ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚   作:シットライヌ

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第一章:銀貨数枚の命がけ

第一章:銀貨数枚の命がけ

 

魔法の国、ラムリアース。その広大な平原の端に位置する小さな街道沿いの宿場町で、五人の若き冒険者たちは木樽をひっくり返したような安テーブルを囲んでいた。

 

彼らの前に置かれているのは、数枚の銀貨と大量の銅貨、そして羊皮紙に書かれた一枚の依頼書である。

 

「報酬は銀貨にして全部で150枚(ガメル)。経費を引いて五等分すれば、一人頭30ガメルといったところか」

 

商人を自称する小柄な青年、ロロがため息交じりに硬貨を指先で弾いた。彼の主な生業は盗賊(シーフ)としての技術だが、本人曰く「あくまで商売のための交渉術と危機管理」らしい。その言葉を裏付けるように、彼の指先には微弱な魔力を宿すコモンルーンの指輪が一つ光っている。手元に置かれたクォータースタッフは、使い込まれて鈍い光沢を放っていた。

 

「宿代と当面の保存食、それにシリアの矢の補充を考えたら、手元に残るのは本当に僅かね」

 

知識神ラーダの聖印を首から下げた賢者、メリッサが冷静に計算を弾き出す。腰に提げたライトメイスは護身用以上の意味を持たないが、彼女の真の武器はその豊富な知識(セージ)と、神聖魔法(プリースト)による癒やしの力だ。

 

「贅沢は言えねぇさ。俺たちみたいな駆け出しに回ってくる仕事なんて、どぶさらいか、良くて街道のゴブリン退治くらいのもんだろ」

 

吟遊詩人のカイルが、腰のショートソードと小さなバックラーの位置を直しなら肩をすくめた。彼は盗賊の心得(シーフ)も多少あるため、ロロと組んでの斥候役もこなす。

 

依頼の内容は、まさにカイルの言う通り「ゴブリン退治」と「奪われた荷の奪還」だった。数日前、街道を通っていた行商人がゴブリンの小集団に襲われ、売り物の麻布や日用品を積んだ荷車ごと奪われた。ゴブリンたちは近くの森にある「古代王国の見張り塔跡」をねぐらにしているらしい。

 

「相手がゴブリン数匹なら、私たちの手に余る相手じゃないわ。森の地形なら私が有利に動けるし」

 

ラムリアース出身で森林衛士候補(レンジャー)だったシリアがショートボウの弦の張りを確かめながら言った。彼女は精霊使い(シャーマン)でもあり、自然の中での活動において右に出る者はいない。

 

「……油断は禁物だ。一撃でも急所をもらえば、俺たちは簡単に死ぬ」

 

今まで黙って腕を組んでいた男が、低い声で呟いた。 イーストエンド島出身の魔法戦士、ライシンである。彼の腰には、アレクラスト大陸では見慣れない反りのある刀剣——『マジックブレイド』が帯びられていた。それは単なる斬撃の武器ではなく、古代語魔法(ソーサラー)を行使するための発動体としての役割も果たすイーストエンド島の特注品だ。

 

「わかってるって、ライシン。だから真正面から突撃なんて馬鹿な真似はしない。知恵を絞って、確実に生きて帰るんだ」 ロロがニヤリと笑い、依頼書を丸めて懐にしまった。 「さあ、日銭を稼ぎに行こうぜ」

 

古代遺跡の影

 

ラムリアースの平原から森へと足を踏み入れると、空気が一段と冷たくなった。 先頭を進むのはシリアとロロの二人。シリアが野生動物や魔物の痕跡(トラック)を探り、ロロが罠や人工的な危険に目を光らせる。その後ろを、ライシン、メリッサ、カイルが慎重な足取りで続く。

 

「……足跡があるわ。小さいのが複数。それに、車輪の跡も。間違いない、ここを通ってる」 シリアが地面のわずかな窪みを指差して囁いた。

 

「見張り塔跡はこのすぐ先だ。カイル、歌はなしだぞ。足音も殺せ」 ロロの指示に、カイルは無言で頷き、ショートソードの柄に手をかけた。

 

木々の切れ間から、崩れかけた石造りの塔が見えてきた。古代カストゥール王国時代に建てられたというその遺跡は、今や蔦に覆われ、魔物たちの格好の住処となっている。塔の入り口付近には、奪われた荷車が無残に壊され、放置されていた。

 

「入り口に見張りが二匹。錆びた槍を持ってる」 茂みに身を潜め、ロロが状況を報告する。 「奥に何匹いるかはわからないが、まずはあの見張りを音を立てずに始末したい」

 

「私が射るわ」 シリアがショートボウを構え、矢をつがえた。 「でも、一撃で二匹同時に倒すのは無理よ。一匹を射抜いても、もう一匹に鳴かれたら奥から仲間が飛び出してくる」

 

「なら、もう一匹は俺がやる」 ライシンが音もなくマジックブレイドの柄に手をかけた。 「……遺失魔法を使う。距離が少しあるが、届くはずだ」

 

「ライシン、精神力の無駄遣いじゃないの? まだ奥に何匹いるかわからないのに」 メリッサが眉をひそめる。ライシンは戦士としての訓練も積んでいるが、魔術師としての技量はまだ初歩の段階だ。行使できる魔法の回数はごく限られている。

 

「ここで騒ぎを起こして大群に囲まれるよりは安い対価だ。それに、俺の『リープ・スラッシュ』なら音も立てずに斬り伏せられる」 ライシンの決意は固かった。

 

「……わかったわ。合わせるわよ」 シリアが深く息を吐き、狙いを定める。ライシンもまた、刀の柄を握りしめ、古代語の呪文を静かに、しかし流れるように紡ぎ始めた。

 

「……我は刃に魔を宿す者。空間を断ち、遠き敵を討て(リープ・スラッシュ)……!」

 

シリアの放った矢が風を切り、右側のゴブリンの喉笛を正確に貫いた。 同時に、ライシンが鞘からマジックブレイドを鋭く抜き放つ。彼が虚空を一閃すると、刃から放たれた目に見えない真空の刃が、十数メートル離れた左側のゴブリンの胴体を真横から薙ぎ払った。

 

「ギャ……ッ!?」 悲鳴を上げる間もなく、二匹のゴブリンは崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。

 

「よし、完璧だ。二人ともお見事」 ロロが安堵の息を漏らす。カイルも小さく親指を立てた。

 

「無駄口を叩いている暇はないわ。血の匂いで奥の連中が気づく前に、中へ入りましょう」 メリッサがラーダの聖印を握りしめながら促す。

 

ライシンは刀を静かに鞘に収め、薄暗い塔の入り口を見据えた。 「行くぞ。罠がないか、ロロ、カイル、頼む」

 

英雄譚に語られるような派手な魔法の応酬も、圧倒的な武力による蹂躙もない。あるのは、己の持ち得るわずかな手札を最大限に活かし、緻密な計算と連携で死地を切り抜けるという、ひたすらに地味で堅実な冒険の姿だった。

 

五人の冒険者たちは、日銭と明日の命を繋ぐため、暗い遺跡の奥へと足を踏み入れていった。

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