【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!   作:夕姫777

42 / 47
40. 後輩ちゃんは『考えていた』らしいです

40. 後輩ちゃんは『考えていた』らしいです

 

 

 

 それから数日後。

 

 オレのパソコンに、AMEさんから『デモ音源が完成しました』という短いメッセージと共に、音声ファイルが送られてきた。

 

 オレと鈴町さんは、早速自宅のリビングのソファーに並んで腰を下ろした。ノートパソコンに繋いだ一つのイヤホンを右と左で分け合い、少し緊張しながら再生ボタンをクリックする。

 

「……疾走感があるのに、すごく綺麗で可愛らしい感じの曲だな」

 

「はい……!とっても、素敵です……」

 

 イヤホンから流れてきたのは、まさに『双葉かのん』という妖精のキャラクターを完璧にイメージして作られた楽曲だった。

 

 『ホワイトプリンセス』のサウンドの系譜を受け継ぎながらも、より明るくポップな曲調にアレンジされている、歌詞も大好きなお姫様のために頑張るという感じの内容だった。

 

 すごくいい曲だと思う。しかし……これを普段オドオドしている鈴町さんが歌うとなると、一体どんな感じになるのか。正直、全く想像ができないけど……。

 

「あのましろん先輩……ここの……サビの歌詞……同じところ……空白なんですけど?」

 

「あっ、そうだ。AMEさんから伝言があってさ。『そこのワンフレーズは、ぜひかのんさん自身の言葉で考えて埋めてほしい』そうだよ」

 

 オレがそう伝えると、鈴町さんは考える素振りもなく、まるでずっと前から決めていたように、スッと声に出して呟いた。

 

「『一緒なら幸せになれるから……信じてお姫様』……」

 

 それは、メロディーの空白に見事にハマる、切なくも力強い言葉だった。

 

「おお……すごいな。字余りもないし、完璧じゃないか」

 

「あ。はっ……!はっ……恥ずかしいっ……!」

 

 自分が無意識に発した言葉の「重さ」に気づいたのか、鈴町さんの顔がみるみると真っ赤に染まっていく。そして勢いよく俯く。まるでリンゴみたいだ。

 

「こっ、これは……その……っ!ち、違くて……!」

 

「いや鈴町さんらしくていいと思うけど。あと曲名もまだないから鈴町さんにお願いしたいそうだぞ」

 

「曲名は前から決めてました『フェアリーテイル』……一応……おとぎ話って意味です。フェアリーは……妖精って意味もありますし」

 

「おお……なんか……すごいな鈴町さん」

 

「Fmすたーらいぶの3期生でデビューした時から……いつか……オリ曲を出す時がきたら……絶対にそうしようって。……考えてました……はい」

 

 鈴町さんは少し恥ずかしそうにでも誇らしそうに言った。その言葉を聞いて、オレはハッとした。

 

 オレは、大きな勘違いをしていたのかもしれない。この前、熱くコラボを直訴してきた玲奈ちゃんも、そして今、隣で真っ直ぐな瞳をしている鈴町さんも……みんな、Vtuberとしての『自分がやりたいこと』や『将来のビジョン』を、デビュー当初からしっかりと持っているんだ。それはきっと、他のライバーさんたちも同じだろう。

 

 オレは……今までそんな目標は何一つなかった。だからこそ今は『双葉かのん』……鈴町さんと共に、見たことのない景色を見るために頑張りたいんだ。

 

「最高だと思う。それじゃ、このタイトルと歌詞で、AMEさんに返信しておくよ」

 

「はい……!よろしく……お願いします」

 

 そして更に数日後、ついに『双葉かのん』のデビュー曲『フェアリーテイル』のフルミックス音源が完成した。

 

 送られてきた完成版の曲を改めてスピーカーで聴くと、色々な音の厚みが増していて、やっぱりAMEさんの楽曲センスは素晴らしいと感動した。ちなみに、あの空白だった歌詞の部分は、鈴町さんの希望通り『一緒なら幸せになれるから……信じて、お姫様』のまま採用されていた。

 

 鈴町さんはというと、完全にこの曲の虜になっていた。パソコンやスマホに音楽ファイルを入れて、文字通りすり減るのではないかという勢いで、毎日何度もリピート再生して聴き込んでいる。

 

「鈴町さん。歌えそう?」

 

「はっはい。何回か歌ってみたんですけど……違和感なく歌えると思います。それにしても……この曲……本当にいいですね……」

 

「良かったな。オレもいい曲だと思ってるよ。早く鈴町さんの歌声で聴いてみたいな」

 

「私も……早く歌いたいです……」

 

 鈴町さんは、目をキラキラと輝かせながら言う。よっぽど楽しみなんだろう。オレも、彼女がステージでこの曲を歌い上げる日が来るのを心待ちにしている。

 

 ちなみに、Fmすたーらいぶの事務所には一つの大きな方針がある。

 

 それは、新期生Vtuberのオリジナル楽曲は、基本的に毎年夏に行われる事務所最大のお祭り『Fmすたーフェスティバル』のステージ上で、初お披露目として解禁されるというルールだ。

 

 Fmすたーフェスティバル。

 

 それは、毎年夏に行われる歌の祭典で、在籍しているタレントVtuberが全員参加する超大型の3Dライブイベントである。全国各地の映画館でのライブビューイングや、YouTubeでの有料ライブ配信も行われる、まさに夏の大舞台。

 

 特設の3Dライブ仕様のステージが用意され、そこで新期生は新曲を発表したり、期生を超えた色々なシャッフルユニットで歌やダンスを披露したりするのだ。

 

 実際、配信はリアルタイムではなく収録なので、オレも参加している。

 

 その一大イベントの日に合わせて、これからは本格的なレコーディングや、ボイストレーニング、そして地獄のダンスレッスンが毎日のスケジュールにギッシリと組み込まれてくる。

 

「これから、目が回るくらい色々と忙しくなってくるな……」

 

 夏に向けての怒涛の日々を想像し、オレは身震いした。

 

 だからこそ、『姫宮ましろ』として自分自身のパフォーマンスを磨くことはもちろん、『双葉かのん』の専属マネージャーとして、鈴町さんの心と体のケアを全力で支えてやらないとな。

 

 オレは気合いを入れるように、自分の両頬をパンッと軽く叩いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。