【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
42. 姫は『土下座』も辞さないそうです
真っ暗な画面のまま、オレは3期生の朽木ココアちゃんの放送事故を助けるために、機材が直るまで突発的なラジオ風配信で場を繋いでいた。
おそらくSNSで拡散され、視聴するリスナーが増えてきているんだろう。コメント欄の勢いは留まることを知らず、むしろ普段のゲーム配信以上の盛り上がりを見せている。
《どう?ココアちゃん》
「なんとなく、いけそうな気がします……!たぶん、ここをこうすれば……!」
《ダメだったら一緒に謝ろうか。姫宮ましろの土下座みたいよねみんな?これからココアちゃんは。Fmすたーらいぶの歴史の中で『姫宮ましろを土下座させた最強の後輩』として末代まで語り継がれるんだよ。光栄だね》
「絶対イヤです!そんなことしたら朽木ココアのVtuber生命は終わりますよ!なんとしても直しますから!」
コメント
『姫w煽っていくスタイル』
『オレなら泣くわ』
『姫様の土下座!?』
『むしろ踏んでください!』
『↑通報しました』
《ねぇココアちゃん。Fmすたーらいぶでお喋りしたい人いる?》
「いっぱいいますよ。まだ話したことない先輩もいますし、一番はリコピン先輩と歌コラボしたいです」
オレはその言葉を待っていたかのようにディスコードで通話をかける。
《急だけど、出てくれるかな?あ。》
《もしもし……?どうかしましたか……?》
《ごめんなさい、急に。実はこれ、今ココアちゃんの枠で配信中だよ》
《え?あ。配信?なんだ配信中だったのね!いきなり『姫宮ましろ』からかかってきたから、終わったと思いましたよ》
「こっこの声は……え?え?」
《自己紹介お願いします》
《あっはい。みんなトマト食べてる~?Fmすたーらいぶ2期生魔界から来たヴァンパイアの黒夜ルナよ。よろしく》
コメント
『おおリコピン!』
『声いいな』
『こーもり歓喜!』
『突発でルナ様呼び出し姫ぱねぇ』
『神回確定』
黒夜ルナ。銀髪に赤い瞳、白い肌を持つ魔界の崇高なるヴァンパイア。血の代わりにトマトが大好物。太陽が苦手なので配信は夜にしかやらない。
特筆すべきは、その圧倒的な歌唱力だ。歌枠や「歌ってみた」の動画が上がると『#リコピンの歌』がTwitterで即座にトレンド入りするほどの反響を呼ぶ。おまけにゲーム得意で、自作のイラストも描けるという、Fmすたーらいぶが誇る完璧超人の一人。コンセプトは『最高のトマトを探すためにFmすたーらいぶに来たヴァンパイア』らしい。
ちなみに『こーもり』というのは黒夜ルナのファンネームである。
「はっ初めまして!リコピン先輩!朽木ココアです!」
《初めまして。まさか初めての絡みが放送事故とは思わなかったわよ》
《ちなみにましろもルナちゃんとはほとんど初めましてだよね》
《そうですね。あまり絡んだことはないですし、ましろ先輩とのコラボも実現してないですよね?》
《うん。機会があればコラボしたいと思ってるんだけどね?それでルナちゃんにお願いがあるんだけど。誰かもう一人呼んでほしいかな》
《えっと……空いてるのは……あっいた。どうせ暇だと思うから呼び出すわね》
コメント
『こりゃ謎解き配信より面白くなってきたぞw』
『まさかの展開』
『姫は神』
『リコピンは誰を呼ぶんだ』
数秒後。ディスコードの通話ルームに、ポンッと入室音が鳴り、1人のライバーが追加された。
《あの……これって指名制なんですの?それとどうせ暇ってルナさんあなた、わたくしをなんだと思ってますの?》
《じゃあ何してたのよ?》
《優雅にディナーを楽しんでいましたの!》
コメント
『この声はまさか……』
『お嬢が来たぞ!』
『自称ましろ姫のライバルw』
《ふふっ、賑やかになってきたね。とりあえず自己紹介してほしいかなクララちゃん》
《急かしますわねましろ先輩。……みなさまご機嫌よう。Fmすたーらいぶ2期生、可憐に咲く一輪の花。伊集院クララですわ》
伊集院クララ。金髪ロングで水色を基調としたドレスを着た美少女で、その立ち振る舞いや口調はわがままお嬢様そのもの。意外に常識人で自称姫宮ましろのライバルで清楚担当。しかしどの配信でも常にキレており、雑談配信ではリスナーとの熱いプロレスをしたりとキレ芸がもはや伝統芸能として大人気となっている。3Dライブでのダンスはキレッキレッで、その姿はまるで蝶のように舞うとこちらも大人気。コンセプトは『庶民の文化に触れて成長する最強のお嬢様』らしい。
《ちなみにクララちゃん何食べたのかな?》
《牛丼ですわ》
コメント
『草』
『牛丼お嬢様』
『ディナーとは?』
『化けの皮が剥がれたなクララ』
『紅生姜多めですか?』
《クララお嬢様な!ディナーだろうが!夕飯なんだから!文句ありますの?大量に買いますよ?表に出なさい!》
《おお……これが名物のプロレス芸……生で聞くと迫力が違うね》
《落ち着きすぎですよ。ましろ先輩》
《じゃあ、クララちゃん。この真っ暗な画面が直るまで、みんなとお話ししてくれるかな?》
「ごめんなさいお嬢先輩。今直してるので……」
《あら、配信事故でしたのね。てっきりホラーゲームでもやってるのかと思いましたわ。これは失礼致しました》
そんなこんなで、突発的に始まったこの豪華なラジオ風配信は、2期生の2人の軽快なトークのおかげで、放送事故の不穏な空気を完全に払拭し、奇跡的な盛り上がりを見せていた。
そして、4人で和気あいあいと雑談を回して15分ほど経った時だった。
ふいに、漆黒だった画面がパッと切り替わり、可愛い洋室の背景と、ココアちゃんのLive2Dアバターが鮮明に映し出された。
コメント
『おおおお!』
『映ったあああああ!』
『やった!』
『これでココアちゃんも助かる』
『よかったぁ、お疲れ様!』
「うぅ~……直ったぁ……映ったぁ……!」
《よく頑張ったね。ココアちゃん、泣かないで。ほらほら、今日の本番の配信はここからがスタートだからさ》
「ましろ先輩、本当にありがとうございます……っ。リコピン先輩も、お嬢先輩も、お休みのところ巻き込んじゃって、本当にごめんなさい……!」
《暇だから気にしないでいいわよ。忙しかったら来ないし。せっかくならこのまま難解な謎解き一問やっていこうかしら?》
《いいですわね!わたくしのIQの高さを見せつけてやりますわ!負けませんわよ、ましろ先輩にもルナさんにも!》
《ふふ。ましろも負けないよ。ほらココアちゃんゲーム起動して》
「みんな、優しすぎる……うぅっ、はいっ! 今起動しますっ!」
こうして、無事に絶望的な淵から復旧できたココアちゃん。オレたちはそのまま彼女の謎解きゲームの最初のステージにガヤとして参加させてもらい、ギリギリのところで放送事故は「神回コラボ」へと見事に回避されたのだった。
深夜、配信が終わって間もなく。オレのディスコードに、朽木ココアちゃんから直接メッセージと通話の着信があった。
《本当にすいませんでした!》
「お疲れ様。良かったねギリギリ直って」
《はい……本当にありがとうございました……》
通話越しの声は、配信中の元気な様子とは打って変わって、かなりテンションが下がりきっているみたいだな。
まぁ無理もない。デビューして間もない新人が、先輩たちを巻き込む大事故を起こしてしまったのだから、責任を感じて落ち込むのは当然だ。でも、このまま自己嫌悪を引きずって、これからの配信活動に悪影響が出るのは会社としても、先輩としても困る。
「あのさココアちゃん。ましろはね『誰かが困ったら誰かが頑張ればいい』って思うんだ」
《誰かが……?》
「うん。だってさ、ましろたちは同じ事務所の大切な仲間なんだから、持ちつ持たれつでいい。そこに先輩とか後輩とかはないんじゃないかな?だからココアちゃんもそうやって誰かのために頑張る時が来たら今度はココアちゃんが助けるんだよ。だから今回はましろとルナちゃんとクララちゃんの番だった。それだけだから気にしないでね。ココアちゃんがテンション低いと使い魔さんたちが悲しむよ?」
《はっはい!ココアも頑張っていつか先輩方を助けます!》
鼻をすすりながらも、そう力強く答えてくれた朽木ココアちゃん。
大丈夫。このFmすたーらいぶは、本当に温かくていい人しかいない最高の場所だから。
オレは通話を切り、パソコンの電源を落とした。ヘッドセットを机に置きながら、先輩として後輩のピンチを救えたことが、なんだか少しだけ照れくさくも、誇らしく思えた夜だった。