【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
50. 姫は『決意』したようです
ひなたさんとの心臓が止まるような打ち合わせを無事に終え、オレたちはへとへとになって帰ってきた。
ちなみに、あのあと少し遅刻して「す、すいませーん!」と涙目で駆け込んできた3期生の海原あるとちゃんも合流し、詳細な企画説明を受けた。
今回の案件は、ひなたさんがメイン司会を務め、ましのんとあるとちゃんでプロサッカーの魅力を伝える『これが私のすたーらいぶイレブン!』という大型の公式特番だ。
内容は、Fmすたーらいぶに所属する自分以外のライバー12人を、サッカーのポジションと監督・コーチ役に当てはめ、「誰が最強の理想のフォーメーションを作れるか」をプレゼンし、リスナーの投票で決めるというバラエティ企画。最下位にはキツい罰ゲームが待っているらしい。
配信は、来週の週末に公式チャンネルの3Dスタジオで行われる。
そして現在。
オレはリビングのソファに深く腰掛け、テーブルに広げたサッカーのフォーメーション資料に目を通していた。……いや、目を通しているふりをしながら、頭の中ではひなたさんから言われた言葉を反芻し、ずっと別のことを考えていた。
「……ましろん先輩」
「えっ……!?」
不意に至近距離から声が降ってきて、オレはビクッと肩を揺らした。見上げると、マグカップを二つ持った鈴町さんが、心配そうにオレの顔を覗き込んでいた。
「どうしたんですか?」
「えっ……なにが?」
「いえ……なんだか、さっきから資料を裏っ返しのまま持ってますし……すごく、深く悩んでいるような……顔をしていたので……」
「あ……」
手元のプリントを見ると、見事に裏面の白紙を真剣な顔で見つめていた。恥ずかしい。
「そっか……。オレって、そんなに顔に出やすくて分かりやすい?」
「……ましろん先輩のこと……その……私、いつも、よく見てる……ので……。ちょっとした変化でも……わかります」
コトリとテーブルにマグカップを置きながら、鈴町さんは上目遣いで、ぽつりと顔を赤くしてそう言った。
――やばい、可愛い。
最近、ふとした瞬間に鈴町さんを一人の「女性」として強く意識してしまう自分がいる。出会ったばかりの頃は、ただ放っておけない小動物や妹のような感じだった。でも、共に隣で歩み、彼女の真っ直ぐな熱意に触れるうちに、その感情は確実に違うものへと変わってきた気がする。……いや、間違いなく変わっている。
「その……ましろん先輩……」
「うん?……なに?」
「ましろん先輩が……何に悩んでるのか……わかりませんけど……その……話せることなら聞きますよ?……私じゃ……力不足かもしれませんけど……」
鈴町さんは自分の膝の上でギュッと両手を握りしめながら、勇気を振り絞るようにオレの目を見た。
「……そんなことないよ。ありがとう。元々、鈴町さんには一番に話そうと思ってたことだからさ」
オレは持っていた資料をテーブルに置き、姿勢を正した。
たとえここで、『姫宮ましろ』が終わりになったとしても仕方ない。中身が男であることを隠したまま、後ろめたい気持ちでVtuber『姫宮ましろ』をやり続けるほうが、ずっと彼女たちを裏切ることになると思うから。
「実はさ……オレが『姫宮ましろ』の中身だってこと、まずは1期生の同期たちに話をしようと思うんだ」
「……1期生、のみなさんに……?」
「いずれは全員に話すつもりだけど、まずはね。この前のすたフェスの同時視聴配信で、痛感したんだ。オレは元々、代役として成り行きで『姫宮ましろ』になっただけの人間だった。だから最初は、仲間との馴れ合いなんて欲してなかったし、なんの目的もなくただ業務として配信をこなして生きてきた」
オレの告白に、鈴町さんは息を呑んで静かに耳を傾けている。
「でも、みんなの過去や今までの活動の話を聞いて、一緒に同じ目的に向かって歩いていきたいって、心の底から思ったんだ。だから……このまま男であることを隠して嘘を吐いたまま、彼女たちと本当の仲間として付き合っていくことは、オレにはできない」
「ましろん先輩……」
「でもね。そう思わせてくれた一番の理由は、鈴町さんなんだよ。こんなに身近に『姫宮ましろ』の熱いファンがいて、誰よりも純粋に応援してくれてるってわかったから。オレも真剣に向き合わなきゃって思えたんだ」
オレは、鈴町さんの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「ただ、真実を話せば、当然許してもらえない可能性もある。もしもの時は『姫宮ましろ』は引退して、鈴町さんとの『ましのん』のユニットも終わりになるかもしれない。……だから鈴町さんには、絶対に先に言っておきたかったんだ」
オレのその言葉を聞いて鈴町さんは黙ってしまう。しかしすぐに顔を上げると、少し微笑みながらオレを見つめていた。
「……私は、大丈夫だと思います。きっと、みなさん分かってくれます」
「鈴町さん……?」
「だって、ましろん先輩は、ましろん先輩ですから。性別がどうとかじゃなくて……今までましろん先輩が残してきた……優しさや言葉は、全部本物です。それに……もし……何かあっても、私はずっとましろん先輩の味方ですから」
「ありがとう……鈴町さん」
こうして鈴町さんと話して完全に決心がついたオレは、そのあと夜遅くに帰ってきた桃姉さんにも、リビングで同じ話をした。
「……そう。あんたがそう決めたなら私は反対しないわ。元は突発的にあんたにお願いしたんだし。ここまで良く頑張ってくれたわよ。……ありがとね、颯太」
「いや。オレはまだ、これで『姫宮ましろ』を終わりにするつもりはないよ」
「え?」
「みんなに真実を話して、説得するさ。最後までな。だって……オレ自身が、やっとVtuber『姫宮ましろ』として生きることが楽しくなってきたんだから。もちろん、鈴町さんとの『ましのん』だって、絶対に終わりにするつもりはない」
この件は『Fmすたーらいぶ』という企業にとっても、コンプライアンスや契約に関わる非常に重要な事なので、まずは桃姉さんから社長に確認と根回しをしてくれることになった。
1期生のみんなは、真実を知ってなんと言うのだろうか。
軽蔑されるかもしれない。怒られるかもしれない。不安しかないが、仲間として一緒に歩むためには、いつかは絶対に話さなければならない時がくる。だから、もう逃げてもしかたない。オレはもう決めたんだ。