【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します! 作:夕姫777
81. チャンネル登録者10万人への熱い夏⑥
時間は19時50分。スマホの画面に表示された数字が焦燥感を煽る。葉桐ソフィアのチャンネル登録者は残り2089人。今はクララちゃんが合流してくれているので、20時までには2000人は切るだろう。
しかし、このままでは足りない。オレは考えるより早く、そのまま駅に向かって走り出した。アスファルトを蹴る足音が、やけに大きく耳に響く。おそらく事務所に着くのは21時前になりそうだ。間に合うか?間に合わせるしかない。
スマホを取り出し、電話をかける。それは鈴町さんにだ。事務所のマネージャーである桃姉さんではなく、真っ先に連絡をしなきゃと思うくらい、彼女はオレの中でも大きな存在になっていた。
プルルルル……ガチャッ、と受話器から音がした。
《もしもし?まし……あ。マネージャーさん?どうしましたか?》
鈴町さんの、いつもの控えめな声が聞こえてくる。配信中なのに出てくれたことに感謝しかない。
「配信中ごめん。少しだけ席をはずせるかな?」
《えっと……はい。大丈夫です……何かありましたか?》
「鈴町さんには言っておかないとと思ってすぐ連絡したんだ。オレは今から玲奈ちゃんのところに行くよ」
すると鈴町さんは驚きもせず、すぐにオレにこう言った。
《……はい。そうだと思いました》
「え?」
《ましろん先輩のことは……理解していますから。ソフィアちゃんを助けてあげてください》
彼女の言葉が、オレの胸にじんわりと温かさを広げた。本当に彼女はオレのことをよく見てくれている。
「ありがとう。なんか……鈴町さん。オレの彼女みたいだな?」
つい、冗談を言ってしまった。走り続けて高ぶった感情のせいか口が滑ったのだ。
《かっ!?私はただ……その……》
「冗談。いつもありがとな。それじゃあ行ってくるよ」
電話を切り、再び走り出す。駅までは10分ほどだが、今の自分にとってはとてつもなく長く感じる。焦りが、まるで影のようにまとわりついてくる。改札を通りホームまで行くと丁度電車が来ていた。飛び乗るように乗車し、そのまま揺られること数分。最寄り駅に到着した。
ここからはタクシーだ。幸いにも空車が通りかかり、手を上げて乗り込む。エンジンの振動が体の芯に響く。
「すみません。西区の大きな交差点の近くにある、Fmすたーらいぶの事務所の前に止めてもらえますか?」
「はい」
運転手に行き場所を伝え、シートに深く座り息を整える。焦るな……落ち着け。自分に言い聞かせるように、深呼吸を繰り返す。時間は20時30分。葉桐ソフィアのチャンネル登録者は残り1439人。数字が刻一刻と迫ってくる。
オレはディスコードを開き、Fmすたーらいぶのメンバー全員にメッセージを送った。指先がわずかに震えている。
『お願いがあります!21時15分までに1期生はリリィさんの配信、2期生はさくらちゃんの配信に集まってください!3期生はオフコラボ中なので。今……事務所に向かってます!最後までみんなでソフィアちゃんを応援しよ!ましろ歌います!一緒に歌ってほしいです!』
それだけを送り、オレは目を瞑る。緊張しているのか心臓がうるさいほどに鼓動している。でもやれることをやる。これが今の自分に出来ることの全てだ。あとは祈るだけだ。
すると、ディスコードの通知音が鳴り響き、リアクションがどんどん返ってきた。気づけば、全員から返ってきている。それぞれのアイコンがオレの決断を後押ししてくれているかのようだ。本当にいい仲間たちに恵まれたと心の底から思う。この温かい絆がオレの背中を押してくれた。
そして、タクシーが事務所に着く。時間は20時50分。間に合った。タクシーを降り、夜空を見上げる。星が瞬いているのが見える。オレは玲奈ちゃんの配信を確認すると、玲奈ちゃんは今、最後の休憩で離席しているようだった。
そのまま事務所のスタジオに急いで向かうと、扉の前にうずくまっている玲奈ちゃんの姿があった。スタジオの入り口から漏れる光が彼女の小さな背中を照らしている。
「玲奈ちゃん」
オレが声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。
「……ぐす。……颯太さん……?」
泣いているのか目が赤く腫れており声も弱々しい。残り時間、10万人までの残りのチャンネル登録者数。そのプレッシャーに辛くて悔しくて心が折れてしまったのかもしれない。その小さな体が震えているのが見て取れた。
オレは彼女の前で膝をつき優しく抱きしめる。玲奈ちゃんの体は震えている。その震えがオレの腕に伝わってくる。オレは背中を撫でながら彼女に語り掛ける。これはオレのエゴであり、独り善がりかもしれない。それでも、仲間として彼女が苦しんでいるのを見過ごせないから。
「玲奈ちゃん。まだ時間はある。諦めるな。君は……姫宮ましろや魔月リリィに追いつくんだろ?」
「…………」
玲奈ちゃんは何も言わない。ただ、オレの腕の中で震えている。
「オレは知ってるよ。誰よりも頑張ってきた玲奈ちゃんの事を。だから言わせてくれ。最後まで頑張れ!みんなが待ってるんだ!」
そう言って、玲奈ちゃんの腕を掴みスタジオの中に入っていく。まだ間に合う。そう信じて一歩を踏み出した。