どうやら俺は異世界帰りの元勇者らしい~目が覚めたら元いた世界(?)にダンジョンが出現していたので、自分の中に秘められた力で無双してみる~ 作:記憶喪失22号
もしかすると、この世界の俺は強いのかもしれない。そう思ってしまうほど、この前の実習での出来事は衝撃的だった。
それは周囲も同様の反応で、俺以上に驚いている様子だった。
スズハラたちから始まり、今回の件を浅葱先生に報告して、現場を見てもらった時も絶句していた。
『虚偽の申告では……ないんだよな?』
『は、はい……』
なんて気まずいやり取りもあったりなかったり。俺が思ったよりも、あの闘牛君は凄いモンスターだったらしい。
ダンジョンの一件から数日。あれ以来、スズハラたちのあからさまないじめは鳴りを潜め、クラスメイト達からも初日とは違った、奇異の視線が向けられるようになった。
思いがけず、一時的な平穏を手に入れて喜んだのも束の間、今回の件はそれだけに留まらず学校全体に広まっているようだった。
『あの学年ランキング最下位のEランク探索者がAランクのモンスターを一撃で討伐した』
『Eクラスの主じゃなくて、最弱の探索者が奇跡を起こした』
外聞で聞くだけだと、「それなんて法螺話?」となるだろうが、実際に一部のクラスメイトがその光景を目撃していたのだから、ただのほら吹きだと一蹴することもできない。
やはり、人生はすんなりいかないというか、校内をちょっと歩くだけで色んな生徒から奇異の視線を集めてるようになってしまった。というか、俺自身が一番この話を嘘だと思っていた。
何度も言わせてもらうが、こちとら元居た世界ではなんの取柄もない、クソ陰キャだったんだ。あんなこと天地がひっくり返ってもできるわけがない。
ならば、可能性は一つだけ。この世界の聖潔貴が本当は凄い力を持った探索者なのではないかということ。
実際、まぐれだろうが、偶然だろうが、どうやらこの世界の自分にはあんなバケモノを一撃で屠る力があった。この説は結構有力だと思う。
「そうなってくると、また別の疑問が出てくるんだよなぁ……」
その疑問というのが、どうしてこの世界のキヨタカ君は学年最弱と呼ばれ、クラスで虐めを受けているのか。
実力があるのなら、すぐにでもこの不遇な状況を打開できたはずだ。けれど、少なくとも一年生の頃から俺は学年最弱だった。
そして、この疑問を解決する仮説を、数多のファンタジー小説やマンガを読み漁った俺は瞬時に導き出すことができた。
──この世界のキヨタカ君は、『学年最弱の劣等生が実は最強の実力者でした』ムーブをしていたのではなかろうか?
つまりあれだ。この世界のキヨタカ君は拗らせに拗らせまくった厨二病だったのではということだ。
「仮にそうだとすると、この世界の俺は相当頭のおかしい、痛い奴だな……」
この前のダンジョン探索、あの闘牛との戦闘で実感したが、あれは本来なら普通に死ねる。
実力を偽るとか、カッコいいから実力を隠すとか……そんな舐めプなんてしてられない。てか、マジでやってる奴がいたら頭がおかしすぎる。
「……うん。流石にそれはない。というか、俺が嫌だ」
残念すぎる可能性に無理やり蓋をして、俺は順当な理由を考える。
「──もしかして、何か実力を隠さなきゃいけない理由があったのか……。それとも、自分で本当の力を制御できなかったのか?」
如何せん、この世界での記憶が全くないので定かじゃないが、その可能性もある。てか、そうであってくれ。
「それか元々、俺に秘められた力がってパターンも──」
可能性は無限大なのだ。
そんな胸アツ展開に心躍るが──
「いや、無いな」
すぐに俺はそれを否定する。
元居た世界はごくごく普通の、ファンタジーとは無縁の平凡なモノだった。そこで平凡な学生をしていた俺に、「実は秘められた力がありました」とか、それこそ「それ、なんてラノベ?」感じだ。
……色々と仮説を立てて、ごちゃごちゃと考えてみたが──
「なんにせよ、今後の生存率に関わってくるんだし、色々と検証はしなきゃだよな」
結局、帰る方法を探すにしても、この世界で生きていくにしても、自分のできることは把握しておかないといけない。
なんなら、この世界で生きていくことに腹を括るのならば、卒業するまではダンジョンなんて言う危険極まりない場所に何度も入らなければいけないのだし、この確認はかなり大事だ。なるだけ早くするべきだろう。
「そうとなれば、さっそく行動だな」
時刻はまだ十時を回ったばかり。待ちに待った休日だからと、少し部屋でのんびりしすぎた。
俺は実習の時にも身に着けていた支給品の装備をクローゼットから取り出し、準備を始めた。
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学生寮から学校、そしてダンジョンの出入り口がある関所までは三十分もかからずに辿り着けた。
「平日と違って、休日は凄い賑わっているなぁ~」
この前よりも多くの探索者でごった返している関所前。探索者養成学校の敷地内にあることもあって、休日でも学生と思しき探索者も多く見受けられる。
流石は未来の探索者の卵といったところか、休日でも自己鍛錬は怠らないし、経験を積むためにダンジョンへと潜るらしい。
「次の方どうぞ~」
この前は実習だったからすんなりとダンジョンに入ることができたが、本来は入場列に並び簡単な手続きが必要なのだとか。今も、前の方では忙しなく受付が賑わっており、異常な速さで待機列が消化されていく。
「ファンタジーだねぇ……」
そんな事務的な光景でさえも、そう思ってしまう。
すいすいと進んでいく流れに逆らわず、前に倣って進んでいくと、いつの間にか自分の番が回ってきた。
「探索者ライセンスの提示をお願いします」
「あ、はい」
受付のお姉さんに言われるままに、俺は液晶端末を操作して学校の学生証を提示する。
なんでも、学校に在籍中はこれがライセンスと同じ効力を持ち、一学生の身でありながらもダンジョンに入れるのだとか。探索者学校ってスゲー。
受付のお姉さんが画面を確認した。
それだけで、すぐに先に通される──
「大変申し訳ございません」
ことはなかった。
「え?」
困惑する俺を見て、受付のお姉さんは難しそうな顔をして言葉を続けた。
「現在のヒジリさまのランクでは一人での入場は許可できません。原則として、Eランク探索者の方は最低でもパーティメンバーが一人いなければ、安全規定に反してしまいます」
「……」
どうやら、隠された実力があろうとも、世間一般の評価が最弱──最低ランク──であれば一人で気軽にダンジョンに入れないとのことらしい。
この衝撃の事実に、まあそりゃそうだと俺は少し遅れて納得した。それと同時に、一つの問題が生じる。
「あー、えーっと、仲間、ですか……」
「はい」
俺には一緒にダンジョンへと赴いてくれる友人もパーティメンバーもいないと言うことだ。
……え? 実習のメンバーで潜ればいいじゃないって? おいおいふざけんな。俺が土下座して頼み込んでも、きっとあいつらは俺とパーティを組んでくれないぞ。
「うーんと──」
思わぬアクシデント。背後からは俺の所為で待ちぼうけをくらっている探索者たちの冷たい視線が突き刺さっていた。
──……仕方ない。ここは一旦、出直そう。
問題の解決策は思い浮かばず、無言の圧力にも耐えられなくなった俺はそう判断して、踵を返そうとして不意に声を掛けられた。
「こんなところでどうしたの、キヨタカ?」
「……はい?」
振り返るとそこには和服風の装備に身を包んだ幼馴染──フウカの姿があった。
まさかこんなところで出会うとは思わなかった俺は、内心で驚きながらも何とか事情を説明した。
「いや、一人じゃダンジョンに入れないことを忘れてて……」
それだけで幼馴染である彼女は色々と察してくれた。
「あー、なるほどね。……それじゃ、私と一緒に潜る?」
なんなら、願ってもないことを申し出てくれた。
「い、いいの……か?」
「うん。今日は軽く身体を動かしに来ただけだし、珍しくやる気に満ち溢れた幼馴染の為にも、一肌脱ごうじゃない」
「おお……!!」
頼もしすぎる幼馴染に俺は感激し、考えるまでも無くフウカの提案に飛びつく。
なにより、後ろからの「なんでもいいからさっさとしろ」と言わんばかりの威圧から、今すぐ逃げ出したかった。