【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!   作:夕姫777

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43. 後輩ちゃんは『トリ』が無理らしいです

43. 後輩ちゃんは『トリ』が無理らしいです

 

 

 

 深夜の突発的な『まっしろココア』ラジオ配信から、あっという間に1週間が過ぎた。

 

 あの大事故の翌日、心配していた朽木ココアちゃんだったが、吹っ切れたのか元気に謎解きゲームの続きを配信しており、リスナーからも「ポンココ」といじられながらも愛されているようで本当に良かった。

 

 そしてオレも鈴町さんも、来月の7月末に行われる事務所の夏の大祭典『Fmすたーフェスティバル』に向けて、本格的なボイストレーニングやダンスレッスンに追われる日々を送っていた。

 

 もちろん、男であるオレは、他のライバーと絶対に顔を合わせないよう厳重なスケジュール管理のもと、深夜のスタジオで秘密裏にレッスンをこなしている。慣れないダンスのせいで、全身が常に筋肉痛でバキバキだ。

 

 そして、季節は本格的な夏を感じさせる7月に入った、ある日のことだった。

 

「今日はちょっと早いけど、ここで配信終わりにするね。また明日お会いしましょう『姫宮ましろ』でした」

 

 コメント

『姫お疲れさまー!』

『また明日!』

『無理しないでね』

『ましろ姫またね~』

 

 いつものように温かいリスナーたちと少し言葉を交わし、オレは配信の終了ボタンをカチリと押した。

 

 「ふぅ……」と一息つきながら、背伸びをして凝り固まった身体をほぐす。ふと、パソコンのディスコードを開いて事務所からの連絡用チャンネルを確認すると、運営から全体宛てに重要なお知らせのメッセージが届いていた。

 

 どうやら『Fmすたーフェスティバル』のスケジュールらしい。それを確認しようとしていると、バンッ!と勢いよく扉が開き、盛大な寝癖をつけ、パジャマ姿のままの鈴町さんが血相を変えて部屋に飛び込んできた。

 

「おはよう、鈴町さん。随分と慌ただしいな」

 

「あっ、あの……っ!みみ……見ましたかっ!?」

 

「何を?」

 

「『Fmすたーフェスティバル』の、タイムスケジュール……です……っ!」

 

 息も絶え絶えに、スマホの画面を握りしめながら訴えかけてくる鈴町さん。

 

「ああ。ちょうど今から確認しようとしてたところだけど?」

 

 オレは鈴町さんの異様なまでの焦りを一旦スルーし、そのままモニターに映る運営からのメッセージを目で追った。

 

【Fmすたーフェスティバル】

 7月29日(土)19:30~22:00配信

 7月30日(日)19:00~21:30再配信

 参加者

 Fmすたーらいぶ在籍のVtuber

 

 スケジュール

 開会式 

 神川ひなた、青嶋ポアロ(みこたん)

 

 ライブ ※《》は曲名

 葉桐ソフィア《Ataraxia》

 黒夜ルナ《Red Zone》

 ユニット『ルナフィア』《終焉毒リンゴ》

 

 MCパート 葉桐ソフィア、黒夜ルナ

 

 九重キサラ《PowerGate》

 遠山さくら《Detective》

 伊集院クララ《お嬢様のお通りよ!》

 ユニット『ららら』《きゅん×3》

 

 MCパート 九重キサラ、遠山さくら、伊集院クララ

 

 海原あると《あるてぃめっとSong》

 青嶋ポアロ《Complex》

 ユニット『あるアロ』《ライジングサン》

 

 MCパート 海原あると、青嶋ポアロ

 

 朽木ココア《マジカル×マジカル》

 魔月リリィ《Queen's Pride》

 神川ひなた《花吹雪絵巻》

 輝聖いのり《Cattleya》

 ユニット『ひのアリ』《ワンダフルDAYS》

 

 MCパート 朽木ココア、魔月リリィ、神川ひなた、輝聖いのり

 

 姫宮ましろ《ホワイトプリンセス》

 双葉かのん《フェアリーテイル》

 ユニット『ましのん』《未定》

 

 MCパート 姫宮ましろ、双葉かのん

 

 閉会式

 神川ひなた、青嶋ポアロ

 

 計150分予定

 

 ふむ。オレと鈴町さんが最後か。なるほどだからオドオドしてるんだな鈴町さんは。というより……オドオドを通り越して、なんかもう顔面が蒼白を通り越して土気色になっているんだけど。今にも倒れそうだぞ。

 

「えっ……と。その……なんで……私たちが、最後なんですか……?フェスのトリなんて……絶対、無理です。荷が重すぎます……」

 

「まぁ、双葉かのんの『フェアリーテイル』は、姫宮ましろの『ホワイトプリンセス』のアンサーソング的な意味合いもあるからじゃないか?演出的に2曲を並べて、そのままユニットの曲に繋げた方がストーリー性があってエモいから、運営もそういうセトリを組んだんだろ」

 

「うぅ……プレッシャーで……胃が……気持ち悪い……です……」

 

 鈴町さんはお腹を抱え、その場にへたり込んでしまった。

 

「いやいや、大げさだって。同じ3期生で鈴町さんの同期の葉桐ソフィアちゃんだって、一番緊張するトップバッターを任されてるじゃないか。彼女の方が年齢だって年下だろうに、堂々としてると思うぞ?」

 

 励ますつもりで言った一言だったが、それがマズかったらしい。

 

「…………そうやって……また、ソフィアちゃんのこと……」

 

「え?」

 

「やっぱり……ましろん先輩は、ソフィアちゃんの方が……若くて、しっかりしてて、度胸もあるから……そっちの方がいいんですよね……」

 

 鈴町さんはジトォォッと恨めしそうな目をオレに向け、唇を尖らせていじけ始めてしまった。朝から特大の嫉妬モードだ。

 

「そんなことないだろ。それより『ましのん』で歌う曲決めないと。未定のままだからさ。早く提出しないと、ダンスの振り入れの時間がなくなるぞ。ほらっ、決めよう!」

 

「うぅ……わかりました……」

 

 見事な話題そらしでなんとか機嫌を直し、こうしてオレたち2人は『Fmすたーフェスティバル』という大舞台に向けて、目の回るような忙しい日々を送ることになった。

 

 ちなみに、『ましのん』として2人で歌う曲は、ボカロPであるAMEさんのデビュー作『夢色トリック』に決めた。

 

 一応、『姫宮ましろ』にも『双葉かのん』にも大事な曲を提供してくれている恩人だし、この前のカレー屋で聞いたあのドラマチックな話を経て、少しでもAMEさんの初期の曲を大勢のリスナーに聞いて欲しいと思ったからだ。

 

 ……ただ、この『夢色トリック』、いかにも王道のアイドルポップスといった感じで、歌詞もメロディも殺人的にキュートなのだ。

 

 男であるオレがこれを全力で歌って踊るのかと思うと、羞恥心で精神が崩壊しそうになるが……すべてはAMEさんへの恩返しと、鈴町さんのためだ。曲が可愛すぎる問題は……オレがプロとして歯を食いしばって我慢することにする。

 

 そんなこんなで、あっという間に7月中旬。

 

 今日は、ついに『Fmすたーフェスティバル』のライブパートの収録日だ。スケジュール調整の結果、オレと鈴町さんが一緒にスタジオに入り、同じブースで収録を行うことになった。

 

 この日のために、血を吐くような思いでボイトレやダンスレッスンを積み重ねてきた。その成果を存分に発揮できるよう、オレは気合いを入れてストレッチをする。

 

 今日収録するのは、それぞれのソロ曲とユニット曲の歌唱・ダンス、そして『ましのん』としてのMCパートだ。

 

 ふと横を見ると、一緒にスタジオにいる鈴町さんは、いつものように「この世の終わり」のような絶望的な顔をして、パイプ椅子の上で小さく丸まっていた。相変わらず「大トリ」というプレッシャーに押しつぶされているらしい。

 

 ……でも、冷静に考えたら、これは生放送のライブではなく、あくまで事前にバラバラに撮ったものを繋ぎ合わせる「収録」なのだ。

 

 つまり、スタジオにはオレたちとスタッフしかいないし、トップバッターだろうがトリだろうが、収録現場の空気感や順番なんて何の関係もないのである。

 

(……まぁ、緊張感を持ってもらうためにも、黙っておくか)

 

 プルプルと震える鈴町さんを微笑ましく見下ろしながら、まったくこの子には困ったものだと、オレは内心で密かにツッコミを入れるのだった。

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