【9】
── 半年後、シティ外壁。
タイタンは錆びついた欄干に腰掛け、冷たい風に吹かれながら巨大な防壁を眺めていた。
手元のショットガン『ウェイストランダーM5』の感触を確かめる。
その無骨なバレルには細かな擦り傷がいくつも刻まれていた。
視線を防壁の麓へと移すとそこには砂塵に塗れた大勢の難民達の姿がある。
彼らは息を潜め、怯え、互いに寄り添い合っていたが目的地を目前とした安堵が見て取れた。
ここまでは男にとって何時もの光景。幾度となく繰り返してきたビジネスだ。
しかし今その中には彼が未だに見慣れぬ存在がいた。
── カバルだ
旧式ではあるが手入れの行き届いた重装甲のアーマーを身に纏う彼らはオル・アムラルの『家族』だった。
二人のリージョナリーは頭上に浮遊するゴーストと何事か言葉を交わしながら油断なくシティの迎えを待っている。
タイタンはゆっくりと手元の『報酬』を見つめる。
半年前、こうなる原因となった騒がしくも奇妙な『事後処理』の光景を脳裏に浮かべた。
【10】
── ガネス処刑数日後、オルの武器庫。
「バンガードとカイアトルに折衝を取り付けた」
言葉を区切る。
「準備をして貰いたい」
「はい?」
オルの表情が固まる。
── うちのがすみません。
── お構いなく。
── この機材はこちらでいいのか?
彼女の困惑を置き去りにしたまま、ゴーストの指示のもと、カバル兵たちが急ピッチで通信環境の設営を進めていく。
「バンガード側からはクロウが出席する。悪いようにはならないはずだ」
「 ── 」
オルは完全にフリーズしている。
どうやら情報の処理が追いついていないらしい。
その間も準備は手際良く進められ、ついにクロウとカイアトル女帝のホログラムが鮮明に投影された。
通信が繋がった瞬間、先ほどまでの硬直が嘘のように彼女は凛とした態度で二人に向き直る。
静まり返った部屋に彼女の迷いのない声が響く。
彼女が語ったのは自らの半生だった。
── 火星での孤独な目覚め。
── 流刑に処されていたカルス派閥の高官と出会い、拾われ、育てられたこと。
── 暗黒へと傾倒したかつての皇帝カルスへの失望と決別。
── 養父を失い、『家族』を連れての消滅する火星からの脱出。
彼女は理路整然と並べ立てていく。
「父カルスの誘惑を切り捨てたか」
「組織の規模や運用についても我々の防衛に悪影響を与えるものではない。バンガードとしても問題は無いと思うが」
「 ── ふむ」
クロウとカイアトルは提示された情報を厳かに吟味している。
ふと、オルがこちらを見ている事に気付いた。
彼女は目が合ったことに気付くと意を決したようにこちらに向き直る。
「 ── どうして貴方は、ここまでしてくれるの?」
その声には純粋な疑問とほんの僅かに期待が滲んでいた。
ヘルムの奥から彼女を見つめ返し、事実を淡々と告げる。
「前金を払っただろう」
「…?」
オルは言葉の意味を図りかねたように形の良い眉をひそめた。
「あのショットガン、ウェイストランダーだ。あれは良い銃だ。報酬分の仕事はさせて貰う」
── その瞬間、部屋の空気が凍り付く。
彼女の家族たるカバル達は衝撃を受けたように硬直し、傍らのサイオンは顔を手で覆っている。
ホログラムの二人も急変した空気を察して怪訝そうにこちらを見る。
彼女の傍らに浮かぶナンニに視線をやるとシェルをそらされた。
目の前の彼女の美しい眉が吊り上がる。
「 ── そんなの」
その人形のように整った顔には怒りがみるみる広がっていく。
「認められるわけ無いでしょう!! 」