【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
53. 姫は『同期』の空気感が好きなようです
グラスを傾け、ひなたさんが適当に見繕って頼んでくれた唐揚げや刺身をつまみながら、オレたちはこれからの活動について熱く話し込んでいった。
居酒屋特有の活気あるざわめきと、少しアルコールの入った心地よい疲労感が、オレの張り詰めていた神経を優しく解きほぐしていく。
こうやって同期のライバーたちとテーブルを囲み、腹を割って話すのは、もちろん今日が初めての経験だった。
これまで他のライバーさんと裏で深く関わる機会も作ってこなかったから、画面越しではなく直接言葉を交わすこの空間が、何から何まで新鮮で、そして心から楽しいと感じていた。心臓のあたりが、アルコールのせいだけではなく、じんわりと温かくなるのを感じる。
「あのさ。こうやって、ましろちゃんの中身が男だってことも分かってスッキリしたわけだし……今度、みんなでオフコラボとか企画したいよね?」
ジョッキを片手に、ひなたさんが嬉しそうに提案した。
「オフコラボ!?ひなた……あなた、急に何言ってるのよ。ましろはリアルでは男性なのよ?」
「えー?いいじゃんリリィちゃん。別にオフコラボ=お泊まりってわけじゃないんだから。みんなもう立派な大人なんだし、問題ないじゃない。そのくらい責任取れるような行動するし」
「そ、それはそうだけど……でも、その……」
「あはは!リリィママって、配信だとあんなにセンシティブで大人のお姉さんぶってるのに、リアルだと意外に純情な乙女だよねー。で、姫はオフコラボで何したい?」
ポアロさんに話を振られ、オレは少し考える。
「え?まぁ……もしやるなら、リリィさんのお料理配信とかに参加したいかもな。あれ、結構裏でずっと観てて美味しそうだなーって思ってたし。でも、リリィさんの配信スケジュール見ると、月1~2回のレア配信枠だから半年先まで予定入ってるんだよな」
「なるほど。つまり、ましろちゃんはリリィちゃんの手料理で『餌付けされたい』と」
「姫はむっつりエロだな?」
「えっ?なんでそうなるんだ!?」
「ましろ……あなた、そういう不純な目で私の料理配信を見ていたの……?ショックだわ」
「違う違う!純粋に料理が美味しそうだなって言っただけで……!」
胸元を隠すような仕草をするリリィさんに、オレは慌てて両手を振って否定する。
……おいおい、これ裏のただの飲み会だよね?なんでさっきから、リスナー向けの配信みたいなイジりの流れになってるんだこれ?
まるでいつものプロレスコントでも見ているかのような気分だ。このノリは、普段の生配信と全く変わらない。
「あっ!そう言えば『双葉かのん』ちゃんも姫のこと知ってるんだよね?オフコラボとか『ましのん』とかやってるし!それならかのんちゃんも呼べるね!」
「そうだけど……さすがに1期生との突発コラボは、かのんちゃんにはまだハードルが高そうだけど……」
オレが苦笑しながら答えると、ひなたさんが顎に指を当てて頷いた。
「確かに。私は次の企画一緒でこの前挨拶したけど、すごいコミュ障って言うか、絵に描いたような人見知りって感じの女の子だったかな」
「そうなの?あたしはまだ話したことないな~。話してみたいけど」
「噂通りなのね。私も何度か配信一緒になったけど、配信の時は普通に話せるわよね?」
「彼女の中で、明確な『スイッチ』があるんだと思う。普段はオレも、横にいてもほとんど会話することないし。それでも、『ましのん』のユニットを組んでからは、少しずつ自分から話してくれるようになったけど」
本当に鈴町さんは、ONとOFFの境界線がはっきりしている。
ただ、その極度の人見知りの奥に、たまに見せる女の子らしい純粋な一面や、オタク特有の熱い一面がすごく可愛いくて、それが強烈なギャップ萌えというか……。
……って、何考えてんだオレは。
オレはふいに顔が熱くなるのを感じて、慌てて残っていたビールを喉に流し込み、心の中で自分を叱咤した。
それからしばらくして、「ちょっとお花摘みに行ってくるー」「私も行く」と、ひなたさんとポアロさんが揃ってお手洗いに席を立った。
個室にリリィさんと2人きりになり、オレはとりあえず一息つく。「ふぅ」と長い息を吐き出すと、肩の奥の方までガチガチに入っていた力が、ゆっくりと抜けていくような感覚がした。
……本当に、良かった。
受け入れてもらえた安堵感で、なんだか泣きそうになるのを必死でこらえる。オレの中でずっとずっと抱えていた重荷が、嘘みたいに軽くなっている気がした。
すると、正面に座っているリリィさんが、頬杖をつきながらとても優しい表情でオレを見つめていた。その穏やかな大人のまなざしに、不思議と心が落ち着くのを感じる。
「ねぇましろ。私がこの前の同時視聴配信の時に言ったことは本当よ。あなたがあの時頑張ってくれたから、私は辞めなかった。だから感謝してるわ」
「いや……オレは何もしていないですよ。ずっと関わらないようにしていましたし」
「直接的にはそうかもね。でも、あなたがチャンネル登録者を増やし続けて、今では『Fmすたーらいぶ』では私とあなたが一番チャンネル登録者数が多い。もちろん、ひなたやポアロだって少ないワケじゃないけど」
リリィさんは、真剣な眼差しでオレの目を捉えた。
「だから……これからも、一緒にトップで頑張っていきましょ。どんどん増えていく可愛い後輩たちを引っ張って、この事務所を大きくしていくのは、紛れもなく一番上にいる私たちの役目なんだから。……途中で男だからって負い目を感じて、勝手に辞めたりしないでよ?」
「ああ……もちろん。リリィさん、こちらこそよろしく頼むよ」
オレとリリィさんは、お互いにふっと笑い合った。
その飾らない笑顔は、これまでのオレの全ての不安と罪悪感を完全に吹き飛ばしてくれるようだった。居酒屋の温かいオレンジ色の光の中で、オレたち2人の間に、ただの同僚を超えた確かな『戦友』としての絆が生まれた気がした。
そしてしばらく2人で真面目な仕事の話をしていたら、ひなたさんとポアロさんがバタバタと戻ってきた。
「あー!ましリリィ始まってんじゃんw2人でイチャイチャしてる!てぇてぇじゃん!」
「リリィちゃん。ましろちゃんが年下で男性だからって。抜け目ないなぁ?かのんちゃんに怒られるんじゃない?大丈夫?」
「違うわよ!そんなんじゃないでしょ!ましろとはこれからの『Fmすたーらいぶ』のこととか、他愛のない世間話してただけよ。ほらましろも言ってやってよ!」
顔を真っ赤にして否定するリリィさんに助けを求められ、オレはニヤリと悪戯っぽく笑った。
「え?……あー。そうなのか?オレはてっきりましリリィが始まったのかと思ってたけど?」
「ちょっとましろ!そんな配信みたいなこと言わなくていいから!」
立ち上がってオレの肩をバシバシと叩くリリィさんと、それを見て手を叩いて爆笑するひなたさんとポアロさん。
そんな感じでワイワイとふざけ合いながら、時間はあっという間に過ぎていく。笑い声が絶えないこの空間は、まるで昔からずっと一緒にいる家族のようだ。リアルで顔を合わせたのは今日が初めてだというのに、信じられないほどの居心地の良さに、心がたっぷりと満たされていくのを感じた。
そして夜遅くまで飲み続け、終電が近づいた頃にオレたちは解散することになった。
店の外に出ると、火照った身体に、ひんやりとした初夏の夜風がとても心地よかった。
「じゃあましろ。またね」
「またね~」
「またね姫」
「ああ。みんな気をつけて」
3人と別れ、オレは一人で帰りの電車に乗り込む。
ガタンゴトンと揺れる車内で、窓の外を流れる煌びやかな夜景を眺めながら、「まさか、オレの人生にこんな日が来るとは思ってもいなかったな」と、深い感慨にふける。
ずっと一人で、誰とも関わらずに裏側で活動してきたのに。今は、こんなにも最高の同期たちと楽しくお酒を飲み、笑い合っている。
初めてだったけれど、やっぱり集まれば自然とあの最高の『同期の空気感』が出る。それが、オレはどうしようもなく好きなんだと気づいた。心地よい疲労感と共に、明日への充実感が胸いっぱいに広がる。
……それもこれも、全ては鈴町さんのおかげだ。
彼女が『双葉かのん』として、そして一人のファンとして、オレを真っ直ぐに応援し、オレの心を変えてくれたからこそ、オレは今この場所に立てている。本当に、彼女には感謝しかないな。
こうしてオレは、1期生に『姫宮ましろ』の中身が男であることを無事に打ち明け、本当の意味での絆を手にして、そのまま前を向いて活動していけることになったのだった。
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