【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
28. 後輩ちゃんは『不機嫌』らしいです
家に帰るとリビングでは桃姉さんと鈴町さんが『ましのん』の初ユニット配信に向けて、テーブルに資料を広げて熱心に打ち合わせをしているところだった。
「お帰りなさい颯太。遅かったわね」
「少し用事があったからさ」
「そう。まあいいわ。それより、来週の『ましのん』配信の企画案、何か面白そうなの考えてるの?初回だからインパクトが欲しいのよね」
「あー、その事なんだけど、3期生の『葉桐ソフィア』ちゃんを呼びたいんだけどダメかな?」
でも、オレにはどうしても玲奈ちゃんと早めにコラボしておきたい理由があった。一つは、彼女のあの凄まじいプロ意識と熱量を、鈴町さんにも近くで肌で感じてほしかったから。
そしてもう一つは……玲奈ちゃんが『姫宮ましろ』の裏の事情について、妙な疑いを持ち始めているかもしれないからだ。これ以上深掘りされて大きな問題になる前に、一度ガス抜きというか、コラボという形で彼女の希望を叶えておいた方が安全だと判断した。
それに、鈴町さんにとって彼女は同じFmすたーらいぶの3期生の同期だ。ここでしっかり絡んでおくことは、絶対に今後の『双葉かのん』の活動にも大きなプラスになるはずだ。
「そりゃ構わないけど、急にどうして?」
「ちょっと事情があってさ。でも大丈夫だよ。ちゃんと考えてあるし、もし何かあればオレが責任取るからさ。だから頼むよ」
「あんたがそこまで言うならいいけど……」
とりあえず企画書をまとめて明日桃姉さんに提出することになった。オレは自分の部屋に戻り、パソコンを立ち上げて早速企画書を作り始める。
『ましのん』としての初めての企画配信。ただの雑談では勿体ないし、かといって鈴町さんが萎縮しすぎるようなハードな企画も避けないといけない。どうやってインパクトを出そうか……。
腕を組んでモニターとにらめっこしていると、トントン、と控えめなノックの音が響いた。
「鈴町さん?どうかした?」
「あの……少し……私の部屋に……来てもらってもいいですか?」
「え?」
普段、自分からオレを部屋に呼ぶことなんて滅多にないのに。一体何事かと不思議に思いながらも、オレは立ち上がり、彼女の背中について隣の部屋へと足を踏み入れた。
相変わらず『姫宮ましろ』グッズに占拠された祭壇のような部屋だ。
鈴町さんは無言のまま自分のデスクの椅子に腰掛けると、スッと指を伸ばして、点灯したままのパソコンのモニターを指差した。
画面にはディスコードのチャットツールが開かれており、一番上の新着メッセージには『葉桐ソフィア』のアイコンが光っていた。
『かのんちゃん、おつかれー!颯太さんから聞いたかな?コラボの件、かのんちゃんからもよろしくお願いね!楽しみにしてる!』
「……私……何も聞いてないです……けど」
「ごめん。さっき言いそびれたんだけど、帰りに事務所で『葉桐ソフィア』ちゃんと会って、少しお茶しながら話したんだ。そしてコラボの話になってだな……」
「颯太さんって……名前で呼ばれてて……仲良いんですね……」
「いやいや、そんなことないぞ!?ほら、向こうからしたら『マネージャーさん』じゃ、自分の担当かオレか分からなくてややこしいだろ?だから便宜上、名前で呼ばれてるだけだよ」
「……ソフィアちゃんとお茶……だから帰りが遅かったんですか?」
「あ、ああ。まあ、そうだな。それで、その時に彼女から相談を受けてさ。色々考えた結果、『ましのん』枠でコラボするのが一番丸く収まるかなと思って……」
鈴町さんはそれを聞くとうつむきながら、小さな声で呟いた。
「私も……ましろん先輩と……2人でお茶したこと……ないのに……」
「え?」
あれ?もしかしてコラボを勝手に決めたことじゃなくて、オレが玲奈ちゃんとお茶したことを怒っているのか?と言わんばかりの言葉が微かに聞こえたんだけど?
「……なんでもないです」
プイッと顔を背ける鈴町さん。その唇は、見事なまでにへの字に曲がって尖っている。
「いや、何でもなくはないよね?」
「……本当になんでもないので……気にしないで下さい」
鈴町さんは依然としてうつむいたままだが、なんとなく機嫌が悪そうな声のトーンだった。これは、完全にオレが地雷を踏み抜いてしまったようだ。
「ご、ごめん!オレが悪かった。だからさ、鈴町さんも……今度、事務所で仕事した帰りに、一緒にお茶とかご飯とか食べに行こう! 二人で!」
「……本当……ですか?」
ピクッ。
鈴町さんの肩が跳ね、ゆっくりとこちらを振り返った。
「あ、あぁ。もちろん」
「……約束、ですよ?絶対、絶対ですからね?」
「分かった。約束だ。美味しいケーキでもお寿司でも、何でも奢るから」
鈴町さんの顔から不機嫌なオーラがパッと霧散し、隠しきれないほど嬉しそうな、えへへ、という満面の笑みが浮かんだ。……ような気がした。すぐにまた誤魔化すように俯いてしまったけれど。
鈴町さんがこんな風に理不尽に不機嫌になって、あからさまに怒りをぶつけてくるのは初めてのことかもしれない。
少し不謹慎かもしれないが、いつもオドオドしている彼女が、こうして我儘を言ってくれることが嬉しくて——こんな鈴町さんも、たまらなく可愛いと思ってしまうオレがいた