千年前の天与呪縛 現代で生存フラグ建築士となる 作:サイセンサイ
藤原の家に天与呪縛の娘が産まれた
そしてすぐに『幽閉』された
何故ならそれは『化け物』だったからだ
その心を知ろうともせずにそう判断された
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「ゴホッ!ゴホッ!」
血が混じる咳き込み、彼女にとってそれは『日常』
虚弱なんて言葉では説明できない生命維持の欠陥、内蔵機能は普通の人間の十分の一も機能しておらず、彼女は体内から常に激痛が迸っている。
何より彼女には『肌色』が存在しなかった
人の肌の色と書いて『肌色』人間ならその色の生き物出会って当然
肌色とは『人間の色』 ならそうでなければ?
『人間の色』がない人間は人間ではないのか?
少なくとも藤原の家ではそうだったらしい
藤原酒子の肌は『焼死体の色』だった
何故それで生きておるのか分からないほどに
母親は命をかけて産んだ娘の異形に気を病んで亡くなった
その肌はわずかな光でも崩れ落ちるほどに弱く
少し動かすだけで生成される薄皮が何度も剥がれ落ちる
少しの間下を向くだけで眼球が垂れてしまう
本来、汗や涙や鼻水として出るはずの水はすべて真っ赤な血液
何もしなくても時間経過で内蔵が重力で下に垂れ落ちる
人間らしいところと言えば四肢があって歯が生えてるだけ
その存在に人の心を向けようとする者はいなかった
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彼女の最も古い記憶、それは座敷牢の隙間から差し出される梅の乗った粥だった。何故生かされていたのか分からない。何の目的があって処分されなかったのか分からない、だけど彼女の中には常に死が渦巻いていた。
内蔵機能の弱さゆえに何もしなければすぐに死ぬ生き物だったから
死にたくない
それは彼女にとって最も古い記憶であり、彼女の脳内を占めていた感情、現状の寂しさも、理不尽への怒りもあったが、それでも彼女が常に考えていたのは『死の回避』が主だった
彼女には天与呪縛で手に入れた『圧倒的な呪力』がある
それで死を回避する方法を模索した
そして『反転術式』を身につけた
誰かに教えを請うたわけではない
そんな他人などいない
『勘』で身につけたのだ
彼女も藤原の血筋だったらしい
『反転術式』を使って何度も自らの肉体を治した。本来なら齢一桁で死ぬはずだったはずの彼女はまず『定められた期限』から脱したのだ。己の力で
だがそこに嬉しさなんてなかった。彼女にあるのは死への恐怖ただそれだけ、『反転術式』を使っての日常でも、時間経過でやってくる肉体の破壊は止められない、いわば『原因療法』が出来ないのだ
生きる以外に希望なんてない そんな日々が続いた
だがそれでも彼女は圧倒的な呪力による『反転術式』で齢60まで生きていた
老人になるまで生きていたのだ
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「死んでおかしくない身体なのに生きてる肉体、蟲の肉体に近いのかと思ってたけどからくりはただの単純な『反転術式』、、、はぁ~期待外れ」
彼女に初めての来客がやって来た
名を『万』というらしい
彼女は自分の構築術式の手本の一つになるのではと思い彼女に会いに来た
「でもその呪力は凄まじいわね、努力で手に入れられるものじゃないわ」
どんな形であれ褒められたのは初めてだった
「『反転術式』を他人に施せるようにしなさい、私の役に立つ、どうせすることなんてないでしょ」
あまりにも不躾な命令、だがそれでも少しだけ心が動かされた気がした
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『万』の助言で反転術式を他者に扱えるようにした。するとある日のこと、家のものが酒子を外に連れ出した。酒子にめいじられたのは『負傷者の治癒』とにかく運ばれてくる負傷者を反転術式で治しまくるのを言い渡された
何が起こっているのかは説明書されなかった
そして大量の負傷者が酒子のところに運ばれてきた
その殆どが何かで『斬られた』ような傷だった
治癒された者たちはすぐにそこを出ていった
感謝の言葉などなかった
そしたら同じ者が同じ傷をつくってまた運ばれてきた
治した 運ばれてきた 治した 運ばれてきた
治した 運ばれてきた 治した 運ばれてきた
治した 運ばれてきた 治した 運ばれてきた
治した 運ばれてきた 治した 運ばれてきた
治した 運ばれてきた 治した 運ばれてきた
一体何度繰り返されただろう。酒子はただ言われるがまま治していた。するとある時から喧騒のような声が聞こえるようになった
「もう撤退すべきだ!」
「もう嫌だ!もう嫌だ!」
「勝てないよあんなの」
「なんで引いてくれないんだよ上は!」
「戦えるからだ戦え!祓え!」
「やつと闘ったほとんどはその場で殺される。だが我々は絶妙な感覚で逃走を成功させている」
「それが何だ!」
「分からないのか!!」
「普通なら逃げるなんてできない!背中を見せてヤツに殺されなかったなんてありえない!」
「我々のことをいつだって殺せるのにそうしない」
「それはなぜだ!」
「弄ばれているのが分からないのか!」
「わざと逃げさせているんだ」
「我々が苦しむ姿を楽しんでいるんだ!」
「我々が治されているのを承知の上で手加減している」
「再び戻ってきてまた地獄に来る苦しみはもう」
「俺は逃げる!逃げるぞ!」
「もう殺されたほうがましだ」
「言い訳をするな!」
「何度も斬られて治されている人間が正気でいられるとでも!」
「もう殆どの術師が心を殺して奴の元へ行っている」
「発狂した者は既に二十を越えている」
「生き地獄だ」
「治されるばっかりに」
「黙れ闘え!」
「お前が戦ってみろよ!」
その喧騒は酒子にも届いたが、彼女が何らかの反応を見せることはなかった
その時が来るまでは
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夏でも感じたことのない『熱さ』がその場に蔓延した
誰かが言った『飽きたんだ』と
誰かが言った『俺たちを苦しめるのに』と
誰かが言った『もう終わりだ』と
目の前に上がったのは見たことないほど巨大な火柱、術ということを差し引いてもあまりにも現実離れしすぎている炎の大きさ、コレがたった一人の存在から繰り出された者だと誰も信じないだろう
圧倒的な破戒 圧倒的な力 圧倒的な理不尽
周辺の人間全員が絶望するなかで
六十まで生きていた女の目に
見たことのない光が指した
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「お前か、術師を何度も治していたのは」
いつの間にか周辺の人間全員が死んでいた。跡形もなく切り刻まれていた。彼女だけが、人の色をしていない彼女だけが、人の形を保って息をしていた。
他の生き物とは別次元の存在
人間の境界から突き出た圧倒的邪悪
究極が形となった理不尽の悪夢
人の腹から生まれながら四本の腕と二つの口は彼の隔絶した異能を形にしているようで誰も理解できない呪いの王に相応しい
呪いの王・両面宿儺
「反転術式だけなら俺以上か」
それは珍しいことだった。両面宿儺が一人の人間に関心を向けるなどよっぽどのことでなければあり得ない。
関心を向けられた理由に【解】と【捌】の斬撃を受けて生き残ったのが理由だろう
両面宿儺はこの場に現れてすぐに周囲一帯に斬撃を飛ばしてその場を血の海とした。それで終わりのはずだったが、藤原酒子の死がつきまとう肉体を六十まで生き永らえさせていた『熟練の反転術式』が酒子の肉体を斬られた側から治していき結果的に酒子だけがその場に人の形を保ったまま生き残っていた
「その姿、天与呪縛か、なるほど」
だが宿儺がこの場にいる以上、彼女に生存の道はないだろう。だが彼女は思いのほか冷静だった。あんなに恐れていた死が目の前にあるのに
そして彼女のとった行動は驚くべきものだった
血まみれの肉体を動かして量の手を地面につけて頭を下げる
そして
「私を、先の『炎』で殺していただけますか」
『炎』での殺害を 自らの焼却を求めた
それにどういう意味を持っていたのか、それは誰にも分からない
ただ邪悪に頭を侵されておかしくなってしまったのかも知れない
自分の呪われた生が終わることにどこか安堵したのかもしれない
呪術に理解があるものとしてその呪術が輝いて見えたのかもしれない
ただ一つわかることは、彼女が生以外で何かを願ったのはこれが初めてということだけ
もしかしたら
そうもしかしたら
普通に死ぬのではなく 『凄い』で死にたい
そんな現代思考の何かに近かったのかもしれない
呪いの王相手にダメで元々の願い
しかしここでも異常が起こった
両面宿儺が思考しているのだ
(こいつの反転術式は間違いなく俺以上、、、先の斬撃を斬られた節から治していった速さ、、、、もしかしたら『竈』の炎を喰らっても生き残るのではないか?)
宿儺が感じているのは『好奇心』だった。他人の願いも尊厳も決死も知ったことではないが、見たことのない未知があの呪いの王の関心を引いたのだ。それは本来絶対に起こり得ない奇跡とも呼べる確率だった
故にその返答は
「よかろう、焼き尽くしてやる、なんなら『縛り』を課してもいいぞ」
呪いの王の返答に彼女は、藤原酒子は、、、
「ちょっと起きなさいよ。着いたわよ『東京』」
「ん?」
「珍しいですね水子先輩が居眠りなんて」
「ショートスリーパーの水子ちゃんでも駅弁をお腹いっぱい食べて電車で揺られたら眠くなるもんでしょ」
「駅弁を四つも食べて動けるのか?」
目を空けてそこに居たのは自分の小姓であり友人である真依、そして学びを同じくする仲間たち
前世では想像すら出来なかった
欲しがるという発想すらなかった
現代に転生して彼女は変わった
生きることの喜びを知った
だからこそ
「それじゃ行きましょうか私の『宝物』さん達」
忘れなかった記憶でやれることをやろうと決めたのだ
ただ1つ
産まれた時から感じる不可解がある
それは
なぜ今世では『天与呪縛』ではないのにこれほどまでに呪力量が多いのか?
才能ではない気がする 勘だが
これだけはどうも分からない
千年前のとある場所
両面宿儺唯一の付き人である裏梅が食事の支度をしていた
そして主である両面宿儺が帰ってきた
手に何かを持って
「なるほど『縛り』を破った罰にはこういうのもあるのか」
「宿儺様?」
「これを調理しろ」
「これは」
「俺の『竈』を生き残った唯一の人間だ」
「!?」
藤原酒子は『竈』の炎を浴びても生きていた
両面宿儺はその後に『領域展開』を発動
その命が尽きるまで斬撃を与えて殺した
炎で殺すという『縛り』を自ら破ったのだ
興味深いものを見せてもらったという関心と
残った肉体がどんな味なのかという好奇心故に
「黄泉に還った奴の魂に俺の呪力の一部が持っていかれた」