ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第十一章:運賃タダの西行と街道の裏かき
剣の国オーファンでの堅実な稼ぎによって、五人の懐はかなり温まっていた。
いつものように「欠け銅貨亭」の食堂で豆のスープをすすっていると、外出していたロロが興奮した面持ちで戻ってきた。
「おい、みんな! とびきりの話を持ってきたぞ。俺たち、オーファンを出るぜ!」
ロロがドンとテーブルに置いたのは、一枚の羊皮紙だった。
「オーファンを出る? ここでの『隙間産業』はかなり順調だったじゃない」
シリアが不思議そうに首を傾げる。
「確かに稼ぎはいいが、この依頼を見てくれ。西部諸国(テン・チルドレン)の一つ、タイデルへ向かう商隊の護衛依頼だ。報酬は銀貨800枚(ガメル)。しかも……『道中の食費および野営の経費は、すべて商会が負担する』とある!」
ロロの鼻息が荒い。
「なるほど。長距離移動にかかる食費や消耗品代が完全に浮く上に、まとまった報酬が手に入るというわけか。相変わらずお前は金に目ざといな」
ライシンが少し呆れながらも、感心したように頷く。
「西部諸国タイデルか。複数の小国がひしめき合うあの地域なら、遺跡の探索から交易品の護衛まで、オーファンとはまた違った幅広い仕事がありそうね」
メリッサがセージの知識を交えて同意する。プリースト技能の向上もあり、長旅での治癒や支援の不安もない。
「それに、新しい街の酒場で歌うのも悪くない。ここらで一つ、活動の幅を広げてみようぜ」
カイルも賛成し、五人はオーファンを離れ、西部諸国タイデルへと旅立つことになった。
商隊の護衛と不自然な倒木
オーファンから西部諸国へと続く街道は、荷馬車が通るには十分な幅があるものの、両脇には鬱蒼とした森が広がっている。
五人が護衛する商隊は、順調に西へと歩みを進めていた。経費削減を至上命題とする彼らは、商隊の用意した干し肉とパンをありがたく頬張っている。
「食費が浮くってのは最高だな。おっ、シリア、その干し肉もう食べないのか? なら俺が……」
「ロロ、静かに」
先頭を歩いていたシリアが、ピタリと足を止めてショートボウに手をかけた。レンジャー技能に磨きをかけた彼女の感覚が、森に潜む微かな異音と臭いを捉えていたのだ。
「前方の道が、太い倒木で塞がれているわ。……でも、不自然ね。風で折れたにしては切り口が新しすぎるし、茂みの奥から油と汗の臭いがする」
「街道を塞ぐ倒木。野盗の古典的な手口だな。馬車が立ち往生したところを、森の両側から弓で射掛ける腹積もりだろう」
ライシンが刀の柄に手をやり、低い声で陣形の展開を指示する。
「待てよ、ライシン。まともにやり合って矢でも受けたら、せっかくの黒字が治療費で飛んでっちまう。ここは俺とカイルの出番だ」
ロロがシーフツールを懐に忍ばせ、カイルと目配せをする。
「ああ、俺たちで森の横から回り込んで、裏をかいてやろう。シリアとメリッサは馬車の影へ。ライシンはわざと目立つ位置で隙を見せてくれ」
カイルの提案に全員が頷き、即席の迎撃作戦が始まった。
裏をかく者たち
街道で立ち往生を装う商隊。ライシンがわざと大げさな身振りで倒木を調べ始めると、案の定、森の茂みから野盗たちが顔を出した。
「へっ、間抜けな護衛どもめ。命が惜しけりゃお宝は全部置いていけ!」
五人の野盗が粗末な剣や弓を構え、茂みから飛び出そうとした——その瞬間。
「おっと、そいつは俺たちの獲物だぜ」
野盗たちの背後にある木の枝から、ロロが音もなく飛び降りた。シーフ技能の身軽さを活かした完全な奇襲。彼の手にあるクォータースタッフが、弓を構えていた野盗の膝裏を正確に打ち据える。
「ぐあッ!?」
「なんだと!? 後ろから……!」
パニックに陥る野盗たち。そこに、もう一つの影が滑り込む。
「よそ見してる暇はないぜ!」
カイルがバックラーで野盗の剣を弾き飛ばし、ショートソードの峰でみぞおちを強打する。シーフの機動力と、前衛の右翼を担ってきた経験を活かした、一切の無駄がない制圧劇だった。
「前衛が崩れたわ! 逃がさない!」
シリアが馬車の陰から身を乗り出し、矢を放つ。鋭い風切り音と共に飛んだ矢は、野盗のリーダー格が持っていた剣の柄を正確に弾き飛ばした。
「ひっ……!」
「武器を持たぬ者に危害は加えない。大人しく縄をかけられろ」
いつの間にか間合いを詰めていたライシンが、魔法を行使した。
「万物の根源たるマナよ、眠りをもたらす雲となれ『スリーブ・クラウド』」
ライシンの魔法により野盗たちは完全に意識を喪失し、眠りについた。
タイデルの風
「よし、全員縛り上げたわ。街道の巡回兵に引き渡せば、ちょっとした賞金にもなるかもしれないわね」
メリッサがロープの結び目を確認しながら微笑む。
「武器の消耗ゼロ、そして誰も怪我をしていない。完璧な経費削減作戦だったな」
カイルが野盗から回収した粗末な武器をまとめながら笑う。
「おまけに商隊の主人から、怪我人を出さずに素早く片付けたってんで、特別ボーナスまでもらえそうだ。西への旅は、最高の滑り出しだな!」
ロロがガッツポーズを見せる。
数日後、商隊と五人の冒険者たちは、無事にタイデルの国境を越えた。
オーファンのような無骨な軍事国家とは異なる、商人や職人、そして様々な思惑が交差する西部諸国の風が、彼らの前髪を揺らす。
「さあ、着いたぞ。西部諸国タイデルだ。ここでも俺たちの『堅実で無駄のない働き』を見せつけてやろうぜ」
ライシンの言葉に全員が力強く頷き、五人は新たな都市の門をくぐっていった。