どうやら俺は異世界帰りの元勇者らしい~目が覚めたら元いた世界(?)にダンジョンが出現していたので、自分の中に秘められた力で無双してみる~ 作:記憶喪失22号
この世界での幼馴染はどうにも俺に優しすぎる。
元居た世界での俺と
まあ正直なことを言えば、思春期特有の気恥ずかしさと、俺の個人的な劣等感が疎遠になった主な原因ではあるのだが……。
人当たりが良くて、同級生や先生からの信頼は厚い。学年が上がるごとに綺麗になって、勉強もスポーツも成績優秀と来たもんだ。
片や俺と言えば、平凡で地味な見た目、中学に上がると同時に虐めの標的にされて、成績は中の下、人とのコミュニケーションもどんどん苦手になって、気が付けばコミュ障ボッチに出来上がり。
幼馴染だからと言って、気軽に話しかけられるわけもなく。どんどんと別世界の人間になってしまっていた。それは、この世界でも変わらないと思っていた。
フウカはこっちの世界でも優等生で、しかも探索者としての才能もあるらしい。
最近になって分かったことだが、探索者養成学校ではその実力に見合ったもの同士でクラス分けがされるのだとか。A~Eのクラス分けは、そのままその学年の実力を示していたのだ。
そして、フウカは学年で最上位の実力を認められたAクラスに在籍していた。しかも、学年全体の実力を可視化した学年ランキングもトップ10に入っていたりと、非の打ち所がない。
巷ではその美貌と確かな実力からファンクラブが存在するとかしないとか。そんな幼馴染が、どうしてこの世界でもちゃんと落ちこぼれだったキヨタカ君に、色々と親身になってくれているのか。これが本当に分からない。
いや、ここは元居た世界と違うんだから、関係性が違っても別に普通だろと言われてしまえばそれまでなんだが……。
──それでも、気になるもんは気になる。
幼馴染の手助けのお陰で問題なく(?)入ることができたダンジョン。
現在、俺たちは三階層で手頃なモンスターを探していた。チラリと隣を歩く幼馴染の様子を窺ってみるが、彼女に変わった様子はない。
切れ長のまつ毛に、筋の通った鼻梁、少し垂れ下がった目尻が柔和な印象をう植え付ける。
腰まで伸びた綺麗な黒髪を一つ結びにして、紺色の和服姿に身を包んだ彼女は、絵に描いたような大和美人だった。
随分と懐かしく思える彼女の横顔に見惚れていると、不意にその綺麗な眼がこちらに向いた。
「そういえば、この前の実習でAランクモンスターを倒したんだってね?」
「え? あ、あぁ……うん。なんか剣で斬ったら倒せて……」
気恥ずかしさと驚きで、我ながらクソみたいな受け答えをしてしまう。フウカはそれを気にした様子もなく、言葉を続けた。
「ふーん……もしかしたら、
「そう……なのか?」
「うん。今までスキルを持っていなくて燻ってた探索者が、スキルの感覚を掴んで急成長したって話はよくあるし──キヨタカの今の口ぶりから考えても、その話に当てはまる気がする」
「へ、へぇ……」
あんなクソみたいな返答から、ここまで会話を広げてくれるとは思わず、俺は生返事をしてしまう。
もしかして、フウカがこんなによくしてくれる理由は、この世界のキヨタカ君の本当の実力を知っているからかもしれないと思っていた。だが、今の彼女の発言からして、その可能性は否定された。
──……唯一の理解者ポジの可能性も無くなると、いよいよ、どうしてフウカはこんなに構ってくれるんだろうか?
まさか、この世界のキヨタカ君がシンプルに好きで、好意を抱いているから甲斐甲斐しくしてくれている?
──流石にそれは都合の良い妄想すぎるか……。
下らない思考を胸中でもみ消していると、どこか上機嫌にフウカは瞳を輝かせた。
「休みの日は部屋から一歩も出ようとしないキヨタカが、こうして休みの日にダンジョンを潜ろうと思ったのも、この前の戦闘の感覚を確かめる為なんでしょ?」
「ま、まあ、そんな感じかな」
フウカの鋭い指摘に、俺はぎこちなく笑って頷く。どうやら、この世界のキヨタカ君も生粋のインドア派らしい。
「それなら猶の事、私が一緒でよかったね。一人でスキルの検証をしても分かることは限られるし、客観的な視点があれば色々と詳細に調べられるし」
「そ、そうだね。助かるよ」
「うん!」
人好きのする笑みを浮かべて、楽しそうなフウカの横顔がちょっと綺麗すぎてドキリと心臓が高鳴る。不整脈かな? いいえ、キュンです(死語)。
前世でもこんな無邪気に話しかけて、笑ってくれる幼馴染を見たのは小学生以来だ。
いったい、この世界のキヨタカ君はどんな徳を積んだというのだろうか。ちょっとその徳、俺にも分けてくれない?
そんなこんなで、ずんずんと三階層を進んでいくと、十メートルほど先に蠢く影が見えた。
「あれは……」
咄嗟に岩陰に隠れて、目を凝らす。
身長は130㎝ほど、肌は深緑でやけに腹が出ている。襤褸布を腰に巻き、適当な石を削ったナイフ──のようなもの──を身に着けたそれは元居た世界でもおなじみのモンスター。
「ゴブリンね」
序盤の敵としてはスライムと並ぶ知名度。生で見るとやけにグロテスクで、普通にキショかったりする。
俺は反射的に腰に佩いた剣の柄へと他を伸ばし、喉を鳴らした。
「ッ……」
「大丈夫、キヨタカの元々のランクでもあの程度は余裕だよ。もし仮に、何かあっても私がサポートするから、自信を持って」
明らかに緊張したのが隣で一緒に身を潜めていたフウカにはバレバレだった。
彼女は優しい声音で俺を鼓舞してくれた。それだけで、右手の剣柄を握る力が抜けた。
「……ありがとう、フウカ。かなり落ち着いた」
「どういたしまして」
短くお礼を言って、俺はゴブリンを注視した。向うはまだこっちに気が付いていない。完全に無防備だ。条件としてはこの上ない。
「よし──」
短く息を吐いて、集中。この前の戦闘の感覚をできる限り思い出す。……とは言っても、必死すぎて思い出すも何もないのだが。
──確か、探索者はみんな戦う時に身体強化ってのをデフォで使うんだっけか?
それは探索者ならば誰でも行える基礎技術の一つ。魔力により常人ならざる身体能力えるものだ。
最初こそ、「魔力ってなんだよ」とその存在を疑っていたが、あの闘牛との戦闘が切っ掛けとなったのか、ここ数日で自分の中に妙な違和感が存在することに気が付いた。
これが俗に言う〈魔力〉というやつならば、これを用いることで前述したことができるはず。
「すぅ……はぁ……」
深呼吸をもう一度。自室にあった一年生用の基礎教本で軽く読んだ、魔力による身体強化のやり方を実践してみる。
──身体を巡る魔力を知覚して、薄い膜を張る感じ……。
一度、身体が自覚した感覚というのは存外、すぐに馴染んでしまうもので──
「できた……かな?」
全身が妙な熱を帯びて、心臓の鼓動が先ほどより速くなった。
「お、前見せてもらった時より、上手になってるじゃない──身体強化」
フウカのその言葉で、自分がちゃんと身体強化を使えてることを実感した。
これで事前準備は終わり。後は、この感覚が消えてしまう前に、あのゴブリンに攻め込むだけ。
「よし──」
気合を込めて、俺はとりあえず思い切り地面を蹴って棒立ちしているゴブリンに肉薄する。
瞬き一つで俺の視界は薄汚い緑に埋め尽くされた。
「……あれ?」
「GEBッ!?」
疑問の声と驚いた声が重なった。なるほど確かに、身体強化は問題なくできている。
──でも、まだ力加減が全然わからんな……。
反省点を脳裏に留めながら、俺は学校から支給された剣を抜き放つ。このままでは、あわやゴブリンと接吻しそうな勢いだし。
「恨みはないが死んでくれ……!」
「GGEGE!!」
浅い階層、低級のモンスターとは言え、ゴブリンも案山子ではない。右手に握った石ナイフで迎撃しようとしてくるが──
「お」
「GYA──!?」
中段から振り抜いた剣は、まるでバターを斬るかのように石のナイフごとゴブリンを一刀両断した。
「や──」
自分でも驚くほどあっさりと倒せた。そのことに喜ぼうとしたのも束の間。
「と、止まんな──んべらっ!?」
ゴブリンを屠った勢いが止まらず、俺はそのままゴブリンの死体を跳ね飛ばして、ダンジョンの岩壁に激突した。
「だ、大丈夫ッ!?」
それを傍から見ていたフウカの慌てた声がしたかと思えば、彼女はすぐに壁にめり込んだ俺を引きずり出そうとしてくれた。
俺は俺で、今までの人生で経験のない衝撃に目を剥き、呆然とするしかなかった。
──こりゃあ骨折してるかも……?
激突した時の音もかなり大きかったし、耳鳴りもしている。これで無事なわけがないと覚悟をした。
「よいっしょ……っと!」
思い切りよくフウカに壁の中から救出してもらう。その勢いでまた全身に衝撃がやってきて、視界が揺れた。
「んが!? ……あれ、意外と平気?」
だが、俺の身体に起きたのはそれだけで、別に体の痛みやどこかが折れている違和感はやってこない。
それどころか、身体は依然として快調で、傷一つなかった。
「ま、魔力の力ってスゲー……」
俺は改めて、そう実感するのであった。