セラリス・オブ・カラーリー ―赤箱世界冒険譚―   作:ぶーく・ぶくぶく

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見えてるところ

 

「まず、東から見よう」

 

セラリスの言葉に、ダリヤが頷いた。

 

四人は大広間の東側へ寄っていく。

 

とはいえ、いきなり部屋へ踏み込むことはしない。

 

ダリヤが松明を前へ掲げ、出入口の手前から中を照らす。

 

そこには本来あったはずの扉がない。

 

開け放たれた――というより、扉そのものが失われた石造りの出入口だった。

 

「……何もいないように見えます」

 

小さな部屋だった。

 

東と西の壁には、それぞれ扉のなくなった出入口。

 

北側の壁には古びたランプが一つ取り付けられている。

 

室内にはテーブルが一つ。

 

その周囲に椅子が四脚。

 

それだけ。

 

長い間放置されていたらしく、どれも埃を被っている。

 

ミハイルが入口から中を見る。

 

「食堂?」

 

「休憩室みたいなところかもしれませんね」

 

ヴァレリアが答えた。

 

ダリヤは松明を左右へ動かした。

 

テーブルの下。

 

椅子の陰。

 

壁際。

 

暗がり。

 

少なくとも、見える範囲には何もいない。

 

「入ります?」

 

ダリヤが尋ねる。

 

セラリスは少しだけ考えてから、首を横に振った。

 

「まだいい」

 

「調べないんですか?」

 

「調べるよ。でも先に、他の入口から見える範囲を全部確認しよう」

 

一つの部屋へ夢中になっている間に、別の場所から敵が出てくる。

 

ダンジョンでは珍しくもない。

 

まして今いる大広間には、東西と北の三方向がある。

 

「まず地形を知る」

 

セラリスはそう言って、西側へ目を向けた。

 

「次はあっち」

 

四人は再び大広間を横切った。

 

もちろん中央を無造作に歩くのではなく、周囲を警戒しながら。

 

西側の出入口も、扉がなくなっている。

 

ダリヤが同じように手前で止まり。

 

松明だけを少し前へ出した。

 

「……似てますね」

 

確かに。

 

東の部屋とほとんど同じだった。

 

テーブル。

 

四脚の椅子。

 

壁のランプ。

 

そして東西方向に設けられた、扉を失った出入口。

 

違うものがあるとすれば。

 

「あ」

 

ダリヤがテーブルを見る。

 

松明の光を反射して。

 

何かがきらりと光った。

 

「銀食器?」

 

テーブルの上に、何点かの食器が残されている。

 

銀色の皿。

 

杯。

 

あるいは匙のようなもの。

 

ミハイルが思わず一歩進みかけた。

 

「売れそうだな」

 

セラリスの左手がすっと上がった。

 

ミハイルが止まる。

 

「まだ」

 

「……はい」

 

「光る物を見つけた時ほど、先に周囲」

 

セラリスは淡々と言った。

 

――宝物を見つけて真っ直ぐ歩いていく。

 

これもまた、昔から冒険者が死ぬ典型例である。

 

罠。

 

待ち伏せ。

 

ミミック。

 

天井。

 

床。

 

壁。

 

銀食器そのものに何か仕掛けがある場合すらある。

 

幸い。

 

今のところ。

 

何も動かない。

 

「ここも後で調べよう」

 

「分かりました」

 

ダリヤは名残惜しそうに銀食器を一度見てから、松明を大広間へ戻した。

 

最後は北。

 

大広間の正面に残された唯一の扉だ。

 

こちらだけは扉板が健在だった。

 

「じゃあ調べます」

 

ダリヤは松明をヴァレリアへ一時的に預ける。

 

両手を空けると。

 

まず床。

 

扉の枠。

 

蝶番。

 

取っ手。

 

鍵穴。

 

上部。

 

時間をかけて一つずつ確認していく。

 

ミハイルとヴァレリアはその間、左右を警戒。

 

セラリスもハンドアクス+1・リターニングを右手に持ったまま、左手は盾の指輪に任せて空けている。

 

「……罠は、なさそうです」

 

ダリヤが小声で言った。

 

「鍵は?」

 

「掛かってません」

 

セラリスが頷く。

 

「少しだけ開けよう」

 

ダリヤではなく、ミハイルが扉へ手をかける。

 

盾を前へ。

 

身体を扉の真正面から少しずらし。

 

ゆっくり。

 

ぎ……

 

ほんのわずかに開く。

 

何も飛んでこない。

 

もう少し。

 

ぎぃ……。

 

松明の明かりが、その隙間から向こうへ伸びた。

 

「廊下です」

 

ヴァレリアが呟く。

 

扉の向こうは、北へ延びる石造りの廊下だった。

 

そして。

 

「また扉がないですね」

 

ダリヤが覗き込む。

 

廊下の東側。

 

西側。

 

どちらにも出入口がある。

 

だがやはり、扉そのものが失われている。

 

その先は暗い。

 

真正面。

 

廊下の北端にだけ。

 

また一枚。

 

扉が残っていた。

 

ミハイルが小声で言う。

 

「東、西、北……また三方向か」

 

「そうみたいだね」

 

セラリスは答えた。

 

まだ誰も廊下へ足を踏み入れない。

 

まず入口から見えるものだけを見る。

 

敵はいない。

 

少なくとも。

 

見えるところには。

 

ダリヤが松明を持ち直す。

 

「じゃあ次は、廊下の東西を外から確認して……ですか?」

 

セラリスが頷いた。

 

「その前に」

 

「はい?」

 

セラリスは後ろを振り返る。

 

大広間。

 

その向こうの入口。

 

さらに外。

 

退路。

 

まだ確保されている。

 

「今、自分たちがどこまで戻れば外へ出られるか、ちゃんと覚えておいて」

 

三人が振り返った。

 

大広間。

 

巨大な内扉。

 

城門。

 

外。

 

それを頭の中で辿る。

 

「ダンジョンってね」

 

セラリスは北へ続く暗い廊下を見る。

 

「進むほど、帰り道が長くなるから」

 

誰も返事をしなかった。

 

けれど。

 

その言葉の意味は。

 

もう三人とも、少しずつ分かり始めていた。

 

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