ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第九章:地下水道の落とし物と経費削減の魔法
「欠け銅貨亭」の朝は、湯気を立てる温かい麦粥の匂いから始まる。
食堂の隅の定位置で、五人は本日の稼ぎ口について作戦会議を開いていた。
「オーファンの冒険者たちは、相変わらず血の気が多いな。『密輸組織のアジト強襲』だの『山賊団の討伐』だの、武器の修理代や怪我の治療費で赤字になりそうな依頼ばかりだ」
ロロが羊皮紙の束をペラペラとめくりながら、呆れたようにため息をつく。
「何か、私たちに向いている手堅い仕事はなかったの?」
シリアが麦粥をすくいながら尋ねると、ロロは一枚の羊皮紙をテーブルの中央に置いた。
「これさ。王都の地下水道に落とした『商会の金庫』の回収。報酬はなんと銀貨400枚(ガメル)だ」
「地下水道の探索で400ガメル? 破格だな。……裏は何だ?」
ライシンが訝しげに眉をひそめる。
「依頼主の商人が言うには、金庫を落とした区画には『武器を溶かす奇妙な粘液』が棲みついているらしい。オーファンの屈強な戦士たちも、自慢の剣や鎧を溶かされるのを嫌がって、誰も寄り付かないんだとさ」
「なるほど。プライドが高く、高価な武具を愛用するオーファンの傭兵たちにとっては、割に合わない汚れ仕事というわけか」
メリッサが納得したように頷いた。
「だが、俺たちなら話は別だ。戦い方次第で武器の損耗はゼロに抑えられる。この『隙間産業』、ありがたく頂戴しようぜ」
カイルの言葉に全員が同意し、五人は王都の地下へと向かった。
地下水道の追跡
王都の地下に張り巡らされた水道は、ひんやりとした湿気とカビの匂いに満ちていた。
ロロが指輪のコモン・ルーンで明かりを灯し、慎重に歩みを進める。
「シリア、痕跡は追えるか?」
「ええ、任せて。レンジャーの技能なら、石畳に残されたわずかな擦れ跡でも分かるわ。金庫は水流に流されて、この奥の行き止まりに引っかかっているはずよ」
シリアは迷うことなく、迷路のような地下水道を的確に案内していく。
しばらく進むと、水路の奥にある鉄格子の前に、目的の重厚な金属製の金庫が引っかかっているのが見えた。
「よし、あったぞ。罠の有無は俺が……」
ロロが近づこうとしたその時、メリッサが鋭い声で制止した。
「待って! 天井を見て!」
セージとして観察眼を研ぎ澄ませたメリッサの視線の先。暗い天井の石組みに、緑色をした半透明の巨大な粘液の塊がへばりついていた。
「あれは『グリーンスライム』よ! 強い酸性の体を持ち、不用意に金属の武器で斬りつければ、刃があっという間に使い物にならなくなるわ!」
メリッサの的確な魔物知識の共有に、ロロが顔を引きつらせた。
「げっ! 愛用のダガーが溶けたら大赤字じゃないか! ライシン、剣は振るなよ! 絶対に振るなよ!」
「言われなくても分かっている。物理攻撃が非効率なら、魔法で焼却するまでだ」
ライシンは冷静に前へ出ると、マジックブレイドを鞘に収めたまま、静かに精神を集中させた。
魔法と炎の連携
「シリア。物理の飛び道具も矢尻が溶けて無駄になる。炎を使え」
「了解」
カイルがリュックから松明を出し、火を灯す。
「行くわよ!サラマンダーよ力を貸して『ファイャーボルト』」
シリアの放った精霊魔法の火矢が、正確に天井のグリーンスライムの中心に突き刺さった。
「ジュウゥゥッ!」という不快な音と共に、スライムが悶えるように蠢き、天井から石畳へとボトリと落ちる。
「今だ」
ライシンが古代語の呪文を紡ぐ。彼のもう一つの技能、ソーサラーの力が解放される。
「……純粋なる力の矢よ、敵を穿て(エネルギー・ボルト)!」
ライシンの指先から放たれた青白い魔力の矢が、炎上するスライムに直撃した。
物理的な干渉を一切持たない純粋な魔法エネルギーの打撃は、スライムの粘体を内側から激しく弾け飛ばした。
「よし、トドメだ!メリッサ頼むよ」
メリッサは聖印を握り締め、精神を集中していた。
「まかせて。ラーダよ。護身の為の行使をお許しください。『フォース』」
目に見えない衝撃波がスライムに直撃。
酸の粘液は完全に蒸発し、後には乾いた灰のような跡だけが残った。
無傷の帰還
「ふぅ……一時はどうなるかと思ったが、見事な連携だったな」
カイルがほっと息をつく。
「武器の消耗ゼロ、防具の損傷ゼロ。メリッサの事前の警告があったからこそ、完璧な対処ができたわね」
シリアが誇らしげに微笑む。
「金庫にも腐食はない。鍵もしっかりかかったままだ。これなら依頼主も文句は言わないだろう」
ロロが手早く金庫の安全を確認し、布で包んで担ぎ上げた。
「ライシンの魔法とシリアの火矢のおかげで、今回も経費は最小限で済んだ。オーファンの連中が嫌がる仕事こそ、私たちの知恵と連携が最も活きる場所ね」
メリッサが満足そうに頷く。
「ああ。派手な武勇伝にはならないが、俺たちの財布は確実に潤う。さあ、地上に戻って報酬を受け取ろう。今日は少し奮発して、宿の温かいお湯で身体を拭くくらいの経費は認めてやるぞ、ロロ」
ライシンが珍しく冗談めかして言うと、ロロは渋い顔をしながらも「……今回だけだからな」と笑って返した。
オーファンの地下に潜む厄介な魔物も、徹底した事前準備と「絶対に経費を無駄にしない」という彼らの執念の前には、ただの障害物でしかなかった。