【5】
ゴーストを伴い回廊 ── しんと静まり返った石造りの牢獄を歩む。
所々にスコーンが根城にしていたであろう痕跡が見て取れた。
砕けた床を降り、一際狭い通路を進む。
どうやら墓地のようだ。
「…お粗末ですね」
ゴーストが呆れたような電子音を漏らす。
目の前には落とし穴があった。
底には杭が幾本も突き出ている。
「スコーンあるいはウォーロードでしょうか?こんなものルーキーでも引っかかりませんよ」
応えず、飛び越える。
更に進んだ先は迷路のように入り組んでいた。
ゴーストは先行し、スキャンを行っている。
足を止めた。
「どうしました?タイタン」
ゴーストに応えること無く、足元に瓦礫を放り投げる。
瞬間、それに反応して壁面の格子から鉄杭が勢いよく突き出す。
そのまま進んでいたら串刺しだろう。
じっとゴーストを見る。
「おや、気付いていましたか」
ゴーストはわざとらしくシェルを傾げる。
「この程度なら、私の警告など不要でしょう」
その応えは信頼の裏返しだった。
「…」
首を振り、再び歩き出す。
「これならすぐに片付きそうです」
ゴーストはどこか弾んだ声で言葉を続ける。
「あるいは竜狩りを成し遂げられるかも」
彼は珍しく功を焦っている。
それだけ余裕が出来たと言うべきだろう。
それは喜ばしいことだ。
だから何も言えなかった。
「…」
相棒が対抗意識を燃やす英雄。
しかし自分にとってはクロウとの雑談に出てきた彼の友人であり、狂人だった。
── ギャラルホルンをタワーの広場で撃った。
さすがの自分でもそこまではしない。
クロウの味のある表情を見て上には上がいると思ったものだ。
そしてガネスを思い出す。
偉大なる竜狩り ── そんな栄光を極めて尚、彼は泥濘に沈んだのだ。
── 彼女の介錯は彼にとって救いとなっただろうか。
思わず、雇い主の姿を脳裏に浮かべた。
銀髪紅眼の淑女。
彼女はその生い立ちから英雄の物語を好み、伝承の蒐集を嗜んでいる。
もし自分がアハンカーラに挑んだとして ──
彼女はその栄光を賞賛するだろうか。
あるいはその無謀を叱責するだろうか。
「─」
目の前にゴーストの姿があった。
表情はないがシェルやレンズは彼の内心をありありと表現している。
「…誰のことを考えていたか当てましょうか?」
黙ってゴーストを押し退ける。
それでも脳裏からは彼女の微笑みが離れてくれなかった。
【6】
── 地下牢と罠が張り巡らされた墓地。
── かつて断崖を繋いでいた巨大な橋。
── 石壁に囲まれた静謐な中庭とその先の天然の洞窟。
最新の英雄が辿ったであろう道を越え、ストランドを巻き上げ着地する。
外には未だ雪が降りしきり、遠景を見通すことはできなかった。
だが見上げる視線の先、岩肌と一体化するように古びた石造りの塔が傲然とそびえ立つ。
目指す場所は目前だった。
しかし未だに脅威となるものは現れない。
「張り合いがありませんね」
ゴーストを睨む。
さすがに看過は出来ない。
この禁足地に呼び寄せられた以上は ──
崩落した壁を越え、内部に足を踏み入れた瞬間。
視界の色彩が反転する。
床板や壁面に亀裂が入り広がってゆく。
亀裂の先には暗闇 ── 亜空間が覗いていた。
「いよいよお出ましですか」
ゴーストの軽口に応えることなく戦闘態勢を整える。
もはや塔の内部は外観からは有り得ない程の広大な空間となり、虚空に向かって狂ったように螺旋階段が続いている。
─ ─
そこには祭祀場に現れたあの宿りの異形が待ち構えていた。
こちらを囲むように宿りに汚染された眼球が展開されていく。
── やはりそのまま帰してくれるつもりは無いらしい。
ため息を吐く。
狙いを定め、ウェイストランダーの引き金を引いた。