ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第十四章:無音の隠密行と忍び寄る足音
薄暗い第十二倉庫の内部は、荷積みされた樽や木箱が巨大な影の迷宮を作り出していた。外の火事騒ぎに誘い出された見張りの隙を突き、扉の隙間から滑り込んだ五人は、息を殺して影と同化する。
「……シリア、中の気配は?」
ライシンが唇の動きだけで問いかける。
「奥の部屋に二人、カード賭博をやっている気配がするわ。酒の匂いとサイコロの音が聞こえる」
シリアが耳を澄ませ、微かな息遣いまで聞き分ける。レンジャー技能による精密な索敵が、暗闇の中の敵の配置を完全に網羅していた。
「奥の事務室ね。盗賊ギルドが奪った戦利品を集積し、帳簿をつけるならあそこ以外にないわ」
メリッサがセージの知見から、雑然とした倉庫の構造を一瞬で見抜く。
五人はシーフのロロとカイルを先頭に、爪先立ちで足音を消しながら奥の部屋へと接近した。部屋の扉には頑丈な鉄の南京錠がかけられていたが、ロロにとっては児戯に等しかった。シーフツールから取り出した細い金属棒を差し込み、わずか五秒。カチリ、と小さな金属音が暗闇に溶ける。
部屋の中に侵入すると、机の上には散らかった書類と、厳重に施錠された小さな鉄の小箱があった。
「これだ……商人ギルドの裏帳簿」
ロロが箱の浮き彫りを確認し、ニヤリと笑う。ふたたび指先を滑らせ、仕掛けられた毒針のトラップをあっさりと無力化しながら開錠してみせた。
「よし、帳簿回収完了だ。撤収するぞ」
ライシンが合図を出した、その時だった。
「おい、表の火事は大したことなさそうだぞ! 戻って酒の続きをやろうぜ」
廊下の向こうから、外に出ていた見張りたちの足音が近づいてくる。戻り道は一本道。このままでは狭い通路で鉢合わせになり、大立ち回りは避けられない。
「戦ったら全額没収どころか大赤字だぜ! 逃げ道は!?」
カイルが焦りを見せずに囁く。
シリアが精霊に語りかける。
「シルフ、風の通り道を教えて……精霊感知(センス・オーラ)」
シリアが微かな風の流れをつかむ。
「天井の通気用小窓よ」
シーフとしての身軽さを併せ持つロロとカイルが先に小窓へ滑り込み、ロープを下ろして残りの三人を無音で引っ張り上げた。
見張りたちが部屋の扉を開けた瞬間、五人はすでに屋根の上へと抜け出していた。部屋の中に残されたのは、開け放たれた空の小箱と、仕掛けを解除した際に残ったわずかな金属片だけである。
「……消えた!? 嘘だろ、鍵はかかってたはずだぞ!?」
階下から聞こえる見張りたちのパニックの声を背に、五人は夜の屋根を渡り、闇の中に消えていった。
「怪我人ゼロ、交戦ゼロ、矢の消費もゼロ! 完全なる全額利益達成だ!」
「使い込まれた算盤亭」へ戻る道中、ロロが懐の裏帳簿を抱きしめ、満面の笑みを浮かべた。
「敵に見つかることもなく、手厚い報酬を手に入れた。まさに私たちの理想的な仕事ね」
メリッサが満足そうに頷く。
「ああ。これで依頼主からの信頼も得られるし、金貨10枚も手に入る。タイデルでの『隙間産業』も、最高のスタートを切れたな」
ライシンの言葉に全員が深く頷き、夜風に吹かれながら足取り軽く宿へと向かった。