希望に満ちた無知   作:ナインボールの使者

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ガネスへの抗議文【4/4】

 

 

 

【7】

 

相棒の誘導指示に従い、タイタンはガネスの拠点を走り抜ける。

 

その左手にはストランドの糸によってミノムシのように縛り上げられたガネスを引きずっていた。

 

「開けた場所に出ます、気をつけて!」

 

脱出口である広場は目前だった。

 

しかしハッチを抜けた瞬間、無数のレーザーサイトがタイタンのアーマーを這うように走る。

 

「包囲されています!」

 

「…面倒だな」

 

ゴーストは周囲の熱源をスキャンする。

 

だがタイタンが右手のハンドキャノンを構えようとした刹那、轟音とともに上空からカバルのカーゴシップが着陸した。

 

現れた兵たちの装甲はかつて実質的な死刑宣告として前線に送られた『サンド・イーター』のものだ。

 

カバルの警戒陣形の中、銀髪を揺らすオルが現れ、凛とした声を響かせる。

 

「これ以上騒ぎを大きくすればバンガードの介入を招くわ。エーテルの供給ならこの私が融通してあげてもよろしくてよ」

 

オルは微笑む。

 

「エリクスニーとして立場も保証するわ」

 

『フォールン』ではなく、誇り高きエリクスニーへ利権を突きつけるオルの言葉。

 

飢えた兵たちの銃口が、迷うようにしかし確実に下がっていく。

 

彼らは静かに左右へと分かれ、中央の道を厳かに開けた。

 

「ご苦労様。良い仕事ぶりね」

 

「…まだ、終わっていないが」

 

「十分よ。後は此方で始末をつけるわ」

 

オルは男の左腕の骨に視線を落とした。

それはかつてと違い恐ろしい気配を放っている。

 

「まさか、本物だったとはね」

 

「…」

 

タイタンがガネスを足元へと放り出すと彼を縛る緑の糸は音もなく虚空へ霧散した。

 

足元のガネスを見下ろし、彼女は静かに語りかける。

 

「お前は自らの栄光という『歴史』を自ら穢し、私の大切な家族を侮辱した」

 

口元に美しい微笑が浮かぶ。

 

「でも許してあげても良いわ」

 

低く獰猛な唸り声。戦闘用に調教されたカバルの猛獣たちが近づいて来る。

 

「…私のウォービーストから無事、逃げ切れたらね」

 

「…武器は無いのか」

 

ガネスの静かな問いにオルは無言のまま合図を送った。

 

応じたカバルがナイフを冷酷に地面へと放り投げる。

 

ナイフを拾い上げ、ボロボロのクロークを深く被り直したガネスが戦士の構えを取った。

 

かつての『竜狩り』の面影が蘇る。

 

隣に立つタイタンの右手がみしりと重い音を立てて、『ファースト・カース』を強く握り締めた。

 

── 不服なのかしら。

 

意外だな、とオルは思った。

改めて見るとその銃には随分と使い込まれた跡がある。

 

── 怒りに溺れて、目が曇っていたわね。

 

あれはただの玩具ではない。

 

オルの気づきを置き去りにしたまま『処刑』が始まった。

 

ガネスは泥酔によってよろめきながらもかつてを思わせる技術で健闘する。

 

しかし猛獣の牙に利き手を噛み砕かれ、ついにナイフを取り落とした。

 

ウォービーストは獲物の苦痛を長引かせるために末端からその肉をなぶり、引き裂いていく。

 

タイタンのゴーストが耐えかねて目を背ける中、オルは隣の男を見つめた。

 

彼は目の前の光景から ── 目を逸らさず、ただじっと見つめていた。

 

── 同情。それだけじゃない…『共感』。

 

落ちぶれたこの男の姿はいつか自分たちが辿るかもしれない未来。

 

オルは泥中のナイフを静かに拾い上げた。

 

かつての英雄、その傍らへと歩み寄り、血と泥でドレスの裾が汚れることも厭わず、気高く膝をつく。

 

ウォービーストたちが主人から静かに離れていく。

 

「貴方の偉大なる功績に ── 敬意を表します」

 

ガネスはすべてを悟ったように静かに目を閉じた。

 

オルはその首筋へ速やかな終わりを突き立てる。

 

彼女の背後に控えていたカバルの近衛兵たちが金属音を立てて胸甲を叩き、カバル式の敬礼を捧げた。

 

その一部始終を見守っていたエリクスニーたちもまた、各々の種族のやり方で死した英雄へ深い哀悼を表した。

 

 

 

【8】

 

オルは膝をついたまま静かにタイタンを見上げた。

 

そのドレスは返り血に塗れていたがどこか神聖なほどに美しかった。

 

「彼は此方で丁重に弔うわ」

 

「そうか」

 

ヘルムの奥の気配がわずかに和らいだのを認め、オルは立ち上がりドレスを払って話を切り出した。

 

「そういえば報酬の話がまだだったわね」

 

「もう貰っている」

 

タイタンはぶっきらぼうに、しかしどこか自慢げに自身の左腕を示した。

 

そこには彼女が『ゴミ』扱いしたアハンカーラの骨が強引に括り付けられていた。

 

しかしその歪な取り付け方は高貴なハンティングトロフィーのような独特の重厚さを醸し出している。

 

それは故郷で聴いた栄光の歴史を思い起こさせるものだった。

 

悪くない。むしろ ──

 

「イケてる」

 

オルが小さく微笑むと背後のナンニが睨みつけるようにシェルを向けてきた。

 

オルはナンニに小さく舌を出して応える。

 

「私の無知を認めるわ」

 

「依頼には正当な報酬が必要。でも私は『ゴミ』を報酬にはしない」

 

彼女は鈍い銀光を放つテックス・メカニカ製のショットガン『ウェイストランダーM5』をタイタンへと差し出した。

 

「誇りなさい。貴方は私への不敬を終わらせたのよ」

 

タイタンは無言でその『報酬』を受け取り、その感触を確かめる。

 

そして、主を失った広大な拠点を一瞥するとゴーストを伴い、ゆっくりと歩み去って行った。

 

 

 

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