【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
16. 後輩ちゃんは『飲酒配信』がしたい
オレは一つ、頭を悩ませる問題を抱えていた。鈴町さんの……いや『双葉かのん』の配信時間帯だ。彼女の配信は、よくあるVtuberに多い夜型。一方、オレこと『姫宮ましろ』は朝配信。この生活リズムの違いは、そのままコミュニケーション不足に直結する。朝配信と夜配信では、物理的に顔を合わせる時間が限られてしまうのだ。
そもそも『鈴町さんと話せるの?』なんていう甘い考えは最初から捨てている。
どちらかの配信時間に合わせるという選択肢もあるけれど、応援してくれているリスナーが離れてしまう可能性も否定できない。それは、事務所の期待を裏切ることにも繋がりかねないから、なんとかして両立できるような対策を練らなければならない。
いつものように朝の配信を終え、コメント欄をチェックしたり、届いている案件のメールに目を通したり、近々発売されるグッズのデザインを確認したりと『姫宮ましろ』としての業務をこなしていく。
時計の針が昼を指しそろそろ昼食でも、と考えていた時リビングのドアが開き鈴町さんが顔を出した。まだ少し眠そうな、ぼんやりとした表情をしている。
「あ……あの……すいません」
「なんで謝るんだ?」
「その……今起きたので……」
「いや、別に気にしないで大丈夫だぞ。それよりお昼……いや、鈴町さんは朝食か。食べるか?」
「はい……」
「それじゃあ、一緒に食べるか」
「はい……」
こうしてオレたちはリビングのテーブルを挟んで向かい合い、簡単な食事をとることになった。
「そういえば、鈴町さんは料理とかできるの?」
「はい……一応……できます。卵焼きとか……お味噌汁とか……」
「なら、料理配信とかもいけるかもな……」
オレがそう言うと、鈴町さんは一瞬目を丸くして驚き、声には出さないものの、顔全体で『絶対無理です』と言わんばかりにブンブンと激しく首を横に振った。
「いや……そんなに否定しなくても……」
「だって……その……配信なんて……考えたことも……ないですし……別に上手って訳でも……ないし」
「そうか。まぁ、気が向いたら考えてみてくれ。鈴町さんが料理しているところ見てみたいしな?」
「ましろん先輩が一緒なら……がっ……頑張り……ます……けど」
なんだか、前向きに検討してくれそうな雰囲気だな。というか、もしかしたらオレと一緒ならどんなことでもやってみようと思ってくれているのかもしれない。そうだとすれば、それはすごく嬉しいことだ。
「そういえば鈴町さんは、自分の配信で飲酒配信やりたいって言ってなかった?」
「はっはい……お酒……飲んだことないので……」
「いや……いきなりぶっつけ本番はまずくないか?放送事故とか起きそうなんだけど……」
「……じゃあ……今日の……夜。ましろん先輩……一緒に……飲みませんか?私……休みなので……ダメですか?」
鈴町さんの予想外の一言に心臓がトクンと跳ねた。不意を突かれたとはまさにこのことだ。だが、これは絶好のチャンスかもしれない。もし鈴町さんがアルコールに慣れることができれば配信の幅はぐっと広がるはずだ。
そうだ、決して私利私欲とか、鈴町さんが酔っぱらうとどうなるのか、なんていう興味があるわけじゃない。全てはVtuber『双葉かのん』の配信のためだ。
「わかった。オレも付き合うよ」
「ありがとうございます……ましろん先輩」
よし。これで一歩前進だ。ただ問題なのは、鈴町さんが酔うとどうなるか全く想像がつかないことだ。かなり不安が募る……
それから夕方になり、事務作業を終え、近所のスーパーへ適当なアルコールとつまみになるものを買いに出かけた。もちろん一人で。鈴町さんはお酒を飲んだことがなさそうだし、あまり度数の高いものを飲んで急性アルコール中毒にでもなったら洒落にならないから、缶チューハイやカクテルなど比較的アルコール度数の低いものを中心に選んでいく。
「良く考えたら……桃姉さん以外の女性と二人で飲むなんて、生まれて初めてかもしれないな……しかも年下。まぁ、鈴町さんはそういうのを気にするどころか、まだそんな段階じゃないだろうけど」
少し失礼なことを考えてしまうけれど、オレだって実は少し緊張しているのだ。そんなことを考えながら買い物を終え、家に帰り早速準備を始める。といっても自分の分の缶ビールとグラスを用意するくらいで、あとは鈴町さん用のチューハイを冷蔵庫に入れ氷を用意する程度だ。
「よし、できたっと」
準備を終えて一息ついていると、鈴町さんが遠慮がちに声をかけてきた。
「すいません……ましろん先輩……お手数を……かけてしまって……」
「いいんだ。鈴町さんも今日はオフだし。せっかくだから二人で『ましのん』結成祝いでもしよう」
「いえ……そんな……私……嬉しいです……ましろん先輩とお話しできて……」
そうなのか?あんまり話せてないような気もするが……
「ましろん先輩は……とても優しくて……普段はお兄ちゃんみたいな……配信のときは、お姉ちゃんみたいな……感じです……」
「それは褒めてるの?」
「はい……すごく……尊敬します……」
「そうか。なら良かったよ」
……なんだか、少し複雑な気分だ。鈴町さんにとって、オレは年上の頼りになる存在ということなのだろう。それが嬉しい反面、異性として意識されていないことに、ほんの少しだけ寂しさを感じてしまう。
「さて、始めるか。鈴町さんはどれにする?」
オレは買ってきた缶チューハイをテーブルに並べ、鈴町さんに選ぶように促した。
「はい……これを……」
そう言って鈴町さんが手に取ったのは、可愛らしいピーチ味の酎ハイだった。
「ピーチ味か。『姫宮ましろ』のピンクと同じだな」
何気なくそう言うと、鈴町さんは顔を一気に赤くして俯いてしまった。その耳まで赤くなっているのが見える。
「すっ鈴町さん?」
「ごめんなさい……その……意識したこと……なくて……恥ずかしい……」
「そっそうか。オレの方こそ、変なこと言って悪かった」
鈴町さんは照れ隠しのようにプルタブを開け、ゴクゴクと勢いよく飲み始めた。