【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
14. 期間限定ユニット『ましのん』
配信を終え、機材を丁寧に片付ける。いつも使っているケーブルやマイクスタンドを所定の位置に戻しながら、今日の配信の感触を反芻する。新しい試みだったオフコラボ。少し緊張したけれど、画面越しではない隣に鈴町さんがいるという新鮮さが、いつもとは違う空気感を生み出してくれた気がする。
リビングのドアを開けると、桃姉さんがソファにゆったりと座りこちらを見て微笑んでいた。鈴町さんは少し遅れて、所在なさげに立っている。まだ緊張しているのだろうか。
「オフコラボお疲れ様2人とも。普段とは違う新しい『姫宮ましろ』と『双葉かのん』が見れたし、反響もすごいわね」
「ああ。それは鈴町さんのおかげだよ。オレは彼女のサポートをしただけだ」
「あの……ましろん先輩……あっありがとう……ございました……」
鈴町さんは小さな声でそう言った。少し俯き加減で頬がほんのりと赤い。その様子がなんだか可愛らしくてオレは思わず微笑んでしまう。
その後、鈴町さんの希望で出前の寿司を頼むことになった。リビングのローテーブルには、色とりどりの寿司桶が並び、食欲をそそる香りが漂ってくる。桃姉さんと鈴町さんと3人で、今日の配信について話しながら寿司を頬張る。
今まで、誰かと一緒に配信の話をするなんてほとんどなかった。いつもは一人で反省点を見つけたり、次の企画を考えたりする時間だったから。でも今は、同じ『Fmすたーらいぶ』の仲間であり、今日初めてじっくりと話したVtuberの鈴町さんが隣にいる。
彼女の言葉や反応を聞いていると、配信の裏側や視聴者の気持ちが今までよりも鮮明に感じられる。不思議な感覚だ。もしかしたらオレは『双葉かのん』のファンになっているのかもしれない。
そんなことを考えながら、ちらりと鈴町さんを見る。彼女は美味しそうに寿司を頬張りながら、桃姉さんの話に熱心に耳を傾けている。すると、彼女と目が合ってしまった。
「え?……あ。あの……すっ……すいません」
「なんで謝るんだ?」
「私ばかり……お寿司……食べてるから……その……」
まただ。彼女はいつもこうして周りを気にしすぎている。もっと自分の気持ちに素直になればいいのに。
「あのさ鈴町さん。君は周りを気にしすぎだ。もっとわがままを言ってもいいと思うぞ?」
「そうよかのんちゃん。もうあなたたちは『ましのん』コンビなんだから遠慮はいらないのよ」
「……なんか含みのある言い方なんだが?」
「あれ?言ってなかったっけ。あなたたちは事務所公式に期間限定でユニットを組ませて売り出すことになったのよ」
…………は?今なんて言った?ユニット?期間限定?頭の中が真っ白になる。
「まあ簡単に言えば、事務所の戦略ね。期間限定で『ましのん』として活動するの」
「……いつから?」
「今から」
「「はい!?」」
オレと鈴町さんの声が見事にハモった。そりゃあ驚く。まさかこんな急展開になるとは夢にも思っていなかった。
「ほら。ちょうどいい機会だし、お互いにお寿司で親睦を深めたらどうかしら?」
桃姉さんは楽しそうに笑っているけれど、こっちはまだ状況が飲み込めていない。
「いやいや。急すぎる。それに鈴町さんは大丈夫なのか?こういうのって準備とかあるんじゃ?」
「そんなのプロなんだから大丈夫でしょ。それとかのんちゃんにはこの家に引っ越してもらうけど大丈夫よね?引っ越し代は出すし、部屋は余ってるから」
……はい?引っ越し?
隣に座る鈴町さんが、ピタッと動かなくなった。見れば、顔を深くうつむかせたまま完全に固まっている。膝の上に置かれた小さな手が、スカートの裾を白くなるほどギュッと握りしめ、小刻みに震えていた。
……無理もない。男であるオレといきなり同居だなんて言われたら、人見知りの激しい彼女がショックでフリーズしてしまうのも当然だ。いきなりすぎる展開に頭が追いつかないのはオレも同じだしな。
「そして事務所としては、颯太、あんたに『双葉かのん』のプロデュースを頼みたいのよ。人手不足だからね。同じVtuber同士その方が色々とやりやすいでしょ?あなたはVtuber『姫宮ましろ』兼『双葉かのん』のマネージャーをやりなさい」
いやプロデュースって……そんな大役、オレに務まるのだろうか?
「この突発的なオフコラボは大成功したわ。世間は今『ましのん』の話題で持ちきりよ。最初は私もフォローをするし、『双葉かのん』をトップVtuberにしてあげて」
確かに、今日のオフコラボの反響は大きかった。コメント欄やSNSには『ましのん』という新しいコンビへの期待の声が溢れている。
Vtuberをプロデュースするのは初めての経験だけど、やるからには中途半端にはしたくない。鈴町さんの可能性を最大限に引き出して、トップVtuberに押し上げてみせる。
「それに、あんたは素性を隠しているんだから、今まで事務所に行くのも面倒だったでしょ?でも『双葉かのん』のマネージャーなら問題ないし、なにより『ましのん』として動くときは必然的に一緒にいる時間が増える。だからこっちの方が都合がいいのよ」
そこまで考えてのことだったのか……確かに言われてみれば確かに好都合かもしれない。素性を隠したまま活動できるし、何より、オレは彼女なら必ずトップVtuberになれると信じている。たった2年という短い期間かもしれないけれど、オレが培ってきたVtuberとしての知識や経験を、全て彼女に教えてあげたい。
「鈴町さんはどうなんだ?オレはマネージャーの経験はないから1から頑張ることになるけど?でも……鈴町さんさえ良ければオレは頑張りたい」
オレは少し緊張しながら、鈴町さんに向き直った。彼女はまだ少し戸惑っているようだったけれど、ゆっくりと顔を上げ、真っ直ぐにオレの目を見た。その瞳には微かながらも強い光が宿っているように見えた。
「あ……あの……私は……いいと思います……せっかく……ましろん先輩と一緒に活動できるなら……頑張りたい……です」
「……なら親睦を深めるか。これからよろしく頼む鈴町さん」
オレは自然と手が伸び、彼女に向かって差し出した。鈴町さんは少し驚いた様子だったけれど、すぐに顔を綻ばせ、オレの手を握り返してくれた。その小さな手のひらから伝わる温かさが、なんだかとても心強かった。
「はい……こちらこそ……お願いします」
「お皿貸して。何食べる?」
「海老……あと……玉子……」
「おう」
こうして、オレたちの期間限定ユニット『ましのん』は、予想もしない形で結成され、新たな活動が始まったのだった。まだ始まったばかりで、これからどうなるかは全く想像もつかないけれど、鈴町さんと一緒なら、きっと面白いことができる。そんな予感が胸の中にじんわりと広がっていくのを感じた。