【3】
静寂が戻った祭祀場には穏やかに雪が降りしきっていた。
そこには崖を臨むようにスコーンの意匠が見て取れる釣り牢獄やトーテムが配されている。
断崖の向こうには白銀のカーテンに霞む巨大な影がそびえ立つ。
暗黒時代のウォーロードたちが遺した城塞。
ゴーストはそれを見つめながら言った。
「楽な仕事でしたね」
視線は向けなかった。
使い慣れた愛銃の薬室に淡々と弾を滑り込ませる。
ゴーストは言葉を続ける。
「…あの立ち入り禁止の城塞も例のガーディアンが制圧したそうですよ」
その光の戦士 ── 若き狼、神殺し、選ばれし者。
自分やオルと同じ時期に目覚めた新世代でありながら圧倒的な戦果を誇る最も新しい伝説。
ゴーストは悔しそうにシェルを動かした。
「同じ友人だというのに私達はゴミ掃除です」
ゴーストは言い募る。
「私達だって…」
視線を向ける。
彼の言うことは解る。
クロウが斡旋する仕事はこういった表に出しにくい雑事やオルと共に営む難民護送のようなものばかりだ。
だが最初に二人で決めたことだった。
「…」
ゴーストは沈黙するがまだ不満そうだ。
できるだけ優しく声を掛ける。
「目的は達した。帰還するぞ」
入り口に向かってゆっくりと歩き出す。
ゴーストは諦めたようにシェルを揺らし、追随してきた。
気を取り直したのか話しかけてくる。
「ところで贈り物は決めたのですか?」
揶揄うような声音。
「まぁ、彼女なら何でも喜んでくれるでしょうが」
いつものように鼻を鳴らす。
彼女の顔を思い浮かべながら考えを巡らせ ──
── ─ ── ─
振り返りウェイストランダーを構えた。
ゴーストも異常を感じとり、すでに姿を消している。
そこには異形がいた。
── 人の身を優に超える巨大な肉塊。
── その中心で生々しく裂けた三叉の口蓋。
── 開いた顎の内側に無数の牙がびっしり生え揃う。
── 後方には意思を持つようにのたうつ幾本もの触手。
ゴーストの電子音が驚愕に跳ね上がる。
「これは…宿り!?」
照準を合わせ、引き金を引く。
だが周囲の景色 ── 空間そのものが歪んでいく。
見れば左腕の骨が不気味に発光している。
抵抗は意味を成さず、視界が光に染まっていく。
── そして誰もいなくなった。
異形もタイタンもすべてが何事もなかったかのように消滅していた。
変わらずしんしんと雪が降り積もる。
あとに残されたのは朽ちたスコーンの祭祀場と山間部を吹き抜ける風の音 ── 静寂だけだった。
【4】
── かつて暴君達が支配した凍てつく城塞の石床の底。
湿った冷気と死者の腐臭が混ざり合った薄暗い地下牢だった。
しかしその錆びついた鉄格子は開け放たれ、用を成していない。
ゴーストの声が響く。
「…あの反応は見覚えがあります」
素早く周囲を確認し、警戒を解く。
── 襲っては来ないか…
左腕に括り付けられた骨をじっと見つめた。
「だから警告したじゃないですか」
尖った声でゴーストが言う。
「 ── 不安だと」
その当然の抗議に応えた。
「…他のやり方など無かった」
ゴーストは何かを言おうとしたが、ため息を吐くようにシェルを揺らした。
「…ええ、そうですね」
シェルをこちらに向け、仕切り直すようにゴーストは言った。
「建設的な話をしましょう」
ゴーストのレンズが輝き、建造物の内部構造がホログラムとして立体的に投影される。
「ここは先ほど外から眺めた禁足地の内部のようです」
「…外部との通信はジャミングされているか」
「ええ、ですが宿りの反応はあれ以来ありません」
ホログラムに赤い点が追加される。
「ここにバンガードが通信用に設置したビーコンがあります」
城塞の中心部、巨大な塔の頂上。
「それを使えば外部と通信できるはず」
目的地は決まった。
「行くぞ。ゴースト」
「ええ」
戯けるようにゴーストは言う。
「図らずも禁じられた領域に足を踏み入れてしまいましたね」
足を止め、ゴーストを見る。
彼は言った。
「クロウへの言い訳は自分で考えて下さいね」
深いため息を吐く。
死んだ目をする友人の姿を想像し、うなだれるしか無かった。