ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚 作:シットライヌ
第十六章:運河の清掃任務と『名無しの五人組』
西部諸国タイデルでの生活にもすっかり馴染んだ五人。
ある日の午後、「使い込まれた算盤亭」の食堂で、彼らは商人ギルドから斡旋された地味な依頼書を前に作戦会議を開いていた。
「……タイデル南区の旧運河に異常発生した『マッドクラブ』の駆除、および水路に詰まった漂流物の撤去。報酬は銀貨250枚(ガメル)。さらに、駆除したカニは持ち帰り自由で、市場で売れば副収入になる、か」
ロロが羊皮紙を読み上げ、満足そうに頷く。
「またしても泥臭い仕事ね。オーファンの傭兵なら見向きもしないでしょうけど」
シリアが呆れたように言うが、その声に不満はない。
「タイデルの傭兵や冒険者たちも同じだ。彼らは商人や貴族の『華やかな護衛任務』ばかりを好むから、こういう下水や泥にまみれる汚れ仕事は常に放置されている。まさに俺たちの独壇場だ」
ライシンが麦酒のジョッキを傾けながら、冷静に分析する。
「それに、マッドクラブの甲殻は硬いけれど、動きは遅いし知能も低いわ。魔法を使わずに物理攻撃だけで十分に処理できるから、経費削減にはうってつけの相手よ」
メリッサがセージ(Lv2)の知識を交えて同意する。
「よし、決まりだな。夕飯はカニ鍋だ! 頑張って稼ぐぞ!」
カイルがリュートを背負い、五人は南区の旧運河へと向かった。
泥まみれの防衛戦
旧運河はヘドロが堆積し、酷い悪臭を放っていた。
そしてその泥の中から、犬ほどの大きさがある巨大な泥蟹——マッドクラブが十数匹、泡を吹きながらワラワラと這い出してきている。
「うわっ、予想以上に数が多いわね!」
シリアがショートボウを構え、顔をしかめる。
「数は多いが、統率が取れていない。俺とライシンで壁を作る。シリアとカイルは後方から支援、メリッサは全体の指揮と回復に専念してくれ!」
ロロが叫び、クォータースタッフを構えて泥の中へ踏み込む。
「ギャキィィッ!」
マッドクラブの群れが、巨大なハサミを振り上げて迫る。
「……遅い」
ライシンが刀を抜き放つ。ファイター(Lv2)の洗練された動きは、泥の足場をもろともしない。彼はカニの硬い甲羅を避け、関節の柔らかい部分を正確に斬り裂いていく。
「そらっ、こっちだ!」
ロロがクォータースタッフでカニのハサミを弾き返し、カイルがバックラーで死角からの攻撃を完全に防ぐ。
「右舷、三匹追加よ!」
メリッサの的確な指示を受け、シリアが矢を放つ。放たれた矢は、カニの突出した眼球を正確に射抜いた。
魔法を一切使わず、武器の損耗も最小限に抑える徹底した連携。泥にまみれながらも、五人は約一時間にわたる地道な作業の末、すべてのマッドクラブを駆除し、運河の詰まりを解消することに成功した。
二つ名の誕生
「ふぅ……終わったぜ。俺のソフトレザーが泥だらけだ」
カイルが水路の綺麗な水で防具の泥を洗い落としながら苦笑する。
そこへ、依頼主である商人ギルドの職員と、旧運河周辺の住民たちが様子を見にやってきた。
「おお、なんという見事な手際! 魔法も派手な剣技も使わず、あれほどの数のカニを的確に処理するとは! 街の衛兵たちでもこうはいきません!」
ギルドの職員が感嘆の声を上げる。
「ありがとうございます。これで運河の詰まりも解消されました。カニは約束通り、市場で売らせてもらいますよ」
ロロがちゃっかりと交渉し、住民たちも感謝の言葉を口にする。
「本当に助かったよ。あんたたち、腕の立つ冒険者なんだろう? タイデルじゃ見ない顔だが、なんていう名前のパーティなんだい?」
一人の老人が尋ねてきた。
「名前……?」
五人は顔を見合わせた。これまで「怪我なく確実な日銭を稼ぐ」ことだけを目的としてきた彼らは、パーティ名を名乗るなどという英雄的な振る舞いとは無縁だったのだ。
「ええと……特に名前はないんですが……」
カイルが頭を掻きながら答えると、老人は不思議そうな顔をした。
「そりゃあいかん。これだけの手練れなら、名前の一つもないと依頼する側も不便だろう。そうだな……あんたたちの戦いぶり、まるで『無駄な装飾を削ぎ落とした、使い込まれた銀貨』のようだった。堅実で、確かに価値がある」
「使い込まれた銀貨……」
ライシンがその言葉を呟く。
「オーファンで拠点にしていた『欠け銅貨亭』から始まり、タイデルでは『使い込まれた算盤亭』。そして私たちは、無駄な経費を削ぎ落とし、泥臭く堅実に稼いできた」
メリッサがクスリと笑う。
「悪くないわね。派手な英雄の名前より、ずっと私たちに似合ってるわ」
シリアも同意するように頷く。
「よし、決まりだ!」
ロロが住民たちに向かって胸を張った。
「俺たちは今日から『擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊』だ! 泥仕事から罠の解除まで、無駄なく確実な仕事をお約束するぜ!」
「擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊」——それは、英雄的な手柄を求めず、ただ堅実に、そして確実に依頼を遂行する彼らの生き様を完璧に表した二つ名であった。
夕暮れの市場で、駆除したマッドクラブを大量に売り捌き、銀貨の入った重い袋を鳴らしながら、彼らは「使い込まれた算盤亭」への帰路についた。
「さて、タイデルでの仕事もひと段落し、懐も十分に温まった。そろそろ潮時かもしれないな」
ライシンが夕焼け空を見上げて呟く。
「ええ。西部諸国にはまだ多くの街があるわ。次は南の都市国家『ベルダイン』なんてどうかしら? 遺跡が多く、新しい仕事の匂いがするわ」
メリッサの提案に、全員が力強く頷いた。
「擦り減り銀貨(スクラップ・シルバー)隊」、彼らの堅実な冒険は、次なる舞台ベルダインへと続いていく。
依頼はこなしていますが、まともに戦闘しないので技能レベルが上がらないという解釈でストーリーを進めています。また、レベルの上限は5レベルまでの予定です。理由はそれ以上だと平凡な冒険者の冒険譚ではなくなるからです。