【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
32. 後輩ちゃんは『ボイス』がほしいそうです
そして、ついに『ましのん』の記念すべき初企画配信の日がやってきた。
あらかじめ『姫宮ましろ』のTwitterで大々的に告知を打ち、今回のメイン企画である「同期の絆を試したい!ましのんバトル」で使う質問やトークテーマをマシュマロで募集しておく。もちろん、鈴町さんも『双葉かのん』のアカウントで一生懸命に告知と募集のツイートをしてくれている。
そんなこんなでオレが配信準備をしているとコンコン、とひときわ控えめなノックの音がした。
「どうぞ。開いてるよ」
「あの……ましろん先輩……」
ドアの隙間から、ひょっこりと鈴町さんが顔を覗かせた。その表情は、どこか心細そうに眉がハの字に下がっている。鈴町さんが部屋にやってくる。
「どうした鈴町さん?機材のトラブルか?」
「いえ……今日は、一緒……じゃないんですよね……」
「え?あー。回線繋いでのコラボになるからな」
そういえば、今まで鈴町さんとやった配信は全て、リアルに並んで座る『オフコラボ』形式だった。だから、配信中に隣にオレがいない状況は今回が初めてということになる。
……普通、Vtuberのコラボといえば離れた場所で通話を繋ぐのが当たり前なのだが。というか、壁を隔てた部屋にオレはいるし、同じ屋根の下にいるんだが……彼女にとっては「物理的に隣にいない」というだけで相当な不安要素らしい。
「その……えっと……あの……はっ……はっはっ……はっ……」
「落ち着こうか鈴町さん……」
「あ。……その……少し……お願いしたいことが……」
「お願いしたいこと?」
なんだろう? 珍しいな。いつも遠慮ばかりしている鈴町さんが、自分から明確に何かを頼んでくるなんて初めてじゃないか?
まぁ、断る理由もないし、可愛い担当ライバーであり、大事な相方からの頼みだ。できることなら何でも聞いてあげよう。
「……せんか?」
「ん?ごめん、声が小さすぎて聞こえないんだけど……」
「ぼ!……ボイスをくれませんか?……その……『姫宮ましろ』のましろん先輩の……」
「え?」
一瞬何を言われたのか理解できなかった。どういうこと?なんで急に『姫宮ましろ』の声なんか欲しくなったんだろう? う~む……謎だ。それにしてもボイスって……ちょっと恥ずかしいな……。
……まぁいいか。減るもんでもないし、これで彼女が落ち着くなら。
「なにを録音すればいいんだ?」
「えっと……『かのんちゃん、今日も一緒に頑張ろうね』的な……甘めな感じで……お願いしたく……て……」
「甘めって……いや、それを録音してどうするの?」
「その……ましろん先輩が一緒にいてくれるような気がするので……頑張れる……ので」
顔を真っ赤にして力説する鈴町さん。そういうものなのか?イマイチよくわからないが、本人がそれでやる気が出るというなら、マネージャーとして(そして推しとして)一肌脱ぐしかないだろう。
早速マイクに向かい収録を始める。ちなみに台本はない。こういうものは雰囲気作りが一番大切だと思うのだ。
「……かのんちゃん。いつもありがとう。今日も配信頑張ろうね?」
自分でやっておいてなんだが結構恥ずかしいなこれ。でもこれで鈴町さんのモチベーションが上がるなら安いものだけど……。
その音源データをチャットで鈴町さんに送信すると、彼女のスマホがピコンと鳴った。データを確認した鈴町さんは、スマホを両手で胸に抱きしめ、モジモジと身体をよじらせながら深く頭を下げた。
「あ、ありがとう……ございます。一生大切にします……家宝にします……!」
そこまで言われるとこっちまで照れてしまうではないか。本当に鈴町さんは『姫宮ましろ』が好きなんだな……。その『姫宮ましろ』の中身は、今目の前で頭を抱えている男のオレなんだけどさ。
そのまま鈴町さんは、大いなる力を得た勇者のように足取り軽く自分の部屋に戻っていった。その顔は、入ってきた時の不安げな表情が嘘のように、とても晴れやかでキラキラとしていた。
……まぁ、あれだけ喜んでくれたなら、オレが恥をかいて頑張った甲斐があったというものだ。
それから時間が経ちいよいよコラボ配信が始まる15分前となった。オレも緊張してきたぞ。大丈夫だろうか?変なこと言わないように気を付けないとな。
ディスコードを開き、待機ルームへ飛ぶ。すると全員揃っていたのでとりあえず挨拶だけでもしておくか。そう思いチャットを送る。
ましろ:「こんばんはリリィさんとソフィアちゃん。『ましのん』配信に来てくれてありがとう。」
リリィ:「いえいえ。楽しみにしてるよ」
ソフィア:「こんばんわです。姫先輩、リリィママ初めまして。今日はよろしくお願いします。」
ましろ:「かのんちゃんはいる?」
かのん:「います!(((・・;)」
怯える顔文字がついているが、まぁ大丈夫だろう。先ほどのボイス効果か、レスポンスはとても早い。
ましろ:「よかった。今日はよろしくね。」
かのん:「はい!こちらこそお願いします!」
うん。よし。問題なしだな。あとは配信開始を待つだけだ。PCの右下の時計を見ると、時刻は『18時59分』。開始まで既に1分前となっていた。
オレは小さく深呼吸をして、マウスのカーソルを『配信開始』のボタンへと乗せた。