【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
24. 『ましのん』の新たなスタート
週末。いよいよ、待ちに待った重大発表のライブ配信当日がやってきた。
神川ひなたさんに描き下ろしてもらった『ましのん』のサムネイルも無事にセットアップされ、機材の最終チェックや打ち合わせも滞りなく終わっている。
配信開始は21時から。現在の時刻は19時。
今日は万全を期すため、防音設備の整った事務所の専用スタジオを借りて配信を行う予定だ。あとは時間が来るのを待つだけ……なのだが、隣にいる鈴町さんはといえば、まるでこの世の終わりかのように、スタジオのソファーに深く沈み込んでいた。
「大丈夫か鈴町さん?顔、真っ白だぞ」
「うぅ……き、緊張……します……心臓が、口から飛び出そうです……」
「リラックスしろって。いつも通りでいいんだよ」
「はいぃ……」
このままでは、本番で「双葉かのん」として一言も喋れなくなってしまうかもしれない。もうなるようにしかならない時間帯だが、とりあえず彼女を落ち着かせるためにも、温かいものでも淹れるか。
「はい。鈴町さん。コーヒー飲める?」
「ありがとう……ございます……ましろん先輩」
鈴町さんに渡すと、両手で大事そうに持ってフーフーしながら少しずつ口に含んでいく。
「美味しい……です」
「そうか。良かったよ」
温かい飲み物が胃に落ちて少しホッとしたのか、鈴町さんの強張っていた肩の力がフッと抜けるのが見えた。
「ましろん先輩は……緊張しないんですか……?」
「オレは……まぁ、緊張はしてるよ。でも、それ以上に『ワクワク』の方が強いかな」
「そうですか……すごいです、ね……。私なんて、足が震えてて……」
もちろん、オレだって全く緊張していないわけではない。何万人ものリスナーが待機している大舞台だ、プレッシャーはある。ただ、それをあまり表に出さないようにしているだけだ。オレは鈴町さんの前に腰掛け、一緒にコーヒーを飲み始める。
今日が正式にユニットとしての『ましのん』が始まる。事務所の期待もあるけど、画面の向こうで待ってくれているリスナーが心から楽しめる配信にしなければならない。そんなことを考えながらしばらく沈黙の時間が続いたが、目の前に座っている、鈴町さんが口を開いた。
「あ……あの……」
「ん?どうかした?」
「その……昨日の……社長に言ってたの……って……あの……その1人のファンって……もしかして……私のこと……ですか?」
「ああ。鈴町さんのことだぞ。オレは鈴町さんが『双葉かのん』として頑張ってるところを見てるからな。オレも負けられないと思ったし、オレも頑張ろうって思えるようになったんだ」
「う……嬉しい……です」
オレの言葉を聞いて鈴町さんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。鈴町さんがいなかったら今のオレはいない。
「だからオレも『双葉かのん』を応援したいと思うし、鈴町さんも『姫宮ましろ』のことを見ていてほしい」
オレがそういうと、鈴町さんはコクリと小さく首を縦に振った。
「はい……見ています。ずっと……これから先も……私は……ましろん先輩のことを見てます」
「ありがとう」
それからオレたちは、残された時間で配信の進行や画面の切り替えなど、最終チェックを念入りに行った。そして時刻は20時55分となる。
「そろそろ時間だな。準備はいいか?」
「はい」
そしてマイクのスイッチを入れようとした瞬間、となりにいる鈴町さんに呼ばれる。
「ましろん先輩」
「ん?」
「その……終わったら……ましろん先輩の……好きな物……食べましょう……一緒に」
「……ああ。楽しみにしてる」
少し恥ずかしそうに言った鈴町さん。初めて彼女からそんなこと言われたので少し嬉しいような恥ずかしいような気もした。
もう、迷いも緊張もない。あるのは、これから始まる新しいステージへの期待だけだ。
オレは鈴町さんに目で合図をして、今度こそスイッチを入れて配信開始のボタンを押した。