ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第十五章:裏社会の仲裁役と利益分配の算段
タイデルでの生活にも慣れ始めた頃、「使い込まれた算盤亭」で遅めの昼食をとっていた五人の席に、見覚えの無い顔が近づいてきた。
「タイデル盗賊ギルド」の中堅幹部、バーツと名乗る男だった。
「裏帳簿の件では、うちのギルドも一杯食わされたよ。だが、君たちの『血を流さずに仕事を完遂する手腕』は高く評価している」
バーツは周囲を気にしながら、声を潜めて切り出した。
「ギルドの幹部様が、わざわざ恨み言を言いに来たわけじゃなさそうだな」
ライシンが麦酒のジョッキを置き、鋭い視線を向ける。
「ああ、今日は依頼を持ってきた。実は、うちの下っ端の二つの派閥が、新しくできた『南運河通り』のスリの縄張りを巡って揉めているんだ」
バーツがため息をつく。
「馬鹿な若手どもが抗争でも起こせば、衛兵が動いて商売あがったりだ。かといって、俺たち幹部が力で押さえつければ、不満が残って後々厄介なことになる。そこで、実力がありながら中立の立場である君たちに、上手く『仲裁』をしてほしい。報酬は銀貨300枚(ガメル)だ」
「なるほど、ギルド内の小競り合いを外部の人間を使って角を立てずに収めたいわけか。いいだろう、その『隙間産業』、俺たちが引き受けた」
ロロが銀貨300枚という言葉に即答し、商談は成立した。
南運河通りの利権
指定された人気のない廃倉庫に赴くと、そこには十代後半から二十代前半の若い盗賊たちが、二つのグループに分かれて睨み合っていた。
「南運河通りは俺たち『黒猫党』が先に見つけたシマだ! お前ら『泥犬一家』はすっこんでろ!」
「うるせぇ! あそこは獲物が多いんだ、俺たちにも場所代を寄越せ!」
今にもナイフを抜きそうな一触即発の空気。
そこへ、五人が静かに足を踏み入れた。
「やめな。お前らがここで殺し合っても、衛兵に捕まって首が飛ぶだけだぜ」
カイルが前に出て、バード技能のよく通る声で場を制する。
「なんだテメェらは! 幹部が雇ったよそ者が、偉そうに仕切るんじゃ……!」
泥犬一家のリーダー格の男が激高し、腰のダガーに手をかけた瞬間だった。
「……抜くなら、それなりの覚悟をしろよ」
ライシンが男の目の前に音もなく立ち塞がっていた。刀は鞘に収まったままだが、ファイターとして幾多の死線を潜り抜けてきた彼の放つ『威圧感』は、歴戦の傭兵のそれに等しい。
圧倒的な実力差を肌で感じ取った若者たちは、顔を引きつらせてダガーから手を離した。
「力関係は理解したようね。なら、次は頭を使いなさい」
メリッサがセージとしての冷静な声音で告げる。
「あなたたちが揉めている南運河通り。あそこは昼と夜で、歩いている人間の層が全く違うわ」
「層が違う……?」
「その通りだ!」
ロロが待ってましたとばかりに前に進み出る。将来自分の商会を持つことを夢見るロロにとって、この手の『市場分析』はお手の物だった。
「昼間、あの通りを歩いているのは、香辛料や絹を買いに来る金持ちの商人や奥様方だ。ここでは、人混みに紛れて財布を抜く『スリの技術』が要る。お前たち黒猫党は身軽で手先が器用だ。昼の時間は黒猫党が仕切れ」
「な、なら俺たちはどうなる!」
泥犬一家の男が食ってかかる。
「お前ら泥犬一家は体格が良くて、腕っぷしがありそうじゃないか。なら、夜だ」
ロロが自信満々に指を突きつける。
「夜になれば、あの通りには娼館や酒場目当ての酔っ払いの傭兵や船乗りが溢れる。あいつらから財布を巻き上げるのは、繊細なスリの手技より、路地裏に引きずり込む『腕力と凄み』だ。夜の時間は泥犬一家が仕切れ」
「場所(空間)で分けるから揉めるのよ。時間で棲み分けをすれば、お互いの得意分野を活かして、今の倍は効率よく稼げるはずよ」
メリッサの理路整然とした説明に、二つのグループの若者たちはポカンと口を開けた。
「……なるほど。昼と夜で客の層が違うなら、獲物も被らねぇ」
「確かに、俺たちは酔っ払いの相手は得意だ……」
「そういうことだ。お互いに無駄な血を流すより、きっちり稼いで美味い酒を飲んだ方が建設的だろう?」
カイルが人懐っこい笑顔で二人のリーダーの肩を叩くと、彼らは毒気を抜かれたように頷き合った。
口先だけの錬金術
「見事な手際だった。まさか言葉一つで、あいつらを納得させてしまうとはな」
倉庫の陰で一部始終を見ていたバーツが、感心したように銀貨300枚の入った袋をロロに手渡した。
「荒事はコストがかかるからな。お互い、利益を最大化する道を探るのが一番の解決策ってことさ」
ロロが皮袋の重さを確かめ、満面の笑みを浮かべる。
「あいつら、明日からは昼と夜で入れ替わりながら、真面目に(?)スリと引ったくりに精を出すんでしょうね」
シリアが呆れたように小さく笑う。
「悪党は悪党だが、タイデルの裏社会の秩序が保たれたなら、依頼としては満点だ。何より……」
ライシンが歩き出しながら、仲間たちを振り返る。
「武器の消耗ゼロ、魔法の行使ゼロ。今回はついに『口先だけ』で銀貨300枚を稼ぎ出した。経費削減もついに極まったな」
「わっはっは! まさに最強の錬金術だぜ! 今日は宿の女将さんに頼んで、夕食に少しだけ肉を追加してもらおう!」
ロロの明るい声がタイデルの夕暮れの路地に響く。
剣の国オーファンから商業都市タイデルへと舞台を移しても、五人の「怪我なく確実な日銭を稼ぐ」という冒険のスタンスは、決してブレることはなかった。