ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第十三章:裏帳簿の奪還と『匂い』の追跡
「使い込まれた算盤亭」での初めての朝。
オプションの銅貨3枚を支払い、温かい麦粥と硬いパンの朝食を済ませた五人は、さっそく仕事を探すべくタイデルの街へと繰り出そうとしていた。
「よし、まずは宿の親父……じゃなくて女将さんに、割のいい依頼先を聞いてみるか」
ロロがそう言いかけた時、宿の扉が静かに開き、身なりの良い初老の男が店に入ってきた。仕立ての良い絹の服を着ているが、その表情には深い疲労と焦燥が滲んでいる。
男は女将と二言三言言葉を交わすと、彼女が指差したライシンたちのテーブルへとまっすぐ歩み寄ってきた。
「君たちが、オーファンから来たという堅実な冒険者だね。女将から『頭が回り、計算ができる連中だ』と推薦された。私は商人ギルドの理事を務める、バルコスという者だ」
男は深く頭を下げ、一枚の羊皮紙をテーブルに置いた。
「商人ギルドの理事様が、直々に冒険者の宿へ依頼の手渡しとはな。よほどの極秘任務と見える」
ライシンが警戒の色を緩めずに問う。
「その通りだ。実は……ギルドの金庫から『裏帳簿』が盗まれた。公になれば、複数の大商人が破滅する代物だ。報酬は前払いで銀貨200枚、無事に取り戻せれば追加で金貨10枚(1000ガメル)を支払おう」
提示された破格の報酬に、ロロの目が$マークのように輝いた。
「金貨10枚……! タイデルでの生活費が数年分浮くぞ! で、その帳簿を盗んだのはどこのどいつだ?」
「実行犯は、この街の裏社会を牛耳る『タイデル盗賊ギルド』の末端だろう。だが、背後には私を蹴落とそうとする別の派閥の商人がいるはずだ。頼む、表沙汰にせず、血を見ることもなく帳簿を取り戻してほしい」
「なるほど。衛兵も動かせず、武闘派の傭兵に頼めば大立ち回りになって帳簿が燃えるか、最悪の場合、帳簿の中身を見られて強請(ゆす)られる可能性があるわけね」
メリッサがセージの知識から、依頼主のジレンマを的確に指摘する。
「その通りだ。君たちのように、無駄な血を流さず、口の堅いプロフェッショナルが必要なのだ」
「お安い御用だ。俺たち『欠け銅貨亭』……いや、タイデルの『使い込まれた算盤亭』の五人が、きっちり経費ゼロで帳簿を取り戻してやるぜ」
カイルが胸を張り、依頼は成立した。
香草の匂いと追跡劇
「さて、盗難現場であるギルドの金庫室は見せてもらったが、見事に足跡一つ残っていなかったな」
タイデルの裏路地を歩きながら、ロロが腕を組む。
「さすがは本場の盗賊ギルドね。オーファンの野盗とは技術が違うわ。でも……」
シリアが鼻をヒクつかせ、目を閉じて深く息を吸い込む。
「……彼ら、一つのミスを犯しているわ。金庫室に残っていた『匂い』よ。金庫室の床には、微かに『乾燥させた水ムチ草』の匂いが落ちていたわ」
「水ムチ草? 確か、運河の船底につくフジツボを剥がすのに使う、独特の臭気を持つ香草ね。タイデルならではの品だわ」
メリッサの解説に、シリアが頷く。
「ええ。水ムチ草はその独特な香草の匂いを放つとき熱を発するの。精霊使い(シャーマン)のインフラビジョン(赤外視)なら、この雑多な街の中からも、辿れるわ。……こっちよ」
シリアは迷うことなく、運河沿いの薄暗い倉庫街へと足を向けた。
「さすがシリアだ。これなら密偵の真似事にかかる調査費も浮くぜ」
ロロがホクホク顔で後に続く。
倉庫街の攻防
匂いを辿り、五人が行き着いたのは運河沿いの古い第十二倉庫だった。
入り口には屈強な見張りが二人立っており、周囲には油断のない空気が漂っている。
「見張りは二人。裏口は鍵がかかっているな」
建物の陰から様子を窺い、ライシンが状況を分析する。
「力押しで突破すれば騒ぎになる。依頼主の『表沙汰にしない』という条件に反するな」
「ここは俺の出番だ。バードの呪歌で眠らせるか?」
カイルがリュートに手を伸ばすが、メリッサがそれを制止した。
「待って。見張りの首元を見て。銀色の小さな護符が光っているわ。あれは『精神抵抗力を高める護符』よ。盗賊ギルドの連中も、魔法対策は怠っていないみたいね。呪歌を弾かれて騒がれるリスクがあるわ」
「厄介な連中だぜ。なら、どうする?」
「……『注意を引く』だけでいい。帳簿さえ奪還できれば、あいつらを倒す必要はないんだ」
ロロがニヤリと笑い、自分の鞄から小瓶を取り出した。中には、酒場で小銭を払って譲ってもらった『度数の高い安酒』が入っている。
「シリア、あそこの木箱の裏にこれを撃ち込んでくれ」
ロロが小瓶に火のついた布を詰め込み、即席の火炎瓶を作る。
「了解よ。……任せて」
シリアが微風の中、軌道を安定させ、ショートボウで火炎瓶を正確に見張りの背後、少し離れた木箱の陰へと射出する。
ガシャン! ボワッ!
「な、なんだ!? 火事か!?」
「くそっ、見回りに行け!」
炎と煙に驚いた見張り二人が、持ち場を離れて木箱の方へ駆け出した。
「今だ!」
ライシンが短く指示を出す。
見張りが離れた数秒の隙を突き、ロロがシーフの神速で扉の鍵をピッキングで解除。五人は音もなく倉庫の中へと滑り込んだ。
「よし、侵入成功だ。さあ、裏帳簿のお宝探しと行こうぜ」
薄暗い倉庫の中で、カイルが静かに笑みを浮かべた。