、死にゆく戦士へ深い哀悼を表した。

 

【8】

 

オルは膝をついたまま、静かにタイタンを見上げた。

 

そのドレスは返り血に塗れていたが、どこか神聖なほどに美しかった。

 

「彼は、此方で丁重に弔うわ」

 

「そうか」

 

ヘルムの奥の気配がわずかに和らいだのを認め、オルは立ち上がり、ドレスを払って話を切り出した。

 

「そういえば、報酬の話がまだだったわね」

 

「もう貰っている」

 

タイタンはぶっきらぼうに、しかしどこか自慢げに、自身の左腕を示した。

 

そこには、彼女が『ゴミ』扱いしたアハンカーラの骨が、強引にベルトで括り付けられていた。

 

しかし、その歪な取り付け方は高貴なハンティングトロフィーのような独特の重厚さを醸し出している。

 

それは、かつて故郷で聴いた栄光の歴史を思い起こさせるものだった。

 

悪くない。むしろ ──

 

「イケてる」

 

オルが小さく微笑むと、背後のナンニが睨みつけるようにシェルを向けてきた。

オルはナンニに小さく舌を出して応える。

 

「私の無知を認めるわ」

 

「依頼には正当な報酬が必要。でも、私は『ゴミ』を報酬にはしない」

 

彼女は、鈍い銀光を放つ、テックス・メカニカ製のショットガン『ウェイストランダーM5』をタイタンへと差し出した。

 

「誇りなさい。貴方は、私への不敬を終わらせたのよ」

 

タイタンは無言でその『報酬』を受け取り、その感触を確かめる。

 

そして主を失った広大な倉庫を一瞥すると、ゴーストを伴い、ゆっくりと歩み去って行った。

 




ED BGM:Keep of Voices (Destiny 2: Forsaken Original Soundtrack)
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