ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第十章:オーファン貴族の憂鬱と子守歌
「欠け銅貨亭」の掲示板の前で、五人は一枚の依頼書を囲んで首をひねっていた。
「……王都の高級住宅街にある貴族の屋敷にて、入り込んだ魔物の駆除。報酬は銀貨500枚(ガメル)……」
ロロが依頼書を読み上げ、目を丸くする。
「破格の報酬じゃないか。なんでこんなオイシイ仕事が、誰にも取られずにずっと残ってるんだ?」
「追記を読むと理由がわかるわよ」
メリッサが依頼書の下部を指差した。
「『ただし、屋敷内の美術品・調度品を少しでも破損した場合、報酬は全額没収の上、弁償とする』……なるほどね」
「なるほど。実力主義で血の気の多いオーファンの傭兵たちには、絶対に不可能な依頼というわけだ」
ライシンが腕を組み、納得したように頷く。
「大剣を振り回したり、派手な攻撃魔法を放てば、魔物もろとも高価な壺や絵画が木っ端微塵になる。弁償金を恐れて、腕自慢たちも手を出せないでいるんだろう」
「へっ、力任せにしか動けない連中にはお似合いのジレンマだな。だが、俺たちなら違う」
ロロがニヤリと笑い、カイルの肩を叩く。
「なぁ、吟遊詩人(バード)の出番じゃないか?」
「ああ、おあつらえ向きの舞台だぜ。この『隙間産業』、俺たちの十八番(オハコ)ってやつを見せてやろう」
カイルが背中のリュートをポンと叩き、五人は自信に満ちた足取りで高級住宅街へと向かった。
貴族の屋敷の闖入者
貴族の屋敷の広間は、まさに息を呑むような豪華さだった。
歴史を感じさせる絵画、見事な彫刻、そして床には東方から取り寄せたと思われる高価な陶器の壺がいくつも並べられている。
「こりゃあ凄い。俺のダガーを百本売っても、あの壺一つ買えないぜ」
ロロが感嘆の声を漏らすが、広間の上空からは耳障りな甲高い笑い声が響いていた。
「キキャキャキャッ!」
「ギャハハハッ!」
天井から吊るされた巨大なシャンデリア。そこに群がり、クリスタルガラスの飾りを外しては投げ捨てて遊んでいるのは、コウモリのような羽を持つ小悪魔——グレムリンの五人組だった。
「やっぱりグレムリンね」
メリッサがセージ(賢者)の知識を引いて静かに解説する。
「悪戯好きで、物を壊すのが大好きな厄介な魔物よ。すばしっこくて空を飛ぶから、物理攻撃で仕留めようとすれば、確実に周囲の調度品を巻き込むわ」
「しかもあいつら、俺たちが来たことに気づいて、あからさまにあの壺を狙ってやがる」
カイルが天井を見上げながらリュートを構える。
「落とされる前に決着をつけるぞ。陣形展開。攻撃は一切不要だ、すべて『受け止める』ことに専念しろ」
ライシンの指示が飛ぶと同時に、前衛三人が素早く散開し、広間の調度品をカバーする位置についた。
詩人の調べと完璧な捕獲劇
「キヒィッ!」
グレムリンの一匹が、意地悪な笑みを浮かべながらシャンデリアの飾りを真下にある高価な壺へ向けて落とした。
「させるかよ!」
シーフとして最高峰の敏捷性を誇るロロが地を蹴る。彼は床を滑り込むようにして壺の横へ移動し、クォータースタッフの先端で落下してきた飾りを器用に絡め取り、音もなくキャッチした。
「右からも来るわ!」
シリアが弓を持たずに注意をそらすため、精霊魔法の詠唱を行う。
「精神の精霊レプラコーンよ、注意をそらして!デストラクション(集中妨害)」
グレムリンたちの飛行姿勢がわずかに崩れた。
「今だ、カイル!」
ライシンが叫ぶ。
「任せな! オーファンの夜を彩る、とびきり極上の子守歌だ!」
カイルがリュートの弦を弾き、バード技能の真骨頂である呪歌を響かせる。
『……眠れ、騒がしき夜の精よ。深い森の揺りかごに身を委ね、甘き夢の淵へと沈みゆけ(ララバイ)……』
優しく、そして強力な魔力を帯びた旋律が広間を満たした。
グレムリンの最大の弱点は、精神的な抵抗力が低いことだ。カイルの紡ぐ呪歌の魔力は、小悪魔たちの耳から脳へと直接浸透していく。
「キ、キャ……?」
「……フニャァ……」
空中でバタバタと暴れていたグレムリンたちのまぶたが急に重くなり、パタパタと羽ばたく音が止む。次々と深い眠りに落ちた彼らは、シャンデリアから無防備に落下し始めた。
「落ちてくるぞ! 回収!」
ライシンとロロが広げておいた厚手の麻布を素早く動かし、落下してくるグレムリンたちを次々とトランポリンのように受け止める。
「一、二、三……よし、五匹とも無事に回収完了だ」
床に下ろされた麻布の上で、グレムリンたちはスヤスヤと寝息を立てていた。
広間には傷一つついておらず、高価な壺も絵画も、すべてが無事だった。
隙間産業の勝利
「お見事だ! まさか、指一本触れずに、そして我が家の家宝に傷一つつけずに鎮圧してしまうとは!」
依頼主である男爵が、隠れ潜んでいた廊下の奥から飛び出してきて拍手喝采を送った。
「オーファンの傭兵たちには到底真似できない、緻密で洗練された手腕だ。銀貨500枚、喜んで支払わせてもらおう!」
「ありがとうございます、男爵様。寝ている間に、このまま袋詰めにして森の奥へ捨ててきますので、ご安心を」
ロロが麻袋の紐をきつく縛りながら、ホクホク顔で笑う。
屋敷を出た後、五人は袋を担いで王都の郊外へと歩いていた。
「カイルの呪歌が大活躍だったわね。武器も魔法も使わず、リュートの弦を弾いただけだなんて」
シリアがクスクスと笑う。
「俺の喉と指先のテクニックはタダじゃないけどな。でもまあ、怪我の治療費も武器の修理代もかからない、最高の仕事だったぜ」
カイルがリュートを背負い直して胸を張る。
「血の気は多いが、大味な仕事しかできないオーファンだからこそ、こういう繊細な依頼が手付かずで残る。これぞまさに、我々の『隙間産業』の真骨頂ね」
メリッサが満面の笑みで頷いた。
「ああ。派手な武勇伝は他の連中にくれてやればいい。俺たちはこの調子で、オーファンの裏に落ちている手堅い金貨を根こそぎ拾い集めていくぞ」
ライシンの頼もしい言葉に、夕日に照らされた五人の足取りは一層軽く、そして確かな自信に満ち溢れていた。