どうやら俺は異世界帰りの元勇者らしい~目が覚めたら元いた世界(?)にダンジョンが出現していたので、自分の中に秘められた力で無双してみる~ 作:記憶喪失22号
「……は?」
目が覚めると、そこは見慣れない部屋の天井だった。
何をそんな物語の主人公のようなべたべたなことを言っているんだと思われるかもしれないが、本当なんだから仕方がない。
「え、マジでどこココ? ……てかなんか身体もめっちゃ怠いな」
寝すぎてしまったのか、身体の節々が痛い。その割にあまり寝た気もしないし、なんだかずっと長い夢を見ていたような眠りの浅さだ。
「うーん、思い出せん……」
試しにどんな夢を見ていたか思い出そうとするが全く思い出せない。まぁ、夢なんてそんなもんだ。
そんなことよりも、今一番の問題はここが何処かということ……。
間取りこそ前の部屋と似通っているが、そこは完全に自分の部屋ではなかった。置いている家具も微妙に違うし、ちょっと私物が無さすぎる。
「昨日はちゃんと自分の部屋で寝たはずだぞ……?」
こちとらしがない普通の高校生。友達がいなくて、クラスからちょっと浮ていることを省けば、概ね普通の高校生だ(血涙)。
なのに、目が覚めたら見知らぬ部屋って……。
「それ、なんてラノベ?」
頬を引っ張ってみるが痛覚はしっかりとあるし、夢から覚める気配もない。
何か情報源になるものは無いかと探してみれば──
「お」
枕元に充電された液晶端末が鎮座していた。やはりこれも、自分がつい最近新調したスマホとは別物。
──せっかく親に頼み込んで最新機種にしたのになぁ。
儚くも、何処かへ消え去ったマイスマホに思いを馳せながら、端末の電源を入れる。
当然のようにパスワードを要求されて、当然のように顔認証でパスワードのロックが解除される。つまり、これは紛うことなき自分の端末だと証明された。
「日付は……記憶通りなのね」
日付を見れば表示は「四月十五日(火)」。春休みが明けて新学期、高校二年生がまだ始まったばかりの頃。全く記憶通りだ。
「マジでここどこぉ?」
やはり周囲を改めて見ても見覚えはないし、ここに来るまでの記憶が無い。思わず情けない声を出して呆然としていると、
コンコンコン。
不意に、部屋のドアがノックされた。
「ファ!?」
予想外の出来事に狼狽えてしまったのは仕方がないと思う。そして、こちらの返事を待たずして、部屋のドアは勝手に開いた。
「キヨタカ~? いつまで寝てるのさー、メッセージしても返事ないし……心配してきてあげたよ~? 早く準備しなきゃ遅刻しちゃうよ~?」
「──なん、だと……!?」
そうして、部屋に入ってきた人物を見て、俺は愕然とした。
だってそこには、中学生あたりから、疎遠になっていた幼馴染が現れたのだから。
しかも更に驚くべきことに、その幼馴染──
「ぱ、パードゥン?」
あり得るはずのない状況に、俺は何故か英語で聞き返してしまう。そんな俺を見て、彼女は呆れたように嘆息した。
「何をまたアホなことを……」
だが、これも仕方がないんだ。
「あ、あのぉ、フウカさん? どうして朝っぱらから俺を起こしに?……というか、俺とお前って、学校が別のはず……」
だって本来、俺とフウカの通う学校は違うのだ。
そして、前述した通り、俺と彼女はこんなラブコメみたいな寝起きイベント起こすほど、親密でもないはずなのだ。
だが、そんな俺の言葉と反応を見て、件の幼馴染さんは更に深いため息を吐く。
「はぁ、まだ寝ぼけてるの? ……私とキヨタカは去年から親元を離れて一緒の学校──
「──なん、だと……!?」
本日二度目の驚愕。しかし、それもやっぱり仕方がない。
だって、目が覚めたら世界がおかしなことになっていたんだから。
・
・
・
初めて袖を通すはずの制服はやけにすんなりと身体に馴染み、それ相応に着心地が良かった。
自分の部屋(学生寮?の一室だった)から出て、幼馴染のフウカと一緒に「探索者養成学校」とやらに登校する。フウカの様子と言えば、別に普通。
「ふんふふん~」
鼻歌交じりに、平然と俺の隣を歩いていた。
その酷く懐かしく思える光景に若干動揺しながらも、それより大きな困惑が俺の胸中を塗りつぶす。
──やぱりどこだいここは?
見慣れない通学路。きっと彼女が隣にいなければ数分としないうちに迷子になる自信があった。
明らかに地元ではない風景に、さっきのフウカの言葉が現実味を帯びる。
最初こそ寝起きやら、見知らぬ場所やらで動揺してしまっていたが、ちょっと落ち着いてきた思考はこんな仮説を導き出した。
──どうやら俺は気が付いたら別の世界……小説やマンガでよくある現代ファンタジーな、パラレルワールドに転移?、憑依?(よくわからんが)してしまったらしい。
おかしなことを言っていると思うかもしれないが、そう思わないとこのチンプンカンな状況の説明がつかない。
そして、そんな世界での俺はどうやら〈ダンジョン〉を攻略するための〈探索者〉を養成する学校に通う生徒らしい。おかしなことを──以下略。
僅かながらに周囲や隣の幼馴染から齎された情報を整理してみても意味不明。俺の平穏な学校生活はどこに行ってしまったんですか? わからないことは盛りだくさん。
──いや、こっからどうすりゃええちゅうねん?
こういうのって普通、転移?、憑依?する前に前振りとして神様的な存在から説明とかあるんじゃないの? ……え? 最近はそういうのは省きがち? あ、そうですか(血涙)。
いや、冗談抜きで、俺はこれからどうするべきなのだろうか。
本気で今後のことを考えようとしたところで、どうやら目的地である探索者養成学校(笑)に辿り着いたらしい。
「ぉぉ……」
やはり見覚えのない校舎。外装から内装までなにやら偉くハイテクな校内を歩き、二年生クラスのある三階まで来た。
「それじゃあ、放課後ね」
「あ、うん」
どうやら、俺とフウカは別クラスらしい。
別れ際、彼女は何故か心配そうに眉間に皺を寄せて、自分のクラス──二年A組に向かった。その姿を見送り、俺は深呼吸をする。
「さてと……」
ここで問題となってくるのが、この世界での俺のクラスはいったいどこなのかと言うこと。
元居た世界では二年三組だったが、そもそもこの学校はクラスの単位が違う。まさかフウカに「俺のクラスどこ?」なんて尋ねれば、寝起きの時より不審がられるだろうしで聞けなかった。
本当に困った困った……と焦ったりながらも、何か情報が無いかと液晶端末をいじっていたら、あっさりと自分のクラスが特定できた。
枕元にあった液晶端末はどうやらこの学校から支給されたもので、学生証の役割も担っていたのだ。科学の力ってスゲー。
そこから得た情報によると、俺のクラスは二年Eクラスなんだとか。
「ここね」
どうやら二年生は全部でA~Eの五クラスあるみたいだ。
朝だというのに元気に騒がしいEクラス。一瞬、ドアを開けるのに躊躇いながらも思い切って教室へと入る。
すると──
「「「……」」」
何故かクラスメイト達が一斉にこちらにどこか冷ややかな視線を向けてきた。
「ア……オハザス」
思わず、内なる陰キャが覚醒して、小さな声で挨拶をしながら、逃げるように自分の席を探す。
クラスは何とか判明したが、液晶端末で自分の席までは分からない。そのはずなのに、何故か俺は自分の席がすぐに分かった。
「おうおう、学年ランキング最下位の最弱野郎がのんびり女と登校ですか。いい御身分ですねぇ~?」
窓際の一番最後尾──いわゆる、当たりの席で屯っていたガラの悪そうな一人の生徒が、厭味ったらしく近づいてくる。
その言葉と、まるで待ち伏せするように屯していた席を見て、俺はどうして別れ際のフウカがあんな顔をしていたのかようやく理解した。
「あー……」
不自然に落書きされた机。周囲には無数のゴミまで散らかっている。そして、明らかに見覚えのあるガラの悪そうな男子生徒。
「なるほどね──」
どうやら、この世界でも俺は質の悪い虐めにあっているらしい。
しかも、虐めの主犯格が元居た世界と同じ奴っていうね。なんでやねん。