【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
44. 後輩ちゃんは『夢』を叶えたそうです
時間は午後10時。ひっそりと静まり返ったFmすたーらいぶの地下スタジオで、いよいよ『Fmすたーフェスティバル』のライブパートの収録が始まった。
こんな深夜のスケジュールになっているのは、ひとえに「中身が男である『姫宮ましろ』を他のスタッフやライバーと接触させないため」という厳重な情報統制のせいだ。それに付き合わせて、鈴町さんをこんな時間まで連れ回してしまっていることには、かなり申し訳ない気持ちがある。
「では、まずましろさんのソロ曲『ホワイトプリンセス』から撮りますね。モーションキャプチャの調整、入りまーす」
「あっ、はい。お願いします」
「ましろん先輩……頑張って、ください……っ」
「おう。行ってくる」
鈴町さんの小さなエールを背に受け、オレは機材に囲まれた撮影エリアのど真ん中に立つ。
モニター越しに『姫宮ましろ』の3Dモデルの動きを確認する。手足を動かすと、画面の中のお姫様も寸分違わぬ動きで追従してくる。よし、トラッキングは問題なさそうだ。
「それじゃあ、音源流します。始めてください」
「はい。よろしくお願いします」
そしてオレは歌い始める。今回の『Fmすたーフェスティバル』では、参加者全員が共通のモチーフを取り入れた特製のアイドル衣装を着ている。
『姫宮ましろ』の衣装は白を基調としたドレス。イメージカラーでもある白色がメインになっている。これは姫宮ましろが清楚であるということを表現しているらしい。
だからこそ、激しい曲調に合わせて動きつつも、スカートがめくれすぎないように、指先まで可憐さを保つように、常に画面を見ながら動きを確認しないといけない。
「すいませーん、ましろさん!曲の入りとサビのところで、少しウインクを多めにできますか?今回は少しカメラが引き気味の構図が多いので、表情でアピールしてほしくて。もう一度頭からお願いします!」
「あっ、はい。わかりました」
……マジか。
オレは言われた通りに、要所要所で顔の筋肉を器用に動かしてウインクを多めに挟む。
正直、24歳の成人男性が、無人のスタジオで一人空に向かってパチパチとウインクを連発している状況は、客観的に見ると死ぬほど恥ずかしすぎる。精神がゴリゴリと削られていくのを感じるが、これも仕事だと割り切って、プロとして最高の「可愛い」を作るしかない。
「はいオッケーです。お疲れさまです」
「ありがとうございました」
精神的な疲労で肩で息をしながら、オレは撮影エリアを降りた。
「じゃあ次は、かのんさんのソロ曲いきます。準備お願いします」
「鈴町さん。頑張ってな」
「はいっ……行ってくる……です……」
鈴町さんは、先ほどまでのオレ以上にガチガチに緊張しているのか、いつも以上にオドオドと小刻みに震えながら所定の位置についた。
しかし――『双葉かのん』の初オリ曲『フェアリーテイル』のイントロが流れた瞬間、その空気は一変した。
鈴町さんは、弾けるような笑顔を作ると、軽快なポップチューンに合わせて見事にステップを踏み、透き通るような声で歌いながらダンスを始めたのだ。
オレは目を見開いた。
鈴町さんの生歌をちゃんと聴くのはこれが初めてだが、普通に上手い……。声の伸びもいいし、何よりあんなに不安がっていた激しい振り付けのダンスを、全くブレることなくキレキレで踊れている。
普段のオドオドしてコミュ障な「鈴町彩芽」の姿はそこにはない。画面の中で飛び跳ねる『双葉かのん』は、間違いなくキラキラと輝く本物のアイドルだった。オレは時間を忘れて、ただただその可憐な姿に見惚れてしまっていた。
「ごめんなさい、かのんさん。すごく良かったんですが、サビ前のカメラワークだけもう少しアップで撮りたいので、その部分だけもう一度いいですか?」
「あっ、はいっ。大丈夫……ですっ」
スタッフの指示に、鈴町さんは息を切らしながらもハキハキと答え、指示された通りの可愛いポーズを完璧に決めてみせた。
その後、無事に『フェアリーテイル』の収録を終えることができ、短い休憩に入る。オレはスポーツドリンクを持って、汗を拭う鈴町さんに駆け寄った。
「お疲れ様。鈴町さん。すごく良かったよ、驚いた」
「うぅ……ましろん先輩に言われると……恥ずかしい……です……」
「いやいや、本当に凄かったって。鈴町さんの『フェアリーテイル』初めて聞いたけど……なんか……感動した」
「そっ……そんなこと……ない……ですよ」
鈴町さんは顔を赤くしながら照れている。その姿がまた可愛い。
「でも……ましろん先輩も……『ホワイトプリンセス』カッコ良かったです」
「ありがとう。次は『夢色トリック』だから頑張ろう。歌詞割り大丈夫か?」
「だっ……大丈夫……です……」
オレたちは短い休憩を終えて、次の曲『夢色トリック』の収録エリアに並んで立つ。
前方の大きなモニターを見ると、そこには純白のドレスを着た3Dモデルの『姫宮ましろ』と、妖精の衣装を着た『双葉かのん』が初めて肩を並べて映し出されていた。
なんか……感慨深いな。
こうやって『姫宮ましろ』の隣に誰かが立って、一緒にユニットとして歌って踊る日が来るなんて、少し前のオレには全く想像もできなかった。
そして、ポップなイントロが流れ出し、オレと鈴町さんは同時に歌い始める。
横にいる鈴町さんは、あんなにオドオドしていたのが嘘のように、振り付けを一つも間違えることなく、オレの歌声にピタリと合わせてハモりを入れてくる。
しかも、この『夢色トリック』の振り付けは、お互いの顔を向き合って見つめ合うタイミングが非常に多い。その度に、物理的にもすぐ隣にいる鈴町さんと何度もバッチリ視線が合ってしまい……オレは曲の可愛さ以上に、その距離感に心臓がドギマギと高鳴ってしまっていた。
「はい、OKです! お2人とも息ぴったりでした、お疲れさまでした!じゃあ最後に、MCパートのトークを収録してアップになります!」
こうして、深夜のテンションも相まって無事にMCパートの収録も一発で撮り終えたオレたちは、重い身体を引きずりながらも、心地よい疲労感と共に帰宅する。
静かな夜道を並んで歩く。
「ましろん先輩……今日は……すごく、楽しかった……です」
「ああ、オレもだよ。鈴町さんと一緒にステージに立って歌えて、本当によかった。夜遅くまで連れ回しちゃってごめんな。でも、今年の『Fmすたーフェスティバル』は、間違いなく『ましのん』が一番輝いてる最高のステージになったと思うぞ」
「はい……私も……そう思います」
2人でふふっと笑い合い、今日の収録の出来事を振り返りながらゆっくりと歩調を合わせる。
「私……今日、夢が……叶いました」
「夢?」
「はい。ずっとずっと憧れだった、大好きなましろん先輩と……同じステージに立って、一緒に……歌うこと。……それが……私がVtuber『双葉かのん』としてデビューした時からの、一番の夢だったから」
鈴町さんは、夜の街灯に照らされながら、本当に幸せそうに、そしてどこか誇らしげに微笑んだ。
その純粋な笑顔を見ていると、オレが色々な葛藤を抱えながらも『姫宮ましろ』としてここまで活動を続けてきたことは、絶対に間違っていなかったんだと、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「そっか。……でも、これで終わりじゃないぞ。これからもっともっと、色々なでっかい夢を叶えていくんだ。オレと、鈴町さんの2人で。……『ましのん』として、な?」
オレが真っ直ぐにそう告げると、鈴町さんは一瞬驚いたように目を丸くした後、嬉し涙をこらえるようにギュッと唇を噛んだ。
「ましろん先輩……これからも、ずっと一緒に……私の隣で……活動……してくれますか?」
「当たり前だろ。オレは『姫宮ましろ』であり、鈴町さんを誰よりも近くで支える専属のマネージャーなんだからさ。どこにも行かないよ」
「はいっ……!約束、ですよ?」
「ああ。約束な」
夜空に向かって、オレたちは小さく指切りをするように笑い合った。
こうして、オレたちの『Fmすたーフェスティバル』の熱い夏に向けた収録は、無事に全て終わったのだった。あとは、世界中のリスナーが待つ本番の配信日を、楽しみに待つだけだな。