どうやら俺は異世界帰りの元勇者らしい~目が覚めたら元いた世界(?)にダンジョンが出現していたので、自分の中に秘められた力で無双してみる~ 作:記憶喪失22号
午前中の授業が全て終わった。感想を一言で述べるのならば、「ヤバい」だった。
一限目の「歴史」から色々と様子がおかしかったが、その後に続いた二限と三限なんて聞いたことのない謎授業だった。
なんだよ、「魔力身体学」とか「モンスター生体学」って……めちゃくちゃファンタジーじゃねぇかよ。
しかも、一年生で学んだ基礎知識が前提の授業なので、真面目に授業を受けていても半分以上が何を言っているかわからない。もう呪文だあれは、長文詠唱の連続だったよ。
「む、無理ゲーすぎる……」
初日からファンタジー学校の洗礼を浴びながら、既にグロッキー。こんな調子でやっていけるのかと不安が募るが、まだ一日は折り返したばかり。
なんなら、午前中は座学だったので、まだマシだったと俺は痛感させられることになる。
何度も言うが、この探索者養成学校は未来の〈探索者〉を養成する教育機関であり、探索者とは危険なダンジョンに潜り、獰猛なモンスターと戦闘を繰り広げながら、値千金のダンジョン資源を持ち帰るのが仕事。
ダンジョンでどれだけ生き残れるか、どれだけ資源を持ち帰られるかが重要視される。そこを一番に養成しなければいけないと言っても過言ではない。
その経験を積む為には何が一番効率的か?
既にお気づきかと思うが、この学校はまだ正式に探索者ではない学生を「現地実習」という名目で、週に何度かダンジョンでの授業が存在するのだ。
「そのうち潜るだろうとは思ってたけど、まさか初日からだとは思わないじゃん?」
昼休みを挟んで、本日の実習割り当てクラスである二年E組は現在、ダンジョンへと繋がる出入り口を管理している関所へと来ていた。
ダンジョンへと潜るための出入り口は日本の要所要所に存在しており、その一つを学校側で管理しているらしい。
流石は探索者養成学校と言ったところか、この関所は学生はもちろん、正規の探索者たちも利用する歴とした施設だ。
「おぉ……」
すれ違う人々の全員が探索者。その姿は絵に描いたような豪奢な鎧具足に、神々しささえ覚えるローブ、猛々しい武器で武装している。
何故か、初めて見る光景のはずなのに、俺は彼らの姿に既視感と妙な懐かしさを覚えた。
──マンガとかアニメでたくさん見たもんなぁ。
やはり、こういうは男心が擽られてワクワクしてしまう。
「よし、それじゃあ各パーティごとに分かれて、事前に配布した
しかし、そんな高揚感もすぐに消え失せた。
美人担任──
このダンジョン実習では四人一組の
話によると、下手をすれば三年間同じメンバーで、そのまま固定パーティとして活動する生徒も少なくないのだとか。これには友達0人のコミュ障ボッチにも優しい仕様である。
──そう思っていた時代が僕にもありました……。
実にファンタジーらしいイベントに、俺が興奮したのも束の間。上げて落すように、一つの現実が突きつけられた。
「何もしなくていいから、足だけは引っ張るんじゃねぇぞ」
「ア、ハイ……」
気になる俺のパーティメンバーの中にスズハラがいたのである。
分厚いプレートアーマーに身を包み、身体と同じ大きさの剣と盾を背負った姿は実に堂に入っていた。
どうやら、スズハラは性格は最悪、喜んでクラスメイトを虐める屑野郎ではあるが、探索者としては有望株であるらしい。対して、俺は探索者としては才能なし、成績も一番下だと知った。
探索者は身体に巡る魔力を用いて、ダンジョンのモンスターに対抗する力──
できることと言えば、魔力を使った基礎的な身体能力の強化と簡単な荷物運び。いわゆる、雑用だった。
まあそもそも、この世界の記憶と経験のない今の俺では、その基礎的な身体強化もどうやって使うかわからないので、できることは実質荷物運びだけ。ガチのお荷物なわけである。
どうにも実力至上主義な風潮があるこの学校で、俺は圧倒的な弱者。そりゃあ虐められるわけですわ。こんな体たらくでよく魔力なんかに適合的な、キヨタカ君よ。
色々と追加で伸し掛かる絶望的な情報。こんなクソ雑魚ナメクジがダンジョンに潜っていいのか? 否、いいわけない。命がいくつあっても足りない。
「──何ちんたらしてる。さっさと行くぞ、今日は十九階層まで潜るんだ」
「ハィィ……」
だが、ここまで来て「やっぱ行きません」と言えるはずもなく、俺はおずおずとスズハラたちに付いて行くしかない。
そう、俺は典型的な「No」が言えない日本人なのである。
・
・
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それはある日、突如として世界の地下に根を張り、その姿を現した。その存在はまだ多くの謎に包まれており、この未知を解明するのも探索者の役割の一つなのだとか。
世界各地にダンジョンへと繋がる
その全容も未だ謎の一つであり、空間を完全に無視したダンジョンは異常な広さを誇っているらしい。
一つ一つが階層になっており、下に行けば行くほど狂暴なモンスターが生息し、それと同時に希少なダンジョン資源が眠っている。
現在、ダンジョンの最深到達階層はアメリカの大型クランパーティが打ち出した47階層となっている。以上、ウィキ〇ディアより引用。
そんな場所に今、俺は降り立った──それも、何故かいきなり
「マナは魔法の準備! カナは攻撃と耐久のバフを頼む!!」
「「わかった!!」」
眼前には狼型モンスター(名前不明)が三体。獰猛な唸り声を上げる獣に怯むことなく、スズハラは的確に指示を飛ばし、剣と盾を構えて最前線にて敵を待ち構える。
「「「GRUUUUGA!!!!」」」
目で追うのが難しいほどの速度で疾走する狼たちは、いつの間にか三方向からスズハラの首や肩、腰を喰い千切ろうと肉薄する。
──こんなの絶対無傷じゃすまない!
俺がそう思ったのも束の間、次の瞬間にはスズハラが華麗な剣と盾捌きで、難なく狼たちを蹴散らしてしまったではないか。
「ぬりぃな! 俺を殺したきゃあと十体は連れてこいッ!!」
ブンッ、と剣風が一帯を走り抜け、遅れて狼たちからか細い悲鳴と鮮血が吹き出た。
バタバタと力なく斃れ伏す狼たちの姿を見て、俺は何もしていないというのに血の気が引いた。近くの岩陰で情けなく隠れていると、スズハラの怒鳴り声が飛んでくる。
「おい雑魚! さっさと魔石とドロップを回収しやがれ! さっさと次に行くぞ!」
「わ、わかりましたぁ!!」
大した戦闘力のない俺が戦闘に介入するのは愚の骨頂。だから、この階層に来てから俺の役割は前述した通りの荷物持ちで、戦闘が終わった後の戦利品回収係であった。
一年生の頃からしっかりとダンジョンに潜り、それ相応の経験を積んできたスズハラたちのダンジョン攻略は至って安定していた。
味方に危険を押し付けて、自分一人だけ安全圏で身を隠す。スズハラたちからの扱いは最悪であるが、死ぬ可能性が限りなく低いこのポジションは正直に言えばありがたい。
──そう思っていたけど、想像以上に自分が情けなく思えてくるな……。
戦闘を重ね、先に進めば進むほどに自分が情けなくなる。
何の記憶も無く、訳も分からないままダンジョンに放り込まれてるとはいえ、やはり俺にも男としてのプライドが少なからずあった。
「今度の休みに、浅い階層で戦闘の練習をしてみるか……」
スズハラたちに気取られないように、独り言を零しながらせっせかと狼たちが落した魔石と素材のドロップを回収する。
これがダンジョンに潜る理由であり、現代のインフラの殆どを支えている主要エネルギーの源。魔石とはその名の通り、魔力を帯びた石の事だ。
今回、灰になった狼から落ちた魔石はそれ一つで時価数万以上するのだとか。そう聞くだけで、ダンジョン攻略がどれほど儲かるかは察しが付くだろう。
一学生でこれなのだ、一流の探索者ともなれば一日で数千から億を稼ぐこともざらにあるのだとか。実に夢がある。
「これで全部だよな……」
ある程度のドロップ品の回収を終えた頃、スズハラたちは気が付けば先に進み始めており、その後ろ姿を慌てて追いかける。
マジでこいつら人の心とかないんか? そう思わなくもないが、おんぶにだっこの状態なので文句も言えない。
「……時間的に下の階層に行くのは無理だな」
「続きは今度の休みにでもしましょ?」
「課題もクリアしてますし、今日は引き上げませんか?」
その後、数度の戦闘を経て、下の20階層へと続く連絡通路の前で、スズハラたちはそんな会話を繰り広げた。
ダンジョンに潜り始めてから二時間ほど。地上に戻るときは徒歩での移動ではなく、各階層の入り口にある
ちなみに、この転移門は一度到達した階層なら無条件で何度も転移することができたりする。ダンジョンに入るときも、この転移門での移動が基本だ。だから、常に効率的に最前線のダンジョン攻略ができたりする。ダンジョンってスゲー。
──お、終わりか……。
三人の会話を少し後ろから聞いていた俺はほっと安堵の溜息を吐いた。
戦闘をしていないとは言え、それでも初めてのダンジョンだ。精神は想像以上に摩耗していた。
「よし、それじゃあ帰るぞ」
「「了解」」
気が付けば方針が決まり、三人は歩き出す。
俺もそれに付いて行こうとした瞬間──
「……ん?」
妙な違和感が全身を駆け巡った。
それは俺だけではなく、スズハラたちも同様で歩みを止めて、咄嗟に警戒態勢を取った。
微かにだが足跡がする。音は背後──26階層へと続く連絡通路の先だ。
「なんだ……?」
次第に大きくなる足音に、スズハラは眉間に皺を寄せた。そして、轟音と共にそいつは現れた。
「BAOOOOOOOOOOOOOOO!!」
耳を劈く咆哮と。そのモンスターを一言で表すのならば、闘牛だった。
しかし、その大きさは一般的な闘牛とはかけ離れ、4tトラックと同程度。明らかに規格外だ。
「Brrrrrrrr……」
その闘牛は気が立っているのか、鼻息を荒げ、血走った眼光でこちらを睨めつけた。
「ッ……!!」
瞬間、蛇に睨まれた蛙の如く、俺の全身は動かなくなる。喉が引き締まり、悲鳴を上げることさえ許されない。圧倒的な死の気配が目の前にいた。
「
恐怖で身体が竦んでいる俺を他所に、スズハラはそのモンスターを知っていたようだ。他の彼の仲間も愕然としていた。
「ど、どうして30階層以降にしか生息しないモンスターがこんなところに……!?」
「は、早く逃げないと!!」
逡巡の思考。このパーティのリーダーであるスズハラが導き出した答えは──
「ッ──全力で走れ!」
「「「うんッ!!」」
当然ながら逃走。戦闘態勢を解き、弾かれたように地面を蹴って走り出す三人。
「え?」
気が付けば三人の姿は遥か先、俺は完全に出遅れた。
「ま、まって……!!」
ようやく絞り出た声を張り上げるか、スズハラたちは微塵も振り返らない。
これも当然だ、俺は彼らの荷物持ちで、足手まとい。別に見捨てたところで良心なんて痛まない、都合の良い捨て駒なのだから。
「BROOOU!」
「ひっ……」
呆気なく見捨てられ、絶望しているとすぐ頭上で生暖かい鼻息が全身を撫で付けた。
見上げるとそこには黒光りした闘牛の鼻先がすぐそこにある。
「くッ……!!」
更に色濃い死の気配に心臓が締め付けられながら、俺の身体は反射的に飛び退き、今まで飾りでしかなかった腰の剣を抜き放つ。
「た、タダで死んでやると思うなよ……!?」
全身がガチガチに震える。剣先なんてぶれにぶれまっくて、殆ど構えられていない。それでも、身体は本能の赴くままに動き出した。
「おりゃぁッ!!」
情けない掛け声とともに、なんの変哲もない普通の鉄剣は闘牛の鼻先に吸い込まれていく。
「BRUU──」
闘牛は俺の攻撃を躱すまでもないと判断したのか、微動だにしない。そりゃそうだ。
所詮は素人、探索者としての戦い方を知らない弱者の一撃だ。これは何の意味もない行動だ。どうせ、俺はこのまま呆気なく目の前の理不尽に殺されるんだ。なら、最後の悪あがきぐらいはしてやろう。……それくらいの感覚だった。
俺の剣は確かに闘牛の鼻先に届く。そして、呆気なく弾かれて、反撃を貰って終わりのはず──
「──え?」
その予定だったのに、これはどういう事だろうか?
「BGEEEEEEEEEA!!?」
再びの咆哮。けれど意味合いが違う。それは絶叫だった。
俺は眼前の予想外の光景に呆然とするしかない。何故か、俺のへなちょこな一撃は眼前の闘牛を鼻先から真っ二つにしてしまったのだ。
「な、にが……?」
まったく腰の入ってない、我ながら攻撃と呼ぶのも烏滸がましい一振りだった。
それなのに、切った感触が無いほど、俺の一撃はあっさりと敵を斬った。
「う、嘘だろ……?」
「これ、夢とかの可能性とかある?」
「そ、そう言われた方が納得できる」
騒ぎを聞きつけて、いつの間にかこの場に戻ってきていたスズハラたちも驚愕している。
──……もしかしてこの剣って実はめちゃくちゃ業物だったりする?
自分で齎したとは到底思えないその結果に、俺は震える剣の刃を凝視することしかできなかった。