【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
38. 姫は『誇らしい』のです
そして翌日。オレは桃姉さんからボカロP『AME』さんの連絡先を教えてもらい、早速コンタクトをとってみることにした。
「ええっと……『お忙しい中申し訳ございません。私はFmすたーらいぶのマネージャーを務めております、神崎颯太と申します。実は、弊社所属の新人Vtuberである「双葉かのん」の初オリジナル楽曲の制作を、AME様にお願いできないかと思いまして……』と」
キーボードを叩きながら、失礼のないように何度も文面を推敲する。
「『一度直接お会いして、彼女のコンセプトや希望をお話しさせていただければと存じます。つきましては、ご都合の良い日程をいくつかご教示いただけますでしょうか』……よし、これでいいか。送信、と」
しばらくすると、返信が来る。メールを開くと、そこにはオレの堅苦しいビジネスメールとは対極にある、信じられないほどフランクな文面が並んでいた。
『お世話になっております。AMEです。ご連絡ありがとうございます。お打ち合わせ、いつでも大丈夫です。それと、今無性にカレーが食べたい気分なので、おすすめの美味しいカレー屋さんで会えると嬉しいです。よろしくお願いいたします』
「……ん?」
……なんだ、このマイペースすぎる返事は。
大の大人が、しかも初対面のビジネス相手の指定場所を「カレー屋さん」に指定してくるなんて。なんか、すごく面白くて変わった人だな。オレは思わずパソコンの前でクスリと笑ってしまった。
「……分かりました。後ほど、美味しいと評判のカレー屋さんの住所と日時をお送りさせていただきますね、と」
これでよし。あとは約束の日に会うだけだ。さて……一体、どういう人がくるのやら。
そして、約束の当日。時間は午後7時。
オレは、すっかりオドオドモードに入った鈴町さんを連れて、待ち合わせ場所である駅前の本格インドカレー店へと向かった。
カランコロンとドアを開けると、店内には独特なスパイスの香りが立ち込め、エキゾチックなインド風の音楽がゆったりと流れている。とても雰囲気のある、知る人ぞ知る名店だ。
本場の店員さんに「オマチシテマシタ」と奥の半個室に案内されると、そこには既に待ち人の姿があった。
綺麗な茶色の長い髪を、無造作に後ろで一つに束ねている。年齢はオレと同じか、少し下くらいだろうか。顔立ちはどこかあどけなく幼く見えるが、すれ違ったら思わず振り返ってしまうほどの美人だ。
ダボッとしたオーバーサイズのパーカーに色落ちしたジーパンという、およそビジネスの打ち合わせとは思えないラフな格好だが、彼女の纏うアーティスティックな空気感に妙に似合っていた。
その女性はオレたちの姿を認めると、スッと立ち上がって軽く頭を下げた。
「こんばんは。Fmすたーらいぶの神崎さんと、双葉かのんさん、ですね?初めまして。ボカロPの『AME』と申します」
「わざわざご足労頂き、ありがとうございます。神崎です。こちらこそ、本日はよろしくお願い致します」
「よ、よろしく……お、お願いします……っ」
オレの背中に半分隠れるようにして、鈴町さんが消え入るような声で頭を下げる。いつも通りといえばいつも通りだが、憧れの『姫宮ましろ』の楽曲を作ったクリエイターを前にして、相当緊張しているらしい。
オレたちは席に座り、とりあえずAMEさんのお目当てであるカレーや、飲み物を注文する。すぐに運ばれてきた冷たい飲み物を一口飲んで喉を潤してから、オレは本題を切り出した。
「今回、数あるクリエイター様の中からAMEさんにお願いした経緯なのですが……実は、彼女が弊社の『姫宮ましろ』の熱狂的なファンでして」
「えっ?」
「その中でも特に、AME様が手掛けられた『ホワイトプリンセス』が一番のお気に入りなんです。ぜひ自分の初めてのオリジナル曲も、姫宮さんの楽曲を作成して頂いたAMEさんに依頼をしたいと彼女から強い希望がありまして、こうしてご相談させていただきました」
オレの説明を聞きながら、AMEさんはとても嬉しそうな、そしてどこか懐かしむような優しい表情で鈴町さんを見つめた。
当の鈴町さんは「熱狂的なファン」とバラされたのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしてテーブルの下を向いてしまっている。
「なるほど……それは、クリエイターとして本当に光栄です。『ホワイトプリンセス』ですか……。あの曲は、私のボカロP人生……いや、私自身をどん底から救ってくれた、一番大切な曲ですからね」
「そうなんですか?」
AMEさんはスパイスの香る店内で、少し遠い目をして語り始めた。
「かのんさんの楽曲の方向性を決める前に、少しだけ私の昔話をしてもいいですか?……私は、一番最初に出した『夢色トリック』というポップで可愛い曲が、偶然ネットで結構バズったんです。でも、その後の曲はどれも鳴かず飛ばずで……。リスナーからは『可愛い曲』ばかりを求められるようになりましたが、私自身は元々バンドサウンドやゲーム音楽が好きで、本当はもっと激しくてカッコいい曲が作りたかったんです。でも、期待に応えなきゃって無理をして、完全にスランプに陥ってしまって……」
「……」
「正直あの時、もう曲を作るのが辛くて、ボカロPを引退しようと思ってました。そんな時に舞い込んだのが、Fmすたーらいぶの『姫宮ましろ』のデビュー楽曲のコンペでした。これが最後のチャンス……だから、誰にどう思われてもいい、自分の本当に好きな、やりたい曲を全力で作ろうと思ったんです」
なにか思い出に浸っているような遠い目をしている。それほど思い入れがある曲だったんだろう。そんな曲を歌わせてもらったんだなオレ……
「あの清楚で可憐なイメージの『姫宮ましろ』に、あんな曲をぶつけるなんて、運営様からNGを貰うことも、あの当時は覚悟していました。……でも、彼女はそのまま、デビュー曲として私の曲を採用してくれた。結果的に、彼女のイメージとのギャップがバズって……『ホワイトプリンセス』は大きな反響をもらいました。自分の理想を詰め込んだ曲が受け入れられたおかげで、私はもう一度、音楽と向き合うことができた。……私にとって、そんな奇跡みたいな曲なんです」
AMEさんの言葉に、ずっと俯いていた鈴町さんがバッと顔を上げた。
「ましろん先輩……っ、やっぱり、すごい……!ましろん先輩がAMEさんを救ったんですね……!」
鈴町さんが、今にも拝み出しそうなほどキラキラとした憧れの眼差しを向けてくる。
……こらこら。オレの方を見て拝むな。バレるだろうが。オレは慌てて視線を明後日の方向へと外した。
オレが『ホワイトプリンセス』を採用した本当の理由は、「いかにもな女の子らしい可愛い曲を歌うのが、男として死ぬほど恥ずかしくて嫌だったから」だ。だから、送られてきた楽曲の中から選んだに過ぎない。
それが、まさかこんな奇跡的なすれ違いを生み、一人の才能あるクリエイターの人生を救っていたなんて。
オレとAMEさんの利害が、奇跡的な確率で一致して生まれた名曲。
この裏話を聞いて、オレは少しだけ申し訳ないような気恥ずかしさを感じつつも……『ホワイトプリンセス』という曲をもっと大勢の人に聞いて欲しいと心から思い、同時に『姫宮ましろ』という存在が残した軌跡を、なんだか無性に「誇らしい」と感じている自分がいたのだった。